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スポーツマネジメントの極意

女子卓球界にささげた30年の答え!目標から逆算して導く勝利の方程式

卓球Tリーグ 日本生命レッドエルフ 総監督 村上恭和【前編】

1954年創部で60年以上の伝統を誇る、日本生命女子卓球部。長らく日本卓球リーグをけん引し、現在は2018年10月に開幕した「Tリーグ」に、日本生命レッドエルフとして参戦している。チームを率いる総監督は、卓球女子日本代表の元監督でもある村上恭和氏。記念すべきTリーグ1年目のレギュラーシーズンが終了したタイミングで、初年度の総括をはじめ、これまでのチームづくりの歩みを振り返ってもらった。

トップ2に入るためのプロセスを具体的にシミュレーション

昨年開幕した、新たな卓球リーグ「Tリーグ」。初年度のレギュラーシーズンには男女それぞれ4チームが参戦し、団体戦方式で7回戦総当たり、各チームが21試合を戦った。その中で、村上氏が率いる日本生命レッドエルフは2位でフィニッシュ。見事プレーオフへの進出を果たした。

この素晴らしい結果にたどり着くために、村上氏はスタート時から綿密な計画を練ったという。開幕前に村上氏が作成した計画表には、シーズン中の1試合ごとに出場選手とスコア予想が細かく、具体的に記されていた。

「初年度の目標はトップ2に入ること。その実現のためには、全21試合中、13勝すれば2位になれる計算でした。そこで、目標を『最低でも13勝8敗』に設定し、そのために誰をどこで使うか、出場選手の調整を図りました」

「観客動員数や試合内容も上々で、Tリーグは良いスタートを切れた」と村上氏

日本生命レッドエルフの登録選手9名の中には、日本のトップレベルを走る平野美宇選手や早田ひな選手がいる。当然、彼女らの起用がキーポイントになった。

「平野選手も早田選手も、10~3月のレギュラーシーズンと並行して、国際試合にも出場します。そういった中で、なるべく最低どちらか1人はTリーグの試合に出場し、13勝の目標に貢献できるようスケジューリングに注力しました」

果たして結果は、シーズン13勝8敗。細かい試合内容も含め、ほぼ村上氏が予想した通りになった。そして、日本のトップレベルである石川佳純選手を有し、今季リーグ1位に輝いた「木下アビエル神奈川」とのプレーオフ。2勝2敗で迎えた最終戦で早田ひな選手が袁 雪嬌(エン・シュエジャオ)選手に勝利し、日本生命レッドエルフは見事Tリーグ初代シーズンチャンピオンに輝いた。

想定通りのレギュラーシーズン2位通過と最終的な優勝。団体戦においては、個々選手のスキルの高さはもちろんだが、誰をいつどのように起用するかが、チームを勝利に導くためのカギになることは言うまでもない。その采配を周到に計画し、実行することこそ、総監督の重要な役回りなのだろう。

6年かけてチームを変え、上昇気流に乗せる

村上氏が日本生命女子卓球部の監督に就任したのは、1990年のこと。そこから実に30年近く、同チームを率いてきた。しかも、就任当時は日本卓球リーグ8チーム中6位という成績だったところから、1996年に日本一になって以来、常勝チームとして君臨し続けるチームに育て上げたのだ。

「当初、日本生命女子卓球部は、決して強くもなければ、認知度が高いチームとも言えませんでした。それでも私は、『6年後にはチームを1位にする』と明言し、監督としてのスタートを切ったのです。このチームを変えるのには6年かかる。逆に言えば、6年の時間をもらえれば、必ずチームを一新できると考えたのです」

大阪府貝塚市にある日本生命レッドエルフの練習場の壁面には前田美優選手や森さくら選手ら所属選手の活躍を納めた写真が並ぶ

最下位に転落することもなければ、上位に食い込むこともなく、長年安定の6位をキープしていたという同チーム。そんな状況下での“1位宣言”は、恐らくとても大胆なものだっただろう。

当時は、関東の大学チームがトップクラスであり、将来有望な選手の多くは高校を卒業すると、それら大学の強豪チームに所属。大学卒業後は流れのまま、OBが多く所属する企業チームに入るというのが常だった。

そうした中で、まず村上氏が取り組んだのが、その流れに切り込むこと。強豪高校を訪問しては、将来有望な卓球選手をスカウトしてきて育て上げるという、いわば先手必勝策だった。さらに、選手の練習相手にはあえて、男子大学生をアルバイトとして雇った。

「今でこそ珍しくはないですが、当時は女子選手の練習相手を男子選手がすることなどありえませんでした。女子は女子、男子は男子という垣根があって、それを越えるのは何となくタブーだったんです。でも、日ごろから自分よりも大きくパワフルな相手とやり合うことで、大きくレベルアップが図れました」

また、全体練習やミーティングとは別に、選手一人一人との個人ミーティングも行うようにしたという。

「個人ミーティングの一番の狙いは、選手のやる気を引き出すことでした。当時、選手たちは必ずしもやる気に満ちあふれているという状態ではなく、どちらかというとやらされている、指導者に服従しているという雰囲気が強かったんです。全体ミーティングで何か意見を募っても、みな下を向き、誰も発言しません。でも、一対一で話す機会を設け、一緒に現状を把握し、課題を見つけ、改善策を考えるようにすることで、各選手のモチベーションが高まっていきました」

個人ミーティングの内容は全て村上氏がメモに取り、終了後はそのコピーを選手に手渡す。その場で話して終わりではなく文字に起こすことで、話の内容を確実に共有することや、自分で見返して成長を確認できる状況も作ったのだ。

加えて、今でこそ各選手にはコーチが付き、マネージャーやトレーナーなどのスタッフも増えたが、当初はそれら全てが村上氏の仕事。「午前中はオフィスに出勤して、フロアの一角にあった自分のデスクで領収書の処理などの事務作業。その後、体育館に移動して、午後からやっと練習を始めるというのも珍しくなかったですよ(笑)」というほど多忙な日々だったという。そのような状況下で、公言した6年後の日本一を目指し、自らの手で一つ一つ改革を行っていったのだ。

選手の思考力を育み、想いを尊重する

一方、就任3年目を過ぎたころからは、「いろいろと細かく言うのをやめた」と話す村上氏。それには、ある気付きがあったからだという。

「卓球の試合はルール上、いったん始まってしまうと、ベンチにいる私から選手に向けて大声で指示を出すようなことはできません。つまり、試合中は選手自身が自分で考え、動かなければならないんです。ですが、普段から細かく指示を受けていると、それができないんですよね。指示されれば言われた通りできる実力はあるのに、臨機応変な対応力が欠けているために負けてしまう姿を見ていると、これでは駄目だなと。だから、自分で考えられる選手を育成するため、指導し過ぎないことをモットーにするようになりました」

こうした村上氏の取り組みによって、日本生命女子卓球部は、監督就任4年目に日本卓球リーグ2位、そしてちょうど6年目に1位へと上り詰めた。それからは常に3位以内をキープし、出場した前後期合計58シーズン中、31回優勝。全日本卓球選手権大会(団体の部)優勝14回、全日本実業団卓球選手権大会優勝10回、内閣総理大臣杯17回獲得という輝かしい成績を収めている。

練習場にチームの華々しい勝利の軌跡を掲出することで、選手たちの士気を高めている

トップにはい上がるまでの苦労と、そのままトップクラスをキープし続けるための苦労は、また全然違うものだと察するが、実際はどうなのだろうか。

「どちらが大変かと言われれば、6位から1位になるまでの方。1位になると、自然と強い選手が自ら『このチームに入りたい!』と集まってくれるので、遠方まで高校生をスカウトしに行く必要性は減りました。その代わり、個性的な選手が集まり過ぎて(笑)。それをまとめる大変さは出てきましたね」

状況に合わせてアプローチを変えていくことで、長年チームを発展させ続けてきた

以前は、おとなしく消極的な選手たちをいかにやる気にさせるかがポイントだった。しかし、強豪チームとなってから集まってくる選手たちは、“強くなりたい”“勝ちたい”という気持ちがみなぎり、勝利のための欲求をどんどんぶつけてくる。

「練習内容や時間、環境についていろいろと言ってきましたね。この時期は海外の試合に出たいとか、練習相手に中国人選手を呼んでほしいとか、マッサージ専門のスタッフを雇ってほしいとか(笑)。でも、どれも選手自身が勝つために必要だと考えたことなので、彼女たちをプレーヤーとして尊重し、なるべく要望は聞くようにしてきました。選手も希望がかなえばやる気や感謝の気持ちが芽生えて、それがより強くなるための活力になりますから」

ビジョンを描き、語るだけでは勝利につながらない。それを実現するために、自ら動き、あらゆる準備をする。多大なる苦労が実を結ぶとき、本当の意味でチームは“育つ”のだ。後編では、日本に初めてのメダルをもたらした代表監督時代のチームづくりと、村上氏が描く理想のチーム像を掘り下げていく。

<2019年3月27日(水)配信の【後編】に続く>
言わない、褒めない、誘わない!俯瞰してチーム強化に徹することが監督の役割

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