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胃酸で発電する「飲む体温計」開発!病気の早期発見や健康増進に期待

錠剤サイズにおける動物適用実験をクリアし、実用化へ向けて一歩前進

長寿大国・日本。厚生労働省のデータによれば、2017年時点での男性の平均寿命は81歳、女性は87歳だ。さらに、2050年には女性の平均寿命が90歳を超える見通しだという。これは医療技術の発達による影響が大きいといえるが、最も身近な医療機器・体温計にも変革の波が訪れようとしている。それが、東北大学が中心となって研究を進めている「飲む体温計」だ。深部体温というキーワードと合わせ、未来の体温計の形を解説する。

「飲む体温計」のメカニズムは、昔懐かしいレモン電池にあり

健康管理に欠かせない体温計──。誰もが一度は使ったことのある医療機器も、技術の進歩と共に使い勝手などが飛躍的に向上してきた。

かつては水銀を用いたものが主流で、測定時間は約10分。その後、現在でもよく使われる電子タイプが登場し、時間はたった数秒にまで短縮された。さらに、最新の赤外線タイプともなれば、肌に触れることなく約1秒で測定できるものまで登場している。

今ではめっきり見かけなくなった水銀体温計。ガラス製のため耐久性に問題があった

体表面を測定することにおいては、ほぼ完成したといえる体温計だが、実は今、深部体温を正しく手軽に測ることを目的とした新しい研究が進められている。

東北大学イノベーション戦略推進センターの中村力特任教授、マイクロシステム融合研究開発センターの宮口裕助手、工学研究科の吉田慎哉特任准教授らの研究グループが着目した深部体温とは、体の内部、主に内臓の温度を示すもの。最も正確な体温と呼ばれ、健康状態を把握するための重要な指標のひとつだ。

人間の体温が病気や健康状態と密接な関係にあることは、さまざまなデータから証明されていることはいうまでもない。

例えば、うつ病と体温の関係。うつ病患者は、睡眠時の深部体温が健康な人と比べて高い傾向にある。睡眠時の体温がうまく下がらないままだと十分な休息にならず、いくら眠っても回復感を得られない状態になってしまうという。

また、妊娠と基礎体温の関係も広く知られるところだ。

深部体温の変動図の一例。早朝に記録された最低温度が真の基礎体温と呼ばれるもの

しかし、われわれが通常使う体温計で示される数値は、実はそこまで正確とは言い難いのだという。

脇やおでこで測る体温は皮膚温といい、皮膚との接触状態や室温などの影響を非常に受けやすい。また、体温計に表示される数値は平衡温と呼ばれ、体の内部と同じくらいの温度になった状態を指し示すものだ。より正確な平衡温を測定するには10分以上かかるのだが、時間短縮のために平衡温を予測して表示するものが現在の主流となっている。

つまり、体温計の表示は実測値ではなく、深部体温の予測値を示しているに過ぎないのだ。

計測する場所が口から脇に変わっただけでも数値が大きく変動する。これでは正確な体温は分からない

錠剤で体内に取り入れて胃酸に反応して起動する優れもの

これまで深部体温を測定する方法としては、温度センサーを肛門に挿して直腸温を測るものが一般的とされてきた。しかし、日常的に行うことは困難であり、挿入時に腸壁を傷付ける可能性もあるという。

そこで開発が進められているのが「飲む体温計」だ。

東北大学が拠点となり、科学技術振興機構(以下、JST)が支援する形で進行しているこの取り組み。10年後の目指すべき社会像を見据えたチャレンジングな研究をJSTがサポートしており、さりげないセンシングによる日常人間ドックプロジェクトの対象のひとつになっている。

今回、動物実験に成功した飲む体温計の試作品は、直径が約9mm、厚さは約7mm。少し大きめの錠剤サイズで、電極以外は全体を樹脂で覆われている。

原理は、レモン果実に亜鉛板と銅板を差し込み、亜鉛板と銅板が電極、レモンに含まれている果汁が電解液となって電力を発生するレモン電池と同様、マグネシウムとプラチナ金属板の電極に胃酸が触れることで発電。胃を通過する前に発電エネルギーで樹脂内の昇圧回路を動かし、コンデンサーに充電していく仕組みで、体に有害なボタン電池などを用いる必要がないのが特徴だ。

飲む体温計の断面概略図。樹脂の中にさまざまな電子機器が埋め込まれている

蓄えられた電力を基に、主に腸内の深部体温を計測。30分に1回程度、反復的にデータを取り、内蔵された通信装置から体外の受信機へと送信される。ちなみに、体内に吸収されにくい約10MHz周波数帯での近距離磁気誘導方式を採用しているという。

基本的には就寝中(安静時)の使用になるため、受信機はベッドの下などに設置する想定。また、運動中(活動時)のデータ収集には、ウェアラブル端末を活用することも考えているとのこと。

送信されたデータは体外の通信機器で受信。ビッグデータを解析することで、些細な体の変化にも気付きやすくなるという

また、役目を終えた体温計は通常であれば24時間以内に体外へ排出。下水処理場で回収、廃棄される想定だ。

今回の動物実験成功により、人への適用試験を目指す段階にステップアップした飲む体温計。個人が日常的に使えることを目指し、安価な部品や実装技術を用いることで原価を100円以下に抑えることを目標としている。

飲む体温計から得られた深部体温のデータが、病気の早期診断や健康増進に一役買う日もそう遠くないのかもしれない。

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