2019.10.9
電動エアタクシー開発最前線! 世界初の商用運航を目指すドイツ・Volocopter社の展望
新しい交通の考え方・MaaSとも連携予定! 都市上空をひとっ飛びする日はもう近い!?
世界各地で繰り広げられているエアタクシーの開発合戦──。一歩先を行くといわれているのが、ドイツ自動車大手・Daimler(ダイムラー)社から出資を受ける同国企業・Volocopter(ボロコプター)社だ。ことし8月に発表した新型機で商用運航を目指すとしており、既にシンガポールに専用の発着場も建設中。交通渋滞緩和策として注目を集めるMaaSにも連携を予定するエアタクシーは、運航開始に向けて今どの地点にいるのだろうか? Volocopter社の動向を紹介する。
広がるMaaSという考え方
ヨーロッパを中心に浸透しつつあるMaaS(Mobility as a Service)。直訳すると「移動のためのサービス」となり、定義はさまざまなものが示されている。
たとえば国土交通省では、MaaSとは「マイカー以外の全ての交通手段によるモビリティ(移動)を一つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ新たな移動の概念」と解説。総務省では「交通手段の検索・予約・支払を事業者問わずに一元化させることで利便性を高める他、都市部での交通渋滞や環境問題、地方での交通弱者対策などの解決に役立てようとする考え」と紹介されている。
※国土交通省によるMaaS構想の記事はこちら
※JR東日本が考える“移動の未来”MaaS構想に関する記事はこちら
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全ての交通手段の検索から決済までをスマートフォン一つで一括管理できると考えれば、いかに便利かというのが分かる
(C)tiquitaca / PIXTA(ピクスタ)
日本でも普及し始めた自動車や自転車のシェアサービスもMaaSに該当し、近年では電動キックボードのシェアサービス導入に向けての動きも盛んになってきている。
※電動キックボードに関する記事はこちら
MaaS先進国のフィンランドでは、同国のMaaS Global社が提供するアプリ「Whim」が普及。各交通事業者の情報を集約し、検索から予約、決済までを一元化している。月額制のプランを選べば、決められたエリア内の公共交通機関やタクシー、レンタカーなどが乗り放題になるプランなどが好評を博しているという。
また、ドイツの自動車大手・Daimler社もMaaSの領域に参入。「moovel」というアプリを介し、公共交通やタクシー、カーシェアなどの情報を提供している。これによってユーザーの利便性が高まるのはもちろんだが、自社が有する、または提携するサービスを選定させるという側面も併せ持っている。
そして近い将来、選択肢の一つに加わろうとしているのが、Daimler社が大規模な出資を行うVolocopterだ。
運航開始が待たれる電動のエアタクシー
Volocopterとは、ドイツのVolocopter社が開発する電動の垂直離着陸機(eVTOL:イーブイトール)のこと。
滑走路を必要としないヘリコプターのような機体(VTOL)で、動力エネルギーに電気(electric)を採用しているためeVTOLと称されるものだ。
Volocopter社は、各企業が実用化を目指すエアタクシー界のパイオニア。2011年に世界初のeVTOL有人飛行に成功し、一躍有名になった。
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開発者の一人を乗せて飛行するVC1。その名の通りVolocopterの第1号機で、90秒間の飛行に成功した
2017年9月には、ドバイ市街地での試験飛行に成功。これは、世界で初めて公共エリアにおける無人状態でのeVTOL飛行ということもあり、世界中から注目を集めた。
また、ことし8月には、ヘルシンキ国際空港での試験飛行も実施。他の商用飛行機と同じ空域で飛んだ、世界初のeVTOLとなった。これにより、他の飛行機とVolocopter社の航空管制が共存できることを示し、エアタクシー実現に向けて明るい未来を印象付けた。
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ドバイ(上)とヘルシンキ空港(下)上空を飛行するVolocopter。試験飛行は1000回以上繰り返されているという
同月、Volocopter社にとって第4世代となるeVTOL・VoloCityを発表。2023年までのエアタクシー商用運航を目指す同社が、実際に投入予定の機体だ。
VoloCityは、9個のリチウムイオンバッテリーと18個のローターを備え、最高時速は約110km。最長約35kmの飛行が可能とされている。2人乗りで、まずはパイロットを含めた商用運航を目指し、将来的にはパイロットを除いた無人の自動運転飛行を実現させる見込みだ。
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以前のモデルより航続距離が伸びた新型機・VoloCity。約35kmとは、羽田空港から神奈川県鎌倉市付近までの距離に相当する
VoloCityの特徴は、その安全性と静音性にある。
都市上空、また無人での自動運転飛行を想定しているため、複数のバックアップ機能や装置を搭載。万が一、いずれかのバッテリーやローターに不具合が起きた場合でも、他がカバーすることにより安全な継続飛行が可能となる。
また、機体を操縦・制御するシステムを光配線で構築。電気配線に比べ安全性が高いとされ、軍用機以外の機体で採用されるのは非常にレアだという。
他にも、構造や耐久性、離着陸やフライト時の安定性など、EASA(欧州航空安全機関)がことし7月に制定したVTOL用の規定を全て満たしていることからも、高い安全性が担保されていることが証明できる。
安全性に加え、一つ一つのローターを小さくすることで騒音をカット。Volocopter社によると、上空75m付近で飛行する音は、小型のヘリコプターが上空500mで飛行する音よりも静かだという。
ことし中には、シンガポールで建設中のVoloCity専用離着陸場・VoloPortのプロトタイプを発表し、試験飛行も予定する同社。ドバイと共に世界初の商用運航候補地としている。
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シンガポールに建設中のVoloPortイメージ。完成後は、VoloPortを拠点に試験飛行を繰り返す予定だ
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VoloPort内部のイメージ
なお、小型のVoloPortは都心のビル屋上や高速道路上といったさまざまな場所に設置することが想定されており、他の乗り物と連携するMaaSの理念ともピタリと合致する。
一方、大型のVoloPortには、VoloCityのメンテナンスやバッテリー交換拠点を兼ね備える予定。フライトの度に急速充電するのではなく、バッテリーを交換することでタイムロスを省く狙いがあるという。
電気をエネルギーにするため、環境への負荷が極めて少ないことでも注目を集めるeVTOL。アメリカや中国などでも開発の動きがあり、Volocopter社を含めどこが一番にエアタクシーとしての商用運航を開始するかに注目が集まるところだ。
各社がしのぎを削るeVTOL開発合戦から今後も目が離せない。
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text:佐藤和紀