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3年連続するスポーツのビッグイベントで興る日本の大変革

ICTで交通サービスを一括運用!日本版「MaaS」で訪れる便利な未来

欧州でも実現しつつあるシステムは自家用車にも劣らぬ可能性を秘めている

本特集の2回目で、新たな公共交通のカタチを提示するシステムとしてクローズアップした「東京BRT」。このシステムは、国が進める「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」に基づき、“公共交通における自動運転などの技術開発にも積極的に関わっていく”ことが発表されている。では「東京BRT」以外はどうだろうか。全国を見渡してみると、公共交通をテーマにした自動運転の実証実験はすでにスタートしている。果たして国は、公共交通の将来をどのように考えているのか? 本特集ラストは、そのビジョンを聞きに国土交通省を訪れた。
TOP画像:(C)chesky / PIXTA(ピクスタ)

地方と都市部では求められるものが異なる

「“公共交通の未来”という意味では、自動運転を用いたサービスはもちろんですが、新しいモビリティ全体として考えています。現在、そのカタチとして最も有力なシステムが『MaaS』という概念によるものです」

そう説明してくれたのは国土交通省 総合政策局 公共交通政策部の日下雄介交通政策企画調整官だ。

MaaSとは、「Mobility as a Service」の略。直訳すると“サービスとしてのモビリティ”となる。

定義としては「ICT(情報通信技術)を活用して交通情報をクラウド化し、公共交通にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段による移動を一つのサービスとしてシームレスにつなぐ、新しい概念」のことだという。

MaaSとは、さまざまな交通手段を一括して管理・運用しようという概念を示す。利用者はワンストップでの交通利便性を手に入れることができる

(C)tiquitaca / PIXTA(ピクスタ)

「なぜ、この概念の必要性が検討されるようになったかというと、最初に『地域ごとの交通手段をいかにして確保するか』という大きなテーマがありました。現在、地域公共交通の利用者は大きく減少しており、全国の6割に及ぶ事業者が赤字を抱えています。特に地方部のバス事業の収支率は低水準で、低賃金・長時間労働という課題からドライバー不足という問題も生じてきています。一方、住民は高齢化により免許返納も増えており、生活の足を確保する必要性は高まっているわけです」

問題は地方ばかりではない。都市部においては慢性的な渋滞を、いかに改善していくかという課題がある。「東京BRT」は、新設道路やバス専用レーン、信号制御も視野に入れスムーズな移動を目指しているが、それを他のエリアにも広げるにはクリアすべき課題が多い。

そこで白羽の矢が立ったのが、ヨーロッパで生まれたMaaSだ。

「MaaSは、地域のさまざまな交通課題を解決する可能性のある取り組みだと考えています。すでにヨーロッパの幾つかの国では効果が出ていると聞いていますし、国内でも鉄道会社や自動車メーカーが取り組む姿勢を見せているのです」

フィンランドの首都・ヘルシンキでは、トラムや電車、地下鉄、バス、ボートなどの公共交通チケット(切符)を素早く&一番安く購入できるシステムが既に導入されている。画像はHSL(ヘルシンキ地域交通局)のシステム専用モバイルアプリイメージ

(C)yakiniku / PIXTA(ピクスタ)

会社間をまたいだ一括サービスが受けられるのもMaaSの利点

MaaSとは具体的にはどのようなシステムなのだろうか? 

「基本的にはスマートフォンを利用します。まずは専用のアプリケーションを立ち上げて、目的地までのルート検索を行います。するとそこに鉄道、バスなどさまざまな交通機関を利用した複数のルートが表示されます。その中から自分の希望に即したルートをセレクトすると、もう運賃の決済までが終了してしまうのです。あとはスマートフォンを持って、出かけるだけですね。例えば乗車の際は、セレクトしたルートごとに発行されたQRコードをかざすなどして乗降・乗り換えをしていただくことになると思います」

画期的なのは、異なる交通機関…鉄道でもバスでもタクシーでも…さまざまな公共交通に対応していることだ。それによって利用者は、出発地から目的地まで一括したサービスによって移動することが可能になる。

「さらにMaaSは、宿泊やレストランなどの交通機関以外のサービスに対応することも可能です。実用化されれば大きな広がりを持って、利便性が向上していくことになると思います」

MaaSを活用することでモビリティサービスのみならず、小売店舗や宿泊施設など周辺サービスと連携することも可能。さらにそこで集められたデータを街づくりに生かすこともできる

先行してMaaSがスタートしているヨーロッパでは、公共交通の利用そのものが増えてきているという。

それはつまり自家用車を保有するという価値観からの脱却を意味している。日下調整官は「自家用車と遜色のない利便性が実現できているということだと思います」と印象を語る。

では、日本でもすぐに実用化となるのか?

サービスとしての利便性と有効性は評価されているのだが、整備すべき課題は多いようだ。

「異なる交通機関を利用できるようにするわけですから、データ連携のあり方などを整理する必要があります。また街づくりの観点でいえば、例えば乗り換えに物理的なハードルがあったら意味がありません。交通結節点の整備など、ハード面におけるインフラ整備も不可欠ですね」

また前述したように、地方と都市部では課題も異なる。日下調整官いわく、今後は地域ごとにMaaSのモデルができてくるという。

「これから各地域で実証実験が行われていくと思います。その中で地域ごとに出てきた課題に対応するカタチで、制度整備が進められることになるでしょう。地域によって需要の種類が異なりますからね。でも、それらも最終的には結び付いていく必要があると思います。

MaaSは単なる交通システムではありませんから。稼働し始めれば、例えば人の動きを把握することもできますし、それを街づくりに生かしていくこともできるはず。さまざまな可能性を秘めたシステムだと思っています」

では、これからのモビリティに期待されている自動運転についてはどうだろうか。

自動運転が公共交通の運転手不足を救う?

「MaaSと自動運転の親和性はとても高いと思っています。MaaSがスマートフォン、そしてアプリを使うということを考えると、『クルマを呼んで、来てもらう』という自動運転と結びつきやすいのです。さらに自動運転は、地方が抱える“運転手不足と高齢者の移動手段確保”という課題解消の意味でも注目されています」

そう語る日下調整官のことばを受け、国土交通省と自動運転の関わりについて同省 自動車局 技術政策課の藤倉理詠係長にも説明してもらった。

「5段階ある自動運転のレベルのうち、現在は車が運転する【レベル3】以上の技術が研究・開発されている段階と認識しています。そして、その実用化に向けた実証実験が官民を問わず、全国で行われています。

そこで私たちがまず最優先しなければならないのは、実際の実証実験における安全性が確保されているかどうかということです。一般道であれ高速道路であれ、当然、一定の安全性が確保されていなければなりません。私たちは自動車の車両技術・制度を持つ強みを生かして、実証実験などの取り組みを推進しています」

■自動運転の定義

【レベル1】…加減速・操舵・制動のいずれかを車両側が行う
【レベル2】…加減速・操舵・制動のうち、複数を車両が行う
【レベル3】…加減速・操舵・制動を全て車両が行う。ただし、緊急時やシステムの限界時にはドライバーが操作する
【レベル4】…完全自動運転を車両が行い、ドライバーは運転に関与しない。またはドライバーが存在しない
【レベル5】…レベル4に加え、走行に関する限定条件がない


具体例として藤倉係長が提示したのは、経済産業省と合同で手がける「ラストマイル自動運転」という実証実験だ。

これは利用者の最寄り駅と最終目的地を結ぶ「ラストマイル」を無人自動運転で移動するためのサービス。政府は2020年の実用化を掲げ、現在全国4カ所で実証実験が行われている。

「市街地モデルとして石川県輪島市、過疎地モデルとして福井県永平寺町、観光地モデルとして沖縄県北谷町で、電動の小型カートを使った実験を行っています。また、小型バスを使った実験を茨城県日立市で実施しました」

「ラストマイル自動運転」を行っている4エリア。各地方自治体と車両を開発する事業者が連携して実証実験を行っている

具体的には需要目的の異なるエリアで、遠隔監視・操作する担当者が複数車両で行う自動運転技術の検証や、地元運行事業者による長期実証実験が行われている。

「細かな部分で言うと、例えば輪島市・永平寺町では小型カートの積雪路面での走行安定性を見ています。日立市では安全性を確保するため、走行中に移動しようとした乗客に対する注意喚起をAIが行う実験や決済システムの有効性についての確認をしました。今後、さらなる技術のブラッシュアップを行う予定です」

この「ラストマイル自動運転」のほか、国土交通省では全国13の道の駅を利用した自動運転サービスの実験や物流の観点から高速道路でトラックを使った実験も行っている。

官民を問わず、全国各地で実施中の自動運転実証実験。ここで紹介したのは一部の実施例であり、ほかにも数多くの実験が行われている

「こうした実証実験で得られたデータは、産業的に使える情報であれば参加している事業者と共有し、私たちは制度作りに役立てます」

このように、一定条件を満たす中で無人自動運転移動サービスの実用化は着々と進行している。

藤倉係長は「技術面の開発は加速度的に向上しており、(2020年の実用化は)実現可能な目標であると認識しています」と展望を語ってくれた。

ことしからスタートする「ゴールデン・スポーツイヤーズ」をきっかけに、これからの日本がどのように発展していくのかを見てきた「日本の大変革」特集。ビッグイベントをきっかけに、私たちの生活スタイルを変えるイノベーションが加速度的に進んでいることが分かってきた。

少し前には未来だと思っていた生活が、あと数年で当たり前となるのかもしれない。

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