
2019.11.25
服も電池に早変わりする? 振動で発電する液体開発に世界初成功
待たれる実用化! 医療・健康分野のほか、IoTデバイスへの応用にも期待大
世界最高レベルといわれる日本の医療技術。最先端機器を用いた遠隔医療や他国から患者を受け入れる医療ツーリズムなど、業界の変化は目まぐるしい。そうした中、近い将来に医療分野で大活躍すること間違いなしの、伸縮自在な振動発電素子を国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)らが開発。静電気をためられる液体を用いたこのシステムは、心拍や脳波を測定するウェアラブル端末への活用が期待されている。世界的に活況な「身に着けるデバイス」への応用も可能な、世界初の技術を紹介する。
INDEX
個人で健康管理を数値化する時代に
1人1台が当たり前になりつつあるスマートフォン。次にその流れに乗るのは、スマートウォッチを含むウェアラブル端末ではないかという考えがある。
IT専門調査会社IDC Japanが2018年に発表したデータによると、2022年のウェアラブルデバイス出荷台数予測は世界全体で1億9039万台。2018~22年の年間平均成長率は11.6%になるという。
そのデータを裏付けるかのように、大手企業も動きを見せている。
ことし11月、Googleがウェアラブル端末大手のアメリカ企業・Fitbitを買収すると発表。グーグル社は同年1月にもアメリカの時計製造会社・Fossilのスマートウォッチ部門を買収していることから、今後注力する分野としているのは明らか。業界シェアで圧倒的首位のAppleを追撃すべく、本腰を入れた形だ。
スマートフォンからの通知や音楽の再生、電子決済などの基本機能を兼ね備えるウェアラブルデバイス。中でも現在、各社が競うように力を入れているのが、健康に関する機能だ。
歩数や消費カロリーが分かるのはもちろん、心拍数や睡眠の質、女性の周期記録のサポート機能などを搭載するほか、転倒を検出して緊急通報できる驚きの機能を有するウェアラブルデバイスも登場している。
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心拍数を表示するウェアラブル端末の一例。一定の値を超えたとき、異常を感知したときに通知してくれる機能などが備わる
このように、ウェアラブル端末を駆使して健康管理に生かすという考え方は古くからあるが、ネックとなってきたのは装着性だ。
従来の医療分野で使われている端末のベースになるのは、固体やフィルム上の素材。凹凸や曲線が複雑な人間の体に装着するのは難しく、被験者への負担が大きい点や正確なデータが得られないという課題があった。
そのような問題解決に向けて期待がかかるのが、ことし9月に発表された半永久的に静電気をためられる液体だ。
国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)と産業技術総合研究所の研究チームが開発したのは、液体状のエレクトレット材料。
開発のポイントとなったのは、分岐アルキル鎖という柔軟で電気を通さない炭水化合物で、ポルフィリンという赤血球などに含まれる有機化合物を囲んだこと。ポルフィリンは静電気を帯びることができるのだが、炭水化合物で囲むことで安定した構造になるという。
これにより、常温下で静電気を半永久的にためることができ、揮発しない液体の開発に成功した。
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分岐アルキル鎖で保護・隔離されたπ共役ユニットからなる液体材料の分子構造(a)と画像(b)
実験では、この液体エレクトレット材料に高電圧をかけて帯電させたものを、伸縮性のある布地に染み込ませて使用。
ポリウレタンフィルムと銀メッキでできた軟らかい電極で挟むことで、伸縮や折り曲げが自由自在な振動発電素子を世界で初めて作り上げた。
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伸縮自在の液体エレクトレット素子の構成および振動(加圧)発電の様子
振動発電素子を指で押すと100~200mVの電圧が発生し、90日以上の安定した駆動が確認されたという。
また、交流電圧(100V、1kHz)をかけると、200Hzの音を発信することも合わせて確認。世界で初めて、音波アクチュエータとしても使えることが実証された。
アクチュエータとは、電圧や空気圧などのエネルギーを機械的な動きに変換して機器を動かす装置のこと。今回の振動から電圧、電圧から振動のエネルギー変換はマイクロフォンとスピーカーの動作原理と同じであり、固体のエレクトレット材料と同じことが液体でできることを証明した。
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振動から電圧(上)と電圧から振動(下)の特性を確かめた際の図
今後は、液体エレクトレットの静電気の保持能力を向上させ、脳波や心拍、筋電センサーなど、医療分野での利用を目指すという同研究グループ。
さらに、ほかのシステムやキャパシタ(コンデンサ)などと組み合わせることで、振動で発電するIoTデバイス用の電源としての応用も視野に入れているという。
充電不要で装着性の高い液体エレクトレットを使った医療機器やデバイスが実用化される日も近いのかもしれない。
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text:佐藤和紀