2019.7.31
車の振動がエネルギー! 事故防止に役立つ最新発電ユニット登場
街中にあふれる未利用エネルギーを使用した環境にも優しい発電方法
わたしたちが生活する日常には、まだまだ活用できていない「未利用エネルギー」という分野があるのをご存じだろうか? これは、外気温との温度差がある河川や工場排熱など、有効利用できる可能性があるのに利用されてこなかったエネルギーの総称だ。その中の一つ、モノの振動を用いて電気を生み出す振動発電に、新たな局面が訪れているという。総合建設会社・竹中工務店が施工、沖縄県の商業施設に導入された最新技術をご紹介する。
振動発電ユニットを使って交通誘導
社会問題化しつつある高齢ドライバーによる交通事故。走行レーンの逆走やアクセルとブレーキペダルの踏み間違いなど、認知・身体機能の衰えが主な原因とされている。
一方で、交通事故の発生件数は減少の一途をたどっている。
警察庁のデータによると、2018年の交通事故発生件数は約43万件。ピークだった2004年の約95万2000件に比べると半数以下の数字だ。
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2018年の交通事故による死者数は3532人。1948(昭和23)年の統計開始以来、過去最少となった
これは、飲酒運転の厳罰化や交通安全指導の強化、ASV(先進安全自動車)の普及などが功を奏している形だ。すでに実用化されている主なASV技術としては、衝突を回避する自動ブレーキや車間距離を一定に保つ技術、走行車線の中央付近を維持するレーンキープシステムなど。これらに加え、自動車メーカーがしのぎを削って開発を続けている自動運転技術が全車種に採用されれば、交通事故の件数はさらに急速に下がることが想定されている。
しかしながら、完全にシステム任せの自動運転技術が採用されるのはまだまだ先の話。それまでは、ドライバー自らが細心の注意を払って運転する必要が求められる。
そうした中、交通事故を減らすヒントになるかもしれない全国初の技術が、ことし6月に沖縄県で運用開始された。それが、車両走行可能な振動発電ユニットだ。
これは、大阪に本社を構える総合建設会社・竹中工務店が、セイリツ工業(大阪府)や湘南メタルテック(神奈川県)と共同で開発したもの。自動車からの振動エネルギーを直接発電機に伝達できる、特許出願済みの新しい技術だ。
そもそも、振動エネルギーを用いた発電は、未利用エネルギーの活用技術として注目されてきた分野。これまでも、鉄橋を通過する列車の振動や空調ダクトの振動を用いた発電など、さまざまな活用法が模索されてきた。過去にはJR東京駅の改札を使った床発電実験も行われている。
ただ、従来の技術では応力に比例して発電量も小さく、電力利用の用途が限られていた。そこで、新しく開発されたのが、従来よりも高出力を見込める今回のシステムだ。
使用された発電の技術は、逆磁歪(じわい)効果と呼ばれるもの。磁場や圧力を加えるとわずかに変形する素材・磁歪材料を用い、材料内部の磁場の変化によって発電につなげている。
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磁歪材料を使った発電方法の概念図。今回のシステムでは、車の重量が力(F)になる
今回、この振動発電ユニットが稼働したのは、新しくオープンした商業施設の駐車場4カ所。
振動発電ユニットの上を車が通過するたびに、その重量が圧力となり発電を開始する仕組みだ。そこで生まれた電力は、一時停止線上に配置されたLED照明のエネルギーになり点灯。運転者に注意を促す。
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振動発電ユニットとLED照明を組み合わせた車両誘導システムの概念図。自ら運転する車に合わせて発光するので、ドライバーの注意をひきやすい
この新しいシステムが導入された駐車場というスポットは、交通事故の発生件数が多い場所としても知られている。日本損害保険協会東北支部が行った「東北6県の車両事故実態に関するモニタリング調査」によると、駐車場内の車両事故は26.7%(2017年)で、車両事故全体の4分の1を記録している。
これは、駐車場の空きスペースを探す車の動きが不規則な点や、歩行者が思わぬところから飛び出してくるのが主な原因。ASV技術の自動駐車機能を搭載した車でも、空きスペースを見つけている段階では意味をなさないのだ。
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振動発電ユニットが導入された「サンエー浦添西海岸 PARCO CITY」。約4000台もの駐車スペースがあり、駐車場事故減少に期待がかかる
幅広い用途など今後の展望に期待
現在はLED照明に使われているこのシステムだが、今後は道路の安全対策や放送設備、駐車場の管制用電源などへの利用が検討されている。さらに、交通量の多い場所に設置して蓄電を行えば、周辺場所の一般用電源としても使用できるという。
このシステムは単独で作動するスタンドアローン型のため、周辺に送電網が整備されていなくても使用可能なところが利点。道路インフラを整備する際にこのシステムを導入すれば、周辺に電気を引くことが不要になり、作業員やコストの大幅な縮小につながるというメリットもある。
道路の安全対策用電源として普及が進めば、車の進化と合わせて、交通事故ゼロの時代がやってくるのかもしれない。
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text:佐藤和紀