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キャンプインした球界にも好影響? 世界初、投球時における手のひらの筋活動をデータ化する技術が開発

手の繊細な感覚をデータ化することに成功! スポーツや音楽、工芸分野での導入へ

いよいよプロ野球界もキャンプイン。来る3月20日(金・祝)のシーズン開幕に向けて厳しい練習を行う選手たちだが、好不調の波があるのは当然のこと。いかにスマートに乗り越えるかが鍵となり、近年では科学的根拠に基づいたトレーニングを行う選手も多い。そうした中、早稲田大学をはじめとしたグループが、投球時における手のひらの筋活動計測に世界で初めて成功したという。野球界はもちろん、ほかの分野でも導入が期待される最新の研究をご紹介する。

イチロー氏も悩んだイップスとは?

球春到来──。

毎年2月1日は、多くのプロ野球ファンが待ちに待った12球団がキャンプインする日。テレビやインターネット上でプロ野球の話題が徐々に増え、公式戦開幕に向けて盛り上がりを見せ始める日だ。

華やかながら実力主義であり、けがやスランプに泣かされる選手も多いプロ野球界。その中にあって、実は多くの選手が悩んでいるとされる「イップス」という症状をご存じだろうか?

イップスとは、これまで当たり前のようにできていた簡単なプレー(動き)が思い通りにできなくなる症状のことで、元々はゴルフ界で使われていた用語。現在は野球やテニスなど他のスポーツでも幅広く用いられるようになり、2018年には広辞苑に掲載されるほど一般的な言葉となりつつある。

過去にはイチロー氏も悩んだとされ、精神的な面から発症するとされるイップス。

しかし、近年の研究では「無意識的な筋活動の乱れ」や「過度な同一動作を繰り返すことによる脳の異常」などが要因とする専門家もおり、多角的に研究が進められている。

ふとしたことがきっかけで発症するとされるイップス。細かなコントロールが要求されるピッチャーにとっては致命傷だ

そうした中、イップス解消の一助になるかもしれない技術が誕生したという。

早稲田大学と北里大学、科学技術振興機構(JST)の研究グループが開発したのは、投球時における手のひらの筋活動をリアルタイムで計測できるウェアラブルデバイスだ。

これまでも筋活動を計測できる同様のデバイスは存在したが、手のひらや足の裏といった繊細な感覚を有し、摩擦が生じる部分での装着・測定に成功した例はこれが世界で初めて。従来の端末では装着者の動きが阻害されパフォーマンスが低下してしまい、正確なデータが得られなかったという。

この壁をクリアするために同研究グループがまず着手したのは、電子ナノ絆創膏の開発だった。

電気を通すプラスチックからなる電子ナノ絆創膏は、厚さ数百nm(ナノメートル/1nmは100万分の1mm)という薄さと柔らかさが特徴。接着剤を用いずに皮膚に張れることから、皮膚の伸縮時や発汗時でもはがれることなく安定した筋肉・エネルギーの活動電位(筋電位)の測定が可能だ。

2015年に発表された電子ナノ絆創膏。ロールtoロール法と呼ばれる連続式印刷技術を応用することで、従来のcm2からm2サイズまで大量生産する方法も新たに確立した

(J. Mater. Chem. Cの論文中のFigure 4aを改変の上転載)

開発した電子ナノ絆創膏を電極として筋電位を計測したところ、医療機関で用いられる金属製の電極パッド(粘着ゲル付き電極)とほぼ同等の性能を確認。

ウェアラブルデバイスとしての可能性を広めることに成功した。

完成した電子ナノ絆創膏、そして次の一手へ

今回の研究では、電子ナノ絆創膏とデータを飛ばすBluetooth端末とをつなぐ伸縮配線の開発が鍵となった。

新しく開発された伸縮配線が電子ナノ絆創膏につながれた様子。このような形で装着し計測が行われた

(NPG Asia Mater.の論⽂中のFigure 1aを改変の上転載)

従来の配線は激しい動きに弱く、断線を起こしたりはがれたりと問題が多かった。そこで研究グループが新たに製作したのが、切り紙から着想を得た伸縮配線だ。

立体的な構造変化により伸縮性を持つように加工された導電フィルムの周囲をシリコーンゴムなどで封止し、バネ特性と表面の絶縁性を持たせることに成功。元の長さの2.5倍まで伸ばしても抵抗値が変わらず、伸縮動作を100回以上繰り返しても十分使用可能な配線を作り上げた。

引張試験機を用いての実験の様子。伸ばしても断線していないことが見て取れる

(NPG Asia Mater.の論⽂中のFigure 2 を改変の上転載)

その上で計測されたのが、ストレートとカーブ投球時の前腕と手のひらの筋電位の違いだ。ハイスピードカメラで撮影した映像を筋電波形と同期させることで、投球モーションと筋活動の関係性を解析することに成功した。

すると、前腕の筋活動には球種間での違いがほとんど見られなかったのに対し、手のひらにおいては力を入れるタイミング、エネルギーが伝わる瞬間に違いがあることを初めてデータとして見いだしたという。

ストレート(球速約110km/h)を投げた際の手のひらの表面筋電図とハイスピードカメラで撮影した投球モーション

(NPG Asia Mater.の論⽂中のFigure 5を改変の上転載)

手のひらの筋肉(右図)では明らかな筋活動の違いが見られる。ほかの球種やスポーツでの計測にも期待がかかる

(NPG Asia Mater.の論⽂中のFigure 5およびFigure S15を改変の上転載)

これまで感覚に頼るしかなかった投球時の手のひらの細かな動きだが、筋活動を計測することでデータ分析が可能に。もちろん投球時以外の細かな計測も可能なため、ほかのスポーツや音楽、工芸分野での応用も期待されている。

プロのアスリートにとって、ミリ単位での試行錯誤を行うことは当たり前。

映像を見ての反復練習などに加え、筋活動のデータを用いてのイップス解消や成績向上につなげる練習を行う日も近いのかもしれない。

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