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世界初の快挙! ドイツの巨大鉄道橋を帝人の炭素繊維を用いたケーブルが支える

軽くて強い特性を生かしてさまざまな業種へと進出する炭素繊維の新たなチャレンジ

ドイツ南部を東西に横切るように走るアウトバーン8。日本の高速道路にあたる全8車線の巨大道路上に、世界初の技術を用いた鉄道橋が架けられたという。重さ約1500トンのアーチ橋で採用されたのは、日本の大手化学メーカー・帝人株式会社の炭素繊維を基に作られた炭素繊維強化プラスチック(以下、CFRP)製のケーブルだ。世界の炭素繊維市場における日本の立ち位置や使用するメリットなどを、世界初の事例となった橋のケーブルを通して紹介する。

実は日本がトップシェアを誇る炭素繊維

新型コロナウイルスの感染拡大に揺れた今春。花粉が飛散する時季と重なったことも加わり、国内ではマスクが圧倒的な供給不足に陥ったことは記憶に新しい。

マスク不足の原因の一つとされたのが、原材料となる不織布の不足。これまでは気にも留めなかった不織布という繊維が、ポリエチレンやポリプロピレンなどの化学繊維から作られているという事実を知った人も多いのではないだろうか?

化学繊維といえば、日本が長らく世界シェアのトップを走り続けているものがある。炭素繊維だ。

太さ67~3200tex(1tex=1000mの重さが1gの糸)から構成される帝人の炭素繊維「テナックス」

1961(昭和36)年、大阪工業技術試験所(現・産業技術総合研究所関西センター)の進藤昭男博士が、ポリアクリロニトリル(PAN)という有機繊維から炭素繊維を作り出す製法を発表。その後、民間各社によって研究・開発が繰り返された結果、炭素繊維における日本の技術は世界が目を見張るほどに成長し、世界シェア約7割という確固たる地位を築き上げた。

釣りざおやゴルフクラブといった身近なモノから、風力発電のブレード(回転羽根)といった巨大構造物までさまざまな製品に使用されている炭素繊維。

航空機への導入も盛んで、東邦レーヨン(現・帝人)がエアバス社へ素材の供給を開始したのは1985(昭和60)年までさかのぼる。当時は垂直尾翼の構造材にのみ採用されたが、最新機のA350では機体重量の50%以上で炭素繊維が使われており、今後もこの流れは加速していくと見込まれている。

エアバス社のA350。炭素繊維を導入することで軽量化が図られ、より長距離の飛行が可能になる

(C)Mika Sugisaki / PIXTA(ピクスタ)

そうした中、帝人の炭素繊維「テナックス」を用いた世界初の試みがドイツで行われたという。

すべてのケーブルがCFRP製に

ことし5月、ドイツ南西部の町・シュツットガルト近郊に架けられた鉄道用のシュタットバーン橋は、曲線構造を生かして荷重を支えるアーチ橋。

全長127mのアーチ橋は全8車線のアウトバーン(高速道路)上を支柱なしに横断できる構造が可能であるため、現在の形が計画されたという。

アウトバーンを封鎖して行われた、シュタットバーン橋の架橋作業

この橋の建設において世界初の事例となったのが、アーチと橋をつなぐ全ケーブルのCFRP化だ。

CFRPとは樹脂(プラスチック)を炭素繊維で強化したもので、鉄と置き換えることでさまざまなメリットが生じるという。

最大の利点は軽量化だ。

炭素繊維の比重は約1.8で、鉄の約4分の1。アルミの2.7、ガラス繊維の2.5と比較しても軽いことから、製品の搬送・設置が容易になる。

事実、シュタットバーン橋で使用された72本のCFRPケーブル設置の際には、大型クレーンを導入することなくわずか3人のみで工事が完了。鉄鋼製ケーブル使用時に比べて、CO2排出量は3分の1、エネルギー消費量は2分の1に抑えることに成功した。

シュタットバーン橋へのCFRPケーブル設置作業。従来に比べて作業時間も短縮された

もちろん、安全面でも優位性がある。

炭素繊維の比強度は鉄の約10倍、比弾性率(剛性)は鉄の約7倍とされており、製造方法によって剛性の調整も可能。強度を保ちつつ、しなりを必要とする素材への加工もできるとしている。

今回のCFRPケーブルは、スイスの企業が製造を担当。ケーブルの特性に合わせて、それほど剛性が高くないグレードのテナックスが採用されたという。

また、炭素繊維は振動減衰性にも優れており、金属疲労がない点やサビに強い点、酸への高い耐候性などが、鉄と比べた際の優位性として挙げられる。

施工前には100年の耐用性を念頭に置いたプロトタイプでの事前テストも行われ、振動や雷、火災などの外的要因をクリアしての現場導入となったCFRPケーブル。

わずか72本、合計1675kgのケーブルで約1500トンの橋を支える今回のプロジェクトは、今後の建設業界における炭素繊維の試金石になることは間違いないだろう。

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