2020.10.6
ケーブルの振動で電柱のひび割れを測定? NECと電中研が画期的な遠隔点検システムを開発
光ファイバーセンシング技術とAIを組み合わせ、電柱のひび割れを遠隔から判定
国内の電力会社が2200万本以上を保有し、全国に設置している電柱。経年劣化や災害時における被害状況の迅速な把握は、安定した給電のために欠かすことができない。今回、NECがそんな電柱のひび割れを遠隔から効率的に判定できる新たなシステムを開発したと発表。私たちの暮らしにも直結する最新システムの詳細をご紹介する。
INDEX
電柱は安定した配電を支える縁の下の力持ち
生活に欠かせない電気を私たちの元まで配電しているのが、街中の至る所に存在する電柱だ。
発電所で作られた電気は遠方まで効率よく送るため高電圧で送電されており、そのままの状態では日常生活で使うことができない。そのため、電気は変電所で段階的に電圧を下げた後、電柱に備えられた柱上変圧器(トランス)を用いて100Vまたは200Vに変圧。そこから引込線を介して各家庭へと配電されている。
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電柱をよく見るとバケツのようなものが付いているのが確認できる。これが大きな電圧を小さな電圧に下げる変圧器だ
そんな重要な役割を担う電柱だが、近年は送配電設備の保全・工事の担い手不足や経年劣化、災害時における設備被害状況の迅速な把握といった課題が顕在化しており、配電設備の点検・管理業務の高度化や効率化の実現が求められている。
そうした中、日本電気株式会社(以下、NEC)は、光ファイバーセンシング技術とAI(人工知能)技術を組み合わせた新たな分析システムを開発。一般財団法人 電力中央研究所(以下、電中研)の協力の下で行われた実証実験で、コンクリート電柱の劣化状態を評価する重要な基準であるひび割れの遠隔判定に成功したという。
NECが開発した分析システムでは、電柱に共架(きょうが/電線と通信線が一緒に架線している状態)されている既存の通信用光ファイバーを振動センサーとして活用。振動波形の測定が遠隔で可能な独自の光ファイバーセンシング技術によって振動データを継続的に取得し、最先端AI技術群「NEC the WISE」の一つである「RAPID機械学習」で解析する仕組みだ。
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実証実験に用いられた分析システムの概要
ただし、光ファイバーで得られる振動には周辺音響や交通振動なども含まれるため、フィルターを適用して電柱に起因する振動成分を抽出する必要がある。そこで、今回は実験地となる群馬県・電中研 赤城試験センター構内の電柱設置地点を事前に特定して調査。試験対象となる電柱群の振動特性をあらかじめ分析システムに設定することで、各電柱の自然振動を取得した。
実証実験では、ひび割れた電柱の判別に約75%の精度で成功。この結果を受けて、電中研 エネルギーイノベーション創発センターの上席研究員・中島慶人氏は「今後、労働人口の急速な減少が進む中で、点検作業の効率化は必須です。作業の効率化や業務そのものの変革の道具に本技術が役立つ」と本システムの将来性に期待を寄せている。
NECも引き続き電中研と連携し、より広範囲な構造・材質の電柱へ対象を広げるなど、多様な環境での評価検証・判定制度の向上に取り組むとしている。
送電に欠かせない電柱。
その状態をより正確に分析するシステムが早期に確立し、今後も安定した配電が継続されることを期待したい。
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text:安藤康之