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スマート漁業の実現を後押し! 海中ドローンに搭載可能な新ワイヤレス給電システム誕生

海中という特殊な状況を克服し、水中ドローンの実用化に向けて一歩前進

無線で通信を行うWi-FiやBluetoothと比べ、無線で充電を行うワイヤレス給電の普及率はまだ低い。しかし、その利便性は誰もが認めるところであり、徐々に利用者が増加傾向にあるのも事実だ。そうした中、漁業現場での導入が期待されている海中ドローンに搭載可能な新しいワイヤレス給電方式が開発された。陸上や淡水中とは異なる海中という特殊な環境だからこそ力を発揮する「導電性結合方式」という新技術に迫る。

ワイヤレス給電はもっと身近なものになる?

スマートフォンやタブレット、電動歯ブラシなどで実用化が進むワイヤレス給電──。

ケーブルなしで充電できる便利な仕組みだが、どのような方法があるかご存じだろうか?

EV(電気自動車)など大容量の給電に適したものでいえば、磁界を用いる磁界結合方式と電界を用いる電界結合方式の2種類。磁界結合方式はそこから電磁誘導方式と磁界共振(共鳴)結合方式に細分化され、それぞれの特性に合わせた使い方で製品化が進んでいる。

ワイヤレス給電システム一覧。電波受信方式はソニーが開発した非接触型ICカードの技術方式「FeliCa(フェリカ)」などで採用されているが、送電電力が小さく大容量の充電には向かない

出典:環境省

現時点ではごく一部の限られた用途でのみ採用されているワイヤレス給電だが、今後はさらなる普及が見込まれているという調査結果がある。

矢野経済研究所が2020年5月に発表した「ワイヤレス給電世界市場に関する調査」によると、2030年の市場規模は2019年比で7割増の2739億円に拡大。中でも、小型電子機器や産業機器での伸びが顕著だとしている。

「ワイヤレス給電世界市場に関する調査」。右肩上がりでワイヤレス給電の市場が推移すると予測

出典:矢野経済研究所

自動車の生産工場や物流倉庫での普及が予測されている中、意外にもワイヤレス給電の早期導⼊を待ち望んでいるのが漁業従事者たち。

とりわけ、近年実⽤化を⽬指した取り組みが盛んに⾏われているスマート漁業関係者からは熱い視線が注がれている。

少ないエネルギーで⾼効率な作業を実現するには、⽔質や⿂の⽣育チェックを無⼈かつ遠隔で⾏える海中ドローンはこれからの時代、必須アイテム。

⼀⽅で、海中での移動やカメラの駆動、取得したデータの送付などに必須のバッテリーを充電するたびに陸へ揚げていては効率が悪く、実⽤的とは⾔い難い状況だった。

海中ドローン導入のイメージ図。再生可能エネルギーから得た電力を基にワイヤレス給電を行う

そうした中、豊橋技術科学大学の田村昌也准教授らの研究チームによって開発された海中のドローンへの給電を可能にする新システムが、このボトルネックを解消するかもしれないと期待を集めている。

導電性の高い海水ならではの課題

そもそもワイヤレス給電の効率は、送受電器間の結合係数kと送受電器の損失を表すQ値(高いほど損失が少ない)を掛け合わせたkQ積に依存している。kは1に近いほど、Q値は高いほど効率が高くなる。

これは水中でも同じことが言えるのだが、淡水と海水では事情が異なるという。

電気の流れやすさを示す電気伝導度を見ると、河川水が 30~400μS/cm(マイクロジーメンス毎センチメートル)に対し、より多くのイオンを含む海水は 2万~5万μS/cm と非常に高い。

その導電性の⾼さゆえ、電界結合⽅式を海中で⾏うと⾼周波の電流が発⽣。陸上や淡⽔中に⽐べて送受電器の損失(Q値)が発生してしまうため、海中での同⽅式の実⽤化は難しいとされている。

しかし、少し特殊な環境であるとはいえ、kQ積が高いほど給電効率が高いという原理は海中でも変わらない。

そこで、研究チームは海水が持つ高い導電性に注目。

等価回路(要素の組み合わせを単純化して表現したもの)から給電効率を向上させるパラメータを解き明かし、kQ積が最大値を示す理論設計を確立。海水中に特化した導電性結合方式という新たな給電方法を作り上げた。

送電側の電極は給電ステーション、受電側の電極はドローンに取り付けられるイメージ。それぞれの電極が多少ずれても問題ない

導電性結合方式には、電界結合方式と同じ構造の4枚の薄型平板電極を使⽤。そのため、淡水中では電界結合方式として使用することができる。

海水中での給電方法としては送電器に⾼周波電圧を加えるのが特徴で、送電器から電磁界を発⽣させることで送受電器間のイオンを移動させる。すると、受電器側で対となる電荷が⽣まれ、その電荷量の変化から電⼒が取り出せるという⼨法だ。

海水の特性を生かした仕組み。海水が絶える心配はないため、太陽光や風力など送電器に必要な電気の作り方がカギとなる

実験では、送受電器の距離が2cmで94.5%、15cmでも85%以上の給電効率を達成。

海水下で起きる電極の化学変化を防ぐために絶縁コーティングを施しても、同様の結果が得られた。

送電周波数6.78MHzにおける送電距離特性。高い値で推移しているのが分かる

なお磁界結合方式でも同等の給電効率が期待できるというが、海中ドローンに装着する受電器の重さや耐久性がネックになっていたという。

それに⽐べ、今回開発された導電性結合⽅式では、送受電器の重さが200g以下と軽量化を実現しながら堅牢性も向上。ドローンの操縦性を阻害することなく、耐久性も期待できるようになった。

実際、研究チームが海中での使用を想定した給電ステーションを水槽内に試作して実験を行った結果、ドローンに取り付けた状態での給電・通信にも成功。

中でも注目したいのが、開発した送受電器で給電を行い、その電力から駆動したカメラモジュールによる動画のリアルタイム通信の実用化。これが実現すれば瞬時に海中の状況把握が可能になり、スマート漁業の実現を大きく前進させるに違いない。

今回の通信速度は約90Mbpsと高速だったが、さらなるスピードアップも可能だと研究チームは⾒込んでいる。

水槽で行った実験の様子。受電器の構造が分かるようにドローンの外側に給電システムが配置されている

今回の結果を受けて、今後5年以内に海での実証実験を目指したいとする同研究チーム。

新たな導電性結合方式というワイヤレス給電の技術が誕生したことで、海中ドローンの実用化に向けた動きが加速していくのは間違いないだろう。

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