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空気中の湿度変化で半永久的に発電! 産総研が湿度変動電池を新開発

新たな発電ロジックでこれまで不可能だった大電流の取り出しに成功

さまざまな電子機器が登場し、私たちの暮らしを便利にする一方で、今後はそれらに対していかに効率よく電力を供給するかが大きな課題だ。そうした中、国立研究開発法人 産業技術総合研究所は6月2日、空気中の湿度変化を利用して、場所を選ばずどこでも置いておくだけで発電可能な湿度変動電池の開発に成功したと発表。未来のエネルギー事情を一変させる可能性を秘めた最新研究の詳細をお届けする。

本格的なIoT社会の到来で抱える新たなエネルギー問題

現代社会において欠かせないツールとなったスマートフォンをはじめ、私たちの身の回りにあふれる電子機器。その数が年々増加する中、近年のIoT(モノのインターネット)技術の進歩もあり、今後は今以上にさまざまな電子機器がセンサーを活用する時代がやってくるであろう。

暮らしがより便利になるのはもちろん大歓迎だが、そうした電子機器が増え続けることで生じる問題や解決すべき課題もある。

それが、電力供給方法だ。

従来用いられているのは、言うまでもなく電源配線の接続や定期的な充電、電池交換という供給方法。しかし、電子機器数が膨大になるにつれて物理的なスペースの確保や供給にかかる労力の問題から、やがて非現実的になっていくと予想される。

そこで、小型電子機器用の自立電源として注目を集め、長年研究されているのが、熱電素子や太陽光発電、振動発電など環境下に存在する微小なエネルギーを用いた環境発電技術である。電源や充電に頼らない反面、エネルギー源とする熱や光、振動などは存在する場所が限られており、どこでも発電できる技術とは言い難い。

そうした中、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下、産総研)は、空気中の湿度変化を利用して発電する湿度変動電池開発の成功を発表した。

公開された湿度変動電池

画像提供:国立研究開発法人 産業技術総合研究所

なお、今回の研究開発は、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)先導研究プログラム/未踏チャレンジ2050「湿度変動発電素子の研究開発」(研究代表者:駒﨑友亮)の支援を受け、産総研・センシングシステム研究センターが有している湿度センサーの技術をベースに開発された。

湿度変動電池の常識を覆す高い電流供給能力

地球上であればほぼどこにでも存在する湿度(=空気中の水蒸気)をエネルギー源とする環境発電技術の開発は、これまでも進められていた。

しかし、既存の発電素子では内部抵抗の高さもあり、nA(ナノアンペア)~µA(マイクロアンペア)という極微小の電流しか得られず、実用的な電源とはいえないのが現状だった。

そこで研究チームは、潮解性(化合物が空気中の水分を吸収して水溶液になる性質)無機塩水溶液の吸湿作用と、塩分濃度の異なる2種類の水溶液を用いる塩分濃度差発電技術を組み合わせるという、これまでとは違ったアプローチで湿度変動電池の開発にチャレンジした。

湿度変動電池の動作原理を示す図

画像提供:国立研究開発法人 産業技術総合研究所

開発された湿度変動電池は、大気に開放された開放槽と密閉された閉鎖槽からなり、2つの槽には水と潮解性を有するリチウム塩からなる電解液を封入。

低湿度環境にさらされると、開放槽では水分の蒸発に伴い濃度が上昇するが、閉鎖槽は密閉されているため濃度に変化は生まれない。これによって開放槽と閉鎖槽間で濃度差が生じて電極間に電圧が発生する。

一方、高湿度環境では、開放槽内の水溶液が空気中の水分を吸収して濃度が減少。低湿度環境とは真逆の濃度差となり、逆向きの電圧を発生させるという仕組みだ。

湿度を変化させたときの湿度変動電池の電圧(左)と負荷を接続した際の出力(右)

画像提供:国立研究開発法人 産業技術総合研究所

実験では、湿度変動電池を恒温恒湿槽内に置き、2時間ごとに湿度30%と90%の環境変化を繰り返した。その結果、湿度30%時は22~25mV程度、湿度90%時には-17mV程度の電圧発生が確認された。

加えて、最大電圧時に負荷をかけ続けて出力測定を行ったところ、最大で30µW (3.3µW/cm2)を出力。また、最大電流は5mA (0.56mA/cm2)を計測し、1mA以上の電流を1時間以上にわたって継続出力した。

空気中の湿度は昼夜の温度変化などに伴って一日の中でおおむね数十%の変動があるため、研究チームでは比較的大きなエネルギーを長時間安定して取り出すことができる湿度変動電池は、IoT機器などの自立電源になり得るとしている。

理論的には、置いておくだけで半永久的に電気エネルギーを取り出し続けることができるという夢のような湿度変動電池。

その早期実用化に期待したい。

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