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光通信の高速大容量化が前進!? データセンターの電力消費を抑える省エネ化技術が誕生

高速かつ大容量通信の実現に向けて期待される電子・光デバイス融合のための研究

増大する通信量に対し、従来の通信構造が物理的な限界を迎えつつある。時代のニーズに対応できるデバイスの実用化が待たれる中で、技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)がその構造に革新をもたらす設計技術を開発した。省エネ性能の向上により、容量増大にも寄与できるという新技術の詳細をお届けする。

データセンターの電力消費削減に貢献する技術

近年、通信機器の多様化やITサービスの拡大、AI、IoT機器、ビッグデータの活用といった先端テクノロジーの発展を受け、データセンターなどの消費電力が増大している。そうした状況を打破するため、省エネに貢献する光配線化の研究開発が加速したが、さらなる光伝送の高速大容量化も求められてきている。

身近なところで使われる光伝送といえば、昨今のテレワーク環境の維持に欠かせなくなった「光通信」だろう。簡単に言えば、LSI(大規模集積回路)から出力される電気信号を、光IC(光電子集積回路)で光信号に変換し、光ファイバーを通じて伝送する技術だ。

従来、信号を変換する部分はLSIと光ICが独立して設計されるのが一般的だった。2つのデバイスは、電気信号を伝送するために電気配線で接続する必要があり、その距離が長いほど消費電力も大きくなる。つまり、この距離をいかに短くできるかが省エネ化、ひいては大容量化のカギとなるため、両デバイスの一体集積化が必要とされていた。

そこで注目されているのが、LSIと光ICを同一基板上に共存させる「コパッケージ」という技術だ。米国の標準化団体では、2020年末から高速光信号で動作するコパッケージの実用化に向けた議論が開始し、採用を目指す構造モデルの研究開発が盛んに行われている。

採用が検討されているコパッケージのイメージ。LSIと光IC間が電気配線でつながれている

社会実装に向けて前進する中、国内半導体メーカーや国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)などで組織する技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(以下、PETRA)が、「3次元光配線技術」を用いた独自設計のコパッケージを試作。2021年7月に実験ながら、実用化が検討されているコパッケージ(以下、第一世代)と比較して30~40%もの大幅な省エネ化を実現したと発表した。

革新的なマイクロミラーによる3次元光配線技術

3次元光配線技術とは、光信号を鏡で反射させて立体的に伝送するというもの。光ICと光ファイバーの間に用いられており、通信波長帯の光信号を低損失で伝送することを可能とした。

重要な役割を果たすのが、2枚のマイクロミラーである。光デバイス(電気信号を変換する半導体チップ)から出力された光信号を、1枚目の非球面マイクロミラーで垂直方向へ反射。その上部にある2枚目のマイクロミラーで、光ファイバーへとつながる受信用の光導波路へと向かわせる。

緑の破線が光信号の動き。2枚のマイクロミラーで3次元的に制御している

左写真が下部に設置された非球面のマイクロミラー、右写真が45度に傾けられた上部のマイクロミラー

開発に至った背景には、決定的な事実がある。実は社会実装が目指されている第一世代には既に限界が認識されていることだ。

第一世代では、求められる伝送容量を担保するため光ICを複数個並べることになる。従来品よりは小型化されてはいるものの、配置するための物理的なスペースが必要となり、必然的にLSIとの間に距離ができる。設計上、電気配線を50mm程度引くことになっている。

前述の通り、電気配線の長さと伝送容量の関わりは深い。消費電力が増えればそれだけ熱も発生するため、第一世代は51.2Tbps(テラビット/秒)の処理が限界だといわれている。

つまり、未来の超大容量伝送を担うには少しばかり心もとなく、その先のソリューションが求められていたということだ。そこでPETRAが活路を見いだしたのが3次元光配線技術だった。

これをコパッケージに応用して試作すると、構造上の制限が取り払われた。さまざまなパーツがモジュール化された光ICの中で、信号変換を担う光デバイスだけをLSI直下に配置することが可能となる。第一世代に比べ電気配線を短くでき、前述した省エネ性能の大幅向上を実現させるに至っている。

図左にある茶色の線が電気配線。データセンターでの活用時に必須条件となる、85℃の高温環境下でも光伝送し、有用性を実証した

PETRAの担当者によると、「消費電力の削減によって、理論上は100Tbps以上の伝送も可能になる」とのこと。

同所は今後、今回の成果を活用し、データセンターなどに光回路を実装してLSI間の情報伝送速度の高速化と低消費電力化の実現を目指す。その先には、さらなる多チャンネル化や光波長多重化も検討しながら、LSIと光ICの一体集積化技術の研究開発を進めていく予定だ。

情報通信技術は、社会にとって不可欠なものとなった。これからの社会の根幹をなす技術が、もうすぐ生まれようとしている。

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