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充電時間が12分から3分に! 岡山大学がリチウムイオン電池の充放電時間の大幅短縮に成功

リチウムイオンを引き寄せる性質を持つ結晶が次世代電池開発を前進させる

現代の社会インフラを支える上で必要不可欠なデバイスとなっているリチウムイオン電池。EV(電気自動車)やHEV(ハイブリッド車)の加速的な普及により、ごく短時間で充放電可能な電池の開発が求められている中、わずか数秒での超急速充放電を可能とする次世代電池の開発に大きく貢献し得る画期的な研究成果が発表された。その詳細を紹介する。
TOP右画像:chesky / PIXTA(ピクスタ)

ナノサイズの立方体ブロックで充放電時間を大幅に短縮

パソコンやスマートフォンにも搭載され、何度でも繰り返し使うことができ、今や生活に欠かせない蓄電デバイス・リチウムイオン電池(以下、LiB)。環境問題への対応の観点から、EVやHEVなどの車載用バッテリーとしてもLiBのニーズが高まっており、現在、数分以下の短時間で充放電可能な車載用電池の開発を目指して各社がしのぎを削っている。

通常、リチウムイオンは電解液と電極材料の間で、吸着・脱離、溶媒和・脱溶媒和、表面拡散などさまざまな電気化学反応を経て移動する。つまり、LiBの出力特性である急速充放電は、この一連の電気化学反応をいかに素早く行えるかで決まる。

そうした課題がある中、岡山大学学術研究院 自然科学学域の寺西貴志准教授と産業技術総合研究所(AIST)極限機能材料研究部門・三村憲一主任研究員らのグループは2021年12月24日、LiBの正極材料と電解液の間に、リチウムイオンを引き寄せる性質を持つナノ(10億分の1)サイズの立方体ブロック形状の結晶を適量加えることで、従来の電池の充放電時間を大幅に短縮することに成功したと発表した。

※溶質分子もしくは溶質が電離して生じたイオンと溶媒分子とが、静電気力や水素結合などによって結び付き取り囲むことで溶質が溶媒中に拡散する現象

リチウムイオンがナノキューブ(チタン酸バリウム)表面を高速で移動する様子

市販の直径2cmほどのコイン型LiBの正極に、立方体(1辺20~30nm/ナノメートル)にしたチタン酸バリウムを600度で焼き付けるなどして付着させ、3.3~4.5Vの電圧をかけて充電したところ、容量の8割の充電時間が12分から3分に短縮したという。

ポイントは、「ナノキューブ」と呼ばれるナノサイズの立方体の結晶に着目した点。

ナノキューブは水熱法(高温かつ高圧力の熱水中で行う材料の合成法)と呼ばれる方法で合成することができるのだが、合成方法の最適化により、高い結晶性を有する単結晶かつサイズのそろったナノキューブを作製することに成功したという。

このナノキューブをLiBに導入したとき、リチウムイオンは上記画像のような移動経路をたどる(放電時)。ナノキューブに吸着したリチウムイオンは溶媒分子を脱離し(脱溶媒和)、表面拡散を経て、最終的にナノキューブ、活物質、電解質の3相が交わる界面付近から正極内に入り込む。このナノキューブを介したリチウムイオンの移動が、エネルギー効率よく非常に短時間に起こるため、電池の急速充放電が可能となる。

次世代電池の実現へ──。わずか数秒での超急速充放電を可能に

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、EVの担う役割はますます重要になっており、必要不可欠なLiBの世界市場は、2020年は約4兆7000億円、2024年には約9兆5000億円まで成長すると見込まれている。

研究グループは2021年までに、チタン酸バリウムがリチウムイオンを引き寄せ、電気エネルギーの発生効率を高める効果があることを確認済みである。このことから今回の実験を着想し、成功させた。

EV充電ステーションのイメージ。「大型電池でも検証し、性能アップに貢献したい」と寺西貴志准教授は語る

(C)World Image / PIXTA(ピクスタ)

寺西准教授は「ナノキューブの粒子サイズ制御ならびに固定化プロセスや被覆率の制御の最適化など、充放電の高速・大容量化に向けた取り組みを進め、次世代の高速・大容量電池への適用を目指したい」と話している。

岡山県および岡山大学は、2020年2月に立ち上げた「おかやま次世代電池共創コンソーシアム」において、本技術を含めた電池関連技術の社会実装を目指す計画だ。

EVのさらなる普及に向けて、LiBの充放電の大幅短縮を実現し得る今回の研究成果。

エネルギー効率の高い蓄電デバイス誕生へ、大きな援護射撃になることを期待したい。



※次世代電池分野におけるデバイス、モジュール、材料、製造プロセス、計測などに関わる共同研究を目指す複数の企業および複数の研究者が参画し、多面的な連携による共同研究の促進を図ることを目的とした共同事業体

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