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高い安全性と高容量化を実現!樹脂を使った新型リチウムイオン電池開発に成功

穴開けや折り曲げ、3Dプリンターでの精密加工──。樹脂だからこそできる電池の新しい可能性

何度でも繰り返し使うことのできるリチウムイオン電池(以下、LiB)は、身近なエネルギー源として定着した一方で、安全面や使い勝手にはまだまだ改善の余地があるという。そんな中、京都の化学品メーカー・三洋化成工業と東京の技術系スタートアップ企業・APBが樹脂を使った全く新しい新型LiBを共同開発。従来型の問題を解決し、未来の生活必需品になり得る新型LiBの仕組みをご紹介する。

これまでのリチウム電池の常識を覆す新技術の誕生

今、EMIRAのこの記事を読んでいるパソコンやスマートフォンにも搭載されているLiB。タブレットやデジタルカメラなどの携帯機器はもちろん、電気自動車に使われていることでもおなじみのバッテリーだ。

今や生活に欠かせないLiBだが、意外と危険なものだということをご存じだろうか?

独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)の発表によると、2013~17年の5年間、LiBに関する事故情報は582件。そのうち、402件(69%)が火災を伴う重大事故と報告されている。その中でも多くの割合を占めたのが、LiBを搭載するモバイルバッテリーだ。

これは、モバイルバッテリーが電気用品安全法(PSE法)の規制対象に含まれていなかったことが大きな原因とされている。NITEの発表でも、582件中368件(63%)が製品の不具合だ。これを受け、経済産業省はモバイルバッテリーをPSE法に含めると発表。ことしの2月1日より、PSEマークなしのモバイルバッテリーが販売できなくなった。

過去にはバッテリーが発火するケースも発生。LiBを飛行機の受託手荷物にできない点からも危険物だということが分かる

(C)happyphoto / PIXTA(ピクスタ)

では、なぜLiBに不具合が起こるのか──。これは、構造上の問題だ。

LiBには銅やアルミといった金属箔が電極に使われており、2本の電極はプラス用とマイナス用に分けられている。両極には電子の受け渡し役である「活物質」が塗られ、両極の間を電子が行き来することでエネルギーを生む設計だ。

事故の原因となるのは、電極への強い衝撃が原因で穴が開いてしまうケース。すると1カ所にすべての電流が集中して流れ、電池が過熱・爆発してしまうのだ。
※全固体リチウムイオン電池の開発を進める東京工業大学 菅野了次教授の記事はこちら
※今後の二次電池開発に多大な影響を与える高性能電解液を開発した東京大学工学系研究科の山田淳夫教授らによる最新研究の記事はこちら

このように安全上の問題があるにもかかわらず、その高い性能ゆえに市場を拡大したLiB。しかし、今、これまでより安全性が高く、高容量の新型LiBの開発が進んでいるという。それが、京都に本社を構える化学品メーカー・三洋化成工業が、東京の技術系スタートアップ企業・APBと共同開発した「全樹脂電池」だ。

キーワードはその名の通り、「樹脂」。

まず、衝撃に弱いとされている金属箔を樹脂製のフィルムに変更。さらに、電解液を「活物質」が含まれたゲル状の樹脂にすることで全樹脂化に成功した。たとえドリルで穴を開けるような強い衝撃が加わった場合でも、発火・爆発を防ぐことができるという。

この技術は、おむつの高吸水性樹脂や車向けの潤滑油添加剤などを製造している三洋化成工業ならではのもの。かつて日産自動車でEV(電気自動車)用のLiB開発を主導していたAPBの代表・堀江英明氏の協力もあり実現した。APBは慶應義塾大学特任教授の堀江氏が、2018年10月に慶應イノベーション・イニシアティブとの合弁で設立したスタートアップ企業。三洋化成は、堀江氏と共同で新型LiBの開発を2012年より行っているという。

従来のLiBに比べ、同サイズの電池でも高容量化できる点もメリットだ。

金属を使わない樹脂性の電極は、厚膜化することが容易。そのため、電子の受け渡しを行う「活物質」を大幅に増やすことができ、同じ大きさの電池でも2倍以上の電気容量を作れるという。

これまでは電極に塗れる活物質の量に限界があったが、活物質を含むゲル状の電解質に変更することで容量を増やすことに成功した

また、複数の電池をつなげて使う場合にも、従来のLiBと比べてメリットがあるという。
 
これまでのLiBでは、複数をつなげる際に複雑な配線が必要だった。しかし、全樹脂型LiBでは積層による直列接続が可能になるため、接続部品点数が減らせるのだという。

つまり、システム全体の小型化が可能になったわけだ。

積み重ねるだけで簡単に高容量化が可能に。これも樹脂を使ったことで実現した新技術

この技術により、発電所や大型ビルなど、高容量の蓄電池を必要とする現場での活用も大いに期待されている。

これまでのLiBでは電極に活物質を塗り乾燥させる工程が必要だったが、樹脂化したことで製造工程を大幅にカット。製造コストも、既存のLiBに比べて安価にできる見込みだ。 

樹脂のメリットを生かし、3Dプリンターによる生産も可能になった全樹脂型LiB。折り曲げて使用することも可能であり、これまでは想像もつかなかった新しい形でわれわれの日常生活に登場する日も近いのではないだろうか。

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