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温めて塗るだけで術後の傷が治る!? NIMSが医療用接着剤を新開発

体温でゲル化する新規バイオポリマーを合成。手術後合併症予防に期待大

医療技術の進歩によって体への負担は軽減されてきているものの、臓器同士が炎症などによりくっついてしまう癒着をはじめ、出血や感染といった手術後の合併症は今なお大きな課題となっている。組織接着性・生体適合性・操作性に優れ、術後の合併症予防を可能にする医療材料の開発が強く求められる中、温めて塗るだけで術後の治癒に効果をもたらす医療用接着剤(ホットメルト組織接着剤)が誕生した。その詳細を紹介する。

開腹手術を受けた患者の90%以上に発生する術後癒着

術後癒着は、手術創部と周辺の臓器が組織修復の過程で一体化する術後合併症で、開腹手術を受けた患者の90%以上で発生し、腸閉塞や不妊症、骨盤痛を引き起こし、術後の生活の質の低下や在院延長、再手術の原因となってしまう。

これまで、術後癒着を予防する医療材料として、シート状材料や2液混合型スプレーが用いられてきたが、いずれも課題が浮き彫りとなっている。シート状材料は凹凸のある組織表面に密着しにくいため、組織接着性が低く、内視鏡下での操作性も低い。

一方の2液混合型の組織接着剤は、創部の形状に依存せずに被覆でき、内視鏡下での操作性にも優れているが、化学反応による炎症反応が生じる可能性があるほか、溶液の調製工程が必要で、スプレーデバイスに起因する混合ムラが生じる可能性がある。

1液型ホットメルト組織接着剤の材料設計とイメージ

国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)機能性材料研究拠点 ポリマー・バイオ分野の西口昭広主任研究員と田口哲志グループリーダーらの研究チームが開発したのは、ゼラチンのゾル-ゲル転移(粘性流体であるゾルが弾性体であるゲルへと転移する現象)温度を制御することで実現できる「1液型ホットメルト組織接着剤」。

共有結合よりも弱い水素結合により形成されるゼラチンは、温度に応答した可逆的なゾル-ゲル転移を示すことが知られている。

これまで使われてきたブタ皮ゼラチンのゾル-ゲル転移温度は32℃付近であり、体温で液体となってしまうため接着剤としては使用できないという課題があった。

体温でゲルを形成するUPy(ウレイドピリミジノン)腱ゼラチンの画像。接着密着性の違いが見てとれる

今回の研究ではブタ腱由来ゼラチンに対しUPy基を導入することで、分子間水素結合を人工的に増強した「UPy腱ゼラチン」を合成。

導入するUPy基の数により、ゼラチンのゾル-ゲル転移温度を自在に制御することができ、加温によってゾル化し、体温でゲル化する「ホットメルト」特性を導入した組織接着剤が設計可能になる。

新たな医療素材創出への波及効果が期待

接着の強度エネルギーは皮ゼラチンの4.2倍、腱ゼラチンの2.1倍。また、37℃までゲルの温度を低下させると、他の組織に対する接着性が失われることも確認済みで、癒着防止材料として有用であることも分かったという。

そして、生体環境で安定的なゲルを形成し、生体組織に強固に接着。さらに体内で分解・吸収されるため、組織の修復後に再手術の必要もないとされる。

ブタ大腸組織に対する各ゼラチンの組織接着性評価

研究チームは今回開発された高い組織接着性と生体適合性を有する接着剤について、「癒着防止材や止血剤、創傷被覆材など、さまざまな医療機器へ展開することを可能にするだけでなく、低分子薬や生物学的製剤、細胞などの医薬品との複合化も容易なため、新たな医療シーズ(特別な素材や材料)創出への波及効果が期待できる」と話す。

今後、前臨床試験および生物学的安全性試験を行い、実用化に向けた研究開発を進めていくという。

手術が成功したにもかかわらず、術後の患者、そして医療従事者を悩ませてきた術後癒着を防ぐだけでなく、本接着剤がもたらすさまざまな効果に期待したい。

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