
2023.8.2
古河電工がセルロース繊維強化樹脂を低コストで開発
石油由来の樹脂の代替材料としてマテリアルリサイクルを促進
バイオマス材由来のセルロース繊維で、リサイクルにおける粉砕・成形を繰り返しても強度低下が少なく、低コストで製造可能なセルロース繊維強化樹脂「CELRe(R)(セルレ)」を古河電気工業株式会社が開発した。サステナブルな社会実現におけるプラスチック製品の資源循環促進が期待されるこの樹脂の開発背景を解説する。
プラスチックの新たな材料として期待されるセルロース繊維強化樹脂
ナフサ(軽質油)を材料とする樹脂材料から作られたプラスチック製品は、サーキュラーエコノミー(循環経済)※の観点から昨今さまざまなリサイクルが試みられている。その一方で、CO2排出量削減や石油資源抑制の観点から、材料を石油化学由来のものからバイオマス材へ置き換える研究・取り組みがさまざまな企業や機関で進められている。
※サーキュラーエコノミーを後押しする“ケミカルリサイクル”とは
こうした中、バリューチェーン全体での温室効果ガス排出削減を目指す古河電工では「セルロース繊維」に着目。同じ材料による継続的なリサイクル(クローズドループリサイクル)の実現にバイオマス材を使いこなす技術の研究・開発に取り組んでいる。
セルロースは植物繊維や再生繊維に含まれる有機物質で、これらから作られるのがセルロース繊維であり、綿や麻、レーヨンなども該当する。軽量で強度に秀でているのが特徴だ。
セルロース繊維強化樹脂材料をプラスチック材料の代替に用いる事例はいくつか発表されているが、マテリアルリサイクル(プラスチック製品への再利用)を繰り返す際の強度低下、製造コストなどが課題として挙げられる。
中でも製造コストの高騰は、セルロース繊維ならではの問題だ。従来、セルロース繊維は樹脂へ分散(物質の粒子を別の物質内へ一定に配置)させることが難しく、高度な製造プロセスを経る必要があり、製造コストが必然的に高くなってしまう。
繰り返しのリサイクルに耐えるサステナブルな樹脂
古河電工は、この問題を光ファイバケーブルや電力ケーブルの製造で培った「樹脂混練技術」で解消した(混練は、「混ぜる」「つぶす」「散らす」などの意味)。紙の材料であるパルプと、高温下で溶融して冷やされると硬化する性質の樹脂である熱可塑性樹脂を二軸押出機で混練、ワンステップで約300~700μm(マイクロメートル/1mmの1000分の1)のセルロース繊維を樹脂中に高分散させる技術を確立、「CELRe(R)」の開発に至った。
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「CELRe(R)」の製造プロセス
画像提供:古河電気工業
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単純にセルロース繊維を混錬しただけでは、セルロースが凝集(※)してしまっていたが、独自の「樹脂混練技術」を用いることでセルロース繊維が満遍なく高分散する ※散らばったりしていたものが、一つに集まり固まること
画像提供:古河電気工業
樹脂混練技術を生かしセルロース繊維が樹脂に高分散された「CELRe(R)」は、ベース樹脂のポリプロピレンより弾性率が向上し、熱膨張率は低下。ポリプロピレンに相当する成形性を有する。
また、粉砕・成形を4回繰り返しても強度低下が10%未満という数値で、マテリアルリサイクルにも適している。
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「CELRe(R)」のリサイクル回数と引張強度残率の関係
資料提供:古河電気工業
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「CELRe(R)」を射出成形した製品の一例。樹脂のセルロース繊維が高濃度になると、セルロース特有の色合いが成形体に現れる。着色も可能
画像提供:古河電気工業
従来のプラスチック成形機・金型でそのまま射出成形が可能なことから、ローコストで石油由来の材料から置き換えられ、限りある資源の節約を実現した。
CO2排出量削減に貢献するバイオマス由来の「CELRe(R)」が今後、多方面のプラスチック製品へ採用されることで、サーキュラーエコノミーがより浸透することを期待したい。
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text:サンクレイオ翼
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