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ペットボトルをペットボトルに完全再生!アサヒ飲料が取り組む水平リサイクル

世界最先端の技術を採用し、自販機約3万台分のペットボトルをケミカルリサイクル

サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現に取り組む企業では、メカニカルリサイクル(呼称:マテリアルリサイクル)、ケミカルリサイクルへの取り組みが広がっている。中でもペットボトルの分野は飲料業界全体で試行錯誤しているが、日本唯一の技術を導入してリサイクルを進めるアサヒグループジャパン株式会社コーポレートコミュニケーション戦略部 兼 アサヒ飲料株式会社CSV戦略部の松﨑 大氏に話を伺った。

飲料業界で加速する“水平リサイクル”

昨今の飲料メーカーは、自社製造の容器を“水平リサイクル”する取り組みが目立つ。水平リサイクルとは、使用済みの製品をケミカルリサイクル、またはメカニカルリサイクルにより原料に戻し、再び同じ製品に作り変えることを指す。アサヒ飲料株式会社でCSV(Creating Shared Value:社会貢献と成長を両立させる企業戦略)を担う松﨑氏は次のように話す。

「飲料メーカーとして、ペットボトルをペットボトルに戻すことが環境への負荷を低減し、CO2削減にもつながる最適なリサイクルではと考え、水平リサイクルを推進しています」

※ケミカルリサイクルやメカニカルリサイクルを解説した記事:サーキュラーエコノミーを後押しする“ケミカルリサイクル”とは

水平リサイクルのイメージ図。現在は、首都圏で展開する自動販売機で回収したPETボトルをケミカルリサイクルを採用してリサイクルしている

画像提供:アサヒ飲料

飲料業界では“ボトルtoボトル”(BtoB)と称されるこの動き。2020年ごろから本格化し、アサヒ飲料はリサイクル事業を展開する日本のベンチャー企業である株式会社JEPLAN(旧・日本環境設計株式会社)の独自のケミカルリサイクル技術「BRING TechnologyTM」を採用したBtoBを推進している。

ペットボトルやポリエステル繊維はリサイクルを行う上で不純物の影響などから、サーマルリサイクルや埋め立て処分されるケースも生じる。しかしJEPLANの保有する「BRING TechnologyTM」は、ペット(PET=polyethylene terephthalate)を形成するテレフタル酸にエチレングリコールを特殊な処理を施し、分子レベルまで分解。不純物を高度に除去することが可能なことから、リサイクルを容易にする。服飾(繊維)のケミカルリサイクルにも対応し、循環型のものづくりをけん引する新技術としても期待される。

BRING TechnologyTMの概念図。松﨑氏は「技術の有効性も含めた将来性を評価して、というのが採用の大きな理由です。ペットボトルの循環を進めるに当たり欠かせない技術になると期待しています」と話す

画像提供:JEPLAN

「現在、この技術を用いて商業運転している施設は、JEPLANの子会社が神奈川県川崎市に設置したプラントのみになります。アサヒ飲料販売株式会社が首都圏で管理・運営する自動販売機3万台に備えられたボックスから回収される使用済みペットボトル2千tのリサイクルを目指しています」

飲料業界に投入されるペットボトルの量は年間50万t超、使用済みペットボトルの回収率は98%という高い数値で、BtoBの現状はメカニカルリサイクルが圧倒的な主流である。

「飲料業界においては、2030年には流通するペットボトルの50%をリサイクル由来など環境配慮素材に切り替えたいという声もありますが、アサヒ飲料では『容器包装2030』という独自基準を定め、同年に全量を環境配慮素材に切り替えることを目指しています。そのためにもケミカルリサイクルの活用は課題の一つです」

JEPLANの関連会社ペットリファインテクノロジーの再生ペット樹脂製造大型プラント(神奈川県川崎市)

JEPLANグループの大型プラントとBtoB紹介動画。同プラントへはアサヒ飲料も立ち上げ資金を一部融資し、約70名が働き、24時間体制でペットボトルのケミカルリサイクルが行われている

リサイクルの理想形は、素材に即した併用

サーキュラーエコノミーを推し進めるにはケミカルリサイクルへの移行が良いと捉えられそうだが、それは少し違うようだ。松﨑氏は「リサイクルは、全体の効率を考え、ケミカルリサイクルとメカニカルリサイクルを組み合わせて運用することが重要」と話す。

「メカニカルリサイクル、ケミカルリサイクルそれぞれに得意と不得意があります。回収段階で不純物の少ないきれいな使用済みPETはメカニカルリサイクルを、汚れや異物の混入のひどいものはケミカルリサイクルを活用、さらにメカニカルリサイクルで発生する副産物(製造工程で発生する再生できなったPET)はケミカルリサイクルで再利用するといった仕組みを整えることで、リサイクルフロー全体での歩留まり(原料の投入量に対し、実際に得られた生産量の割合)が良くなると言えます」

業界全体で無色透明のペットボトルの使用を推進、リサイクルにおける染料の除去を軽減したことが高いリサイクル率に結び付いている。

「海外では青や緑など色付きペットボトルが多く、リサイクルではデメリットとなります。そういった意味でも日本のペットボトルは質も高く透明で使いやすいと言えます」(松﨑氏)

また、現在流通しているペットボトルが100%水平リサイクル製なのか、20~30%リサイクル樹脂を混合したものか、「その違いは見分けがつかないほど、きれいに生まれ変わります」と松﨑氏は話すが、業界としては大きな課題も抱えている。

「リサイクルという循環を持続する上で、リサイクルコストをどこが負担するかという問題です。リサイクル樹脂は石油由来の樹脂に比べて高価になります。例えば、飲料の価格を20円上げるとします。消費者の方が『リサイクル樹脂を使っているから』という理由であえて20円高い商品を選ぶのかというと必ずしもそうではないでしょうし、昨今さまざまな商品が値上がりする中、CSVの観点でも難しい課題の一つだと考えています」

真の循環型経済を形成するために必要なこと

サーキュラーエコノミーの実現が社会全体の課題として意識され出す中、ペットボトルのリサイクルは今後どう取り組んでいくべきなのか──。

企業としての展望を松﨑氏はこう語る。

「リサイクルには持続可能性が重要だと考えます。持続可能なリサイクルの仕組み作りにおいてはコストの問題は重要な要素で、メーカー、消費者、回収業者、リサイクル会社などを含めた全体の仕組みをきちんと構築しないと永久的に続けられる仕組みにはならないと思います。本当のサーキュラーとなるにはその価値を伝え、理解し、支持してもらうことがこれからの課題だと考えています」

アサヒ飲料では、こうした課題解決の一環として学校など教育の現場でペットボトルやリサイクルの仕組みを伝える出張授業などにも取り組んでいる。

アサヒ飲料は出前授業で食育・環境教育を行ってきた(上画像)が、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて2021年よりICTを活用した遠隔授業を、全国の小学校を対象に実施している(下画像)

写真提供:アサヒ飲料

「学校に限らず、一般の消費者にも広く認知されることが大切だと考えています。日本のペットボトル回収率は世界でもトップレベルです。回収したペットボトルをより効率的にリサイクルするためにできることは、決められたルールに従ってきちんと捨てること。自治体の回収システム、自動販売機の横に設置された回収ボックスなど、それぞれのルールの下で回収されれば、よりサーキュラーエコノミーの理想形に近づけると思います」

アサヒ飲料では現在ペットボトルリサイクルはBtoBが理想と考えるが、「時代の流れ、新たな技術の登場に応じて常に柔軟に見直していきます」と松﨑氏は話す。リサイクルの先端を行くペットボトルの分野でも各メーカーは試行錯誤を続けて、常に時代に即した循環を見据える。

今後、リサイクルへの企業の貢献は加速し、消費者の販売基準にも定着していく社会が訪れるだろう。

ペットボトルをはじめとする身近に根付いたプラスチック製品がどのような仕組みでリサイクルされていくのか。私たちはその社会の中で何ができるのか。

サーキュラーエコノミーの未来に注目したい。

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