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工場排水の新たな使い道!? アサヒビール茨城工場で実証事業が進むバイオガスによる燃料電池発電

ビール工場の排水から精製した高純度バイオガスによる燃料電池活用の実証事業

多くの企業が持続可能な社会の実現に向けた事業展開へかじを切るのがトレンドとなってきた。そんな中、大手食品メーカーのアサヒグループの独立研究子会社であるアサヒクオリティーアンドイノベーションズ株式会社(以下、AQI)が、グループ内のビール工場にて排水由来のバイオガスを使った燃料電池発電の実証事業を開始した。

ビール工場の排水を使った効率的な発電手法

2015年9月、国連サミットで採択されたアジェンダが掲げる「SDGs(持続可能な開発目標)」。今や多くの企業がその目標に賛同し、地球環境問題の改善に取り組んでいる。アサヒグループもその取り組みを推進するグループ企業の一つだ。

アサヒグループは、これまで持続可能な水資源利用として、ビール製造に用いる水の使用量と保全する社有林が蓄える水量を同等にしていくことを目指すウォーターニュートラルや、気候変動に強い農作物作りの開発のために使用済みビール酵母の機能性研究を進めるなど、環境問題に対する活動を積極的に行ってきた。2050年にはグループ全関連施設の温室効果ガス排出ゼロを目指した「アサヒカーボンゼロ」という目標も掲げている。

そんな中、二酸化炭素(以下、CO2)排出量削減の新たな発電モデルとして、グループ会社であるアサヒビール株式会社の茨城工場で、工場排水から精製したバイオガスを使う燃料電池発電の実証事業を、AQIが2020年10月から開始した。

実証事業には三菱パワー株式会社(旧三菱日立パワーシステムズ)が開発した固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell)「MEGAMIE(メガミー)」を使用。2021年12月頃までに1万時間連続稼働を目標としている(実証事業完了は2022年3月を予定)。

アサヒビール茨城工場に設置されたMEGAMIE。バイオガスを燃料として用い、発電をするのは今回の試験が初めて

>MEGAMIEの詳しい内容はこちら『燃料電池×ガスタービン! クリーンで高効率な未来のハイブリッド発電に注目

これが実現すると、工場から排出される CO2を年間1000tほど削減できる見込みとなり、さらに年間約160万kWh(一般世帯約350戸分)の電力量を生み出すことができるという。

今後、実証事業を終えて同グループ内で導入していく場合、茨城工場では廃熱を利用した二次発電や、太陽光を活用した水素燃料電池などと組み合わせ、工場内で使用する電力を補っていく構想だ。

燃料電池発電用にバイオガスを高純度化

今回の発電で利用されるバイオガスは、ビール工場の排水に含まれる有機物を微生物の力で分解させることで得られている。

その分解工程は3段階を経る。まず、処理タンクに運ばれてきた排水中の多糖類やタンパク質などを、糖やアミノ酸に分解。次に、それらの成分を酢酸に分解し、最後に酢酸からメタンガスを生成する流れだ。このメタンガスが、当実証事業の「バイオガス」に当たる。

実はアサヒグループでは、これまでも国内ビール工場、飲料工場などで、この排水処理方法によりバイオガスを精製。ボイラーなどで燃焼し、熱エネルギーとして再利用してきた。

今回はCO2排出量削減の観点から、より環境に優しく効率のいいエネルギー生産方法への転換を実現するため、初めて燃料電池の動力源として利用することになったという。

当初、排水から得られるバイオガスには、燃料電池の電極を不活性化する硫黄系成分などの不純物が含まれているため、燃料電池の動力源として継続的に活用するには技術開発が必要だった。

そこでAQIは、バイオガスを高純度に精製する技術を新たに構築し、九州大学と共同で小規模な燃料電池での発電試験を実施。発電性能を低下させずに1万時間の連続発電を達成した。これを受け、実用スケールとなる今回の実証事業へと移行したのだ。

この実証事業では、長時間稼働による発電性能の低下が一定レベル以下に抑えられるかを見極め、実用化への判断材料とする予定だ。

排水から精製されたメタンガスに含まれる硫黄系成分などの不純物を除去する実験用の装置。独自研究によって工程が構築された

工場のベース電源として期待

今回の発電モデルは、天候などの影響を比較的受けにくく安定的に電力を得られることから、AQIは工場内の“ベース電源の一つ”としての活用を目指している。

今回の実証事業で得られたバイオガス精製や設備導入に必要な技術に関して、アサヒグループはあえて特許を取得せず、食品業界をはじめとした各業界が活用できるよう可能な限り情報をオープンにする姿勢だ。

不要物から燃料を生成し、CO2の排出量まで削減できてしまう新しい排水処理の形。普及が進むか注目したい。

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