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熊本大学が“お茶の渋みの元”タンニン酸からサステナブル素材を開発

伸縮性&自己修復に優れた素材で、ごみゼロ目指して有効活用

熊本大学大学院による研究グループは、タンニン酸と超高分子量のポリエチレングリコールを水中で混合させることで、伸縮性に優れたゲルの採取に成功したと今年8月に発表した。ゲルは乾燥させると強靭(きょうじん)で軽量なプラスチック状の素材となるほか、ゲルを調製する際に生じる不要な上清(じょうせい/懸濁していた物質が重力や遠心力によって沈殿した上部の透明な液体の部分)を乾燥させると伸張性に優れたフィルムが生成される。これらの素材開発は、同研究グループの“お茶”をめぐる何気ない日常の気づきが起点となっている。そのユニークな背景も含めて経緯を解説する。

新素材誕生のきっかけは、お茶の渋み

今回の研究は、製剤学をはじめ、超分子化学や超分子薬学を研究領域とする熊本大学大学院先導機構、および同大学院生命科学研究部(薬学系)の東 大志准教授と、同大学大学院薬学教育部博士前期課程2年・後藤唯花さん(当時)らのグループによる、お茶の渋みへの関心から始まった。

東准教授は、お茶を飲んだ際に感じる舌のざらつき=渋みを好み、日常的に濃い味のお茶を飲んでいた。あるとき、渋みの元が気になった東准教授は、お茶に含まれるタンニン酸(以下、TA)が原因であることを知る。さらにTAについて詳しく調べると、東准教授が研究で多用するポリエチレングリコール(以下、PEG)と水中で混合するとゲルを形成することを、海外の研究論文から知った。

論文によると、研究は一般的な実験で用いられる分子量1万のPEGで行われていたが、東准教授の研究室には、さまざまな分子量のPEGがあったこともあり、この水中混合を、TAと分子量50万の超高分子量のポリエチレンオキシド(PEO)で試行。すると、混合した瞬間、既報のゲルとは全く性質の異なるゴム状のゲルが得られた。

※ポリエチレングリコールは分子量が2万未満の材料をPEG、2万以上の分子量の場合はPEOと呼ぶのが通例

分子量1万のPEGとTAから生成されたゲル(A)は粘り気を有するが、分子量50万のPEOとTAから生成されたTaPeOゲル(B)は、さらに伸張性に優れたゴム状に

画像提供:熊本大学

東准教授は、この水中混合に興味を持った学生たちとチーム「タンニン酸ファミリー」を立ち上げ、「TaPeOゲル」と命名したゲルの性質を追究、そのユニークな性質を解明していった。

ゴム状のゲルが有する1000%の伸長率と形状記憶能力

タンニン酸ファミリーの研究によると、まず圧縮成形したTaPeOゲルを用い引張試験を実施。その結果、TaPeOゲルは水分を含んだ状態で引っ張るとよく伸び、最大で1000%の伸長率を示した。またゲルを切断、切断面同士を接触させると再接着することも分かった。

次に、TaPeOゲルを乾燥させると軽量で強靭なプラスチック状の素材に変化する。この素材は500gの負荷がかかっても破断せず、破断した場合でもお湯に浸せば自己修復し、修復後も破断前と同じ強度を有する。

また、乾燥させたTaPeOゲルは固く変形しないが、お湯に浸すと変形し、室温でしばらく放置するとその形状で固定されるが、再びお湯に浸すと最初の形状に戻る形状記憶能力を有することも分かった。

乾燥させたTaPeOゲルの形状記憶能力を確認した過程

画像提供:熊本大学

さらに、TaPeOゲルの調製過程で生じる上清(懸濁液)には、ゲルを作ることができなかった未反応のTAやPEOが含まれ、これを乾燥させることで伸長率1500%のフィルムが得られ、TaPeOフィルムと名付けられた。

この結果、調整過程で生じる副産物(上清)もTAとPEOを使用することで、捨てる部分を一切生み出さない環境に優しい強力なゲルやフィルムであることが示された。

TaPeOゲル(A)調製で生じる上清もTaPeOフィルム(B)として活用でき、安全性の高いTAとPEOによる、余す部分なく活用できるサステナブルな新素材の調製法が確立

画像提供:熊本大学

TAは安価で安全性も高く環境にも配慮された素材だ。

抗菌作用や抗ウイルス作用も有し、近年は新型コロナウイルスに対する抗ウイルス効果も報告されている。

また、PEOは多目的に使用される合成高分子で、一般的に毒性が低く人体に優しいため、医薬品や化粧品に広く使われている。

こうした特性からTaPeOゲルとTaPeOフィルムは、さまざまな治療法や医療技術の進展への寄与が期待される。

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