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東京大学大学院などの研究Gが“音”を感じて変化する新素材「感音性物質」を開発

高分子材料が抱える問題を解消し、リサイクル推進・拡大に貢献へ

東京大学大学院総合文化研究科の本多 智助教、スタンフォード大学のPierre T. Khuri-Yakub名誉教授、サンパウロ大学の白 啓男助教らによる研究グループは、音を感じて力学物性を変化させる新素材「感音性物質」を開発したと今年7月に発表した。この新素材を用いた技術で、これまでリサイクルへの転用が難しかった高分子材料※1の改変を容易にし、循環型社会の実現に向けて広範な産業への貢献が期待される。
※1…一般に分子量が1万超となるぐらい多数の分子が連結してなる化合物で構成される材料

高分子材料のリサイクル推進・拡大を妨げる課題とは

私たちの身の回りの生活用品には、ポリエチレンやポリプロピレン、PET、ナイロン、ポリウレタンなどに代表される高分子材料があふれている。これら高分子材料の中でも接着剤やタイヤに代表される合成ゴムには、熱的、力学的、さらには化学的耐久性を付与するため「架橋」※2が施されている。

その架橋を施された高分子材料は長期的な使用への耐用性が上がる半面、架橋はその役割を終えた高分子材料のリサイクルを妨げることが問題視されていた。

物質科学分野ではこうした状況を鑑みて、特定の外部環境や刺激により、「一度変化したものを元に戻せる」可逆的に形成・切断が可能になる動的共有結合(Dynamic Covalent Bond=DCB)を駆使した架橋材料の使用が提案されてきた。

中でも、ピンポイントへの作用が可能な光刺激は、意図した部分のみを意図したタイミングで解体するのに有効な外部刺激としてDCBの解離に応用されてきた。しかし、光刺激は材料の表面には作用するものの内部まで作用させることが困難だった。

※2…高分子中の原子同士が直接、または他の原子を介し結合すること。原子やイオン、または分子の間を他の原子が橋架けするようにつなぐことから「橋架け」とも呼ばれる

光と音の外部刺激としての違いを表すイメージ図。音の場合は原理上、振動が届けられた深部や局所的にも刺激を与えることが可能となる

(C)Honda et al., Adv. Mater., 35, 2304104, 2023(DOI: 10.1002/adma.202304104)

この課題を解決するため、研究グループは音波で伝播される振動を材料の内部に作用させる外部刺激として「音」、とりわけ医療にも用いられる高密度焦点式超音波「HIFU」※3に着目。

音を感じる感音性物質の開発と、感音性物質の物性を音で操る方法論を開発し、架橋材料内部を局所的かつ自由自在に制御できることを目指し、検討に取り組んだ。

※3…High Intensity Focused Ultrasound:電力を消費・蓄積・放出する素子へ電圧を加えて発生させた超音波を、特殊なデバイスで(太陽光をレンズで1点に集めるように)強め合い生成された超音波。前立腺がん治療などに用いられる技術

独自製作デバイスで超音波を照射、感音性物質を発見

研究グループは、さまざまな検討の末にヘキサアリールビイミダゾール(HABI)※4という従来は光刺激を与えるとラジカル種※5を生成することで知られてきた機能性団を持つ架橋高分子が、HIFUにも極めて良好に応答してラジカル種を生成する感音性物質であることを見いだした。

※4…HABIは光刺激で可逆的に開裂(かいれつ)し、トリフェニルイミダゾリルラジカル(TPIR)というラジカル種を生成するため、この研究ではHABI由来のDCBを含む架橋高分子が感音性物質として振る舞うことが突き止められた
※5…不対電子(対にならない電子)を持つ分子あるいは原子

研究グループによって独自に製作されたHIFUデバイス

画像提供:東京大学大学院

今回、研究グループで着目したHIFUを発生するデバイスが超音波の焦点を形成する様子を表すイメージ図

資料提供:東京大学大学院

続いて、研究グループは光造形式3Dプリンティングによって感音性物質から成る造形物を作製する方法論を見いだした。光造形式3Dプリンティングはわれわれの生活にも浸透しつつあるものづくり方法論の一つで、造形物には架橋が施されているために、いったん造形されると形状を改変したりリサイクルしたりすることが困難な特徴がある。

そこで、独自製作したデバイスで造形物の中心を焦点としてHIFUを照射したところ、一定出力を超えた段階で照射部位のみにTPIRの生成による色変化が確認された。

独自製作されたHIFUデバイスから発せられた超音波が、音を感じる新素材をピンポイントで応答させている

画像提供:東京大学大学院

さらにHIFUの出力を上げることで、造形物がHABI由来のDCBを含むか否かを問わず材料内部を遠隔的に破壊・解体できることも解明された。この成果の活用が期待されるのが、架橋高分子材料の用途の一つである接着剤が抱える問題の解消だ。

接着剤は、多様な材料・部品を強固に固定するため接合部分を分離できない場合、材料・部品はリサイクルされず廃棄を余儀なくされてきた。このような状況にHIFUデバイスに高いエネルギーを印加することで感音性物質であるか否かに寄らずさまざまな架橋高分子材料を簡単に解体できるようになり、従来型接着剤の解体に問題を抱える産業分野へ応用される可能性が高い。

DCBを含まない架橋高分子材料の試験片に対して水中で高出力のHIFUを照射するイメージ図(左)、実際に照射して試験片が解体した瞬間

画像提供:東京大学大学院

今回の研究で、感音性物質の化学とHIFUの工学を融合し、架橋高分子材料内部の力学物性をピンポイントで操り、解体・再加工・再利用する新たな方法論が開拓された。

このことから樹脂や接着剤、さらに3Dプリンティングによる造形物の解体・再加工・再利用など、循環型社会の推進・拡大が加速するだろう。

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