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放射線リスクのない核融合反応に世界初成功! クリーンな核融合炉実現へ向けて一歩前進

核融合科学研究所と米国のスタートアップが軽水素とホウ素11の核融合反応を実証

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所(岐阜県土岐市)と米国・TAE Technologies社の研究グループが、放射線リスクのない水素とホウ素の同位体(同じ原子番号を有するが中性子数が異なる核種)である“軽水素”と“ホウ素11”の核融合反応の実証に成功。極めて高温のプラズマが必要で難しいと考えられてきた、これらを用いた核融合反応を世界で初めて実現した。その詳細を解説する。

先進的核融合燃料による反応に挑戦

原子核同士が合体(融合)することで大きなエネルギーを生み出す核融合──。

現在、研究が進んでいる核融合反応は、海水から採取可能な水素を燃料とし、重水素と三重水素の原子核を融合させ、高エネルギーヘリウムと放射線である中性子を生成する事例が多い。
「核融合」を3分解説!

しかし、近年は放射線である中性子が発生しない「先進的核融合燃料」を用い、よりクリーンな核融合炉の実現を目指す研究が盛んになっている。日本の核融合科学研究所と、米国の核融合スタートアップ企業TAE Technologies社の共同研究グループもその一つ。同グループは、先進的核融合燃料である軽水素とホウ素11を用いた共同研究を行い、核融合反応の実証に成功した。

実験場となった核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(以下、LHD=Large Helical Device)実験室内

画像提供:核融合科学研究所

核融合反応を起こすためには、水素同位体燃料(重水素と三重水素)を加熱し、1億度以上の高温にする必要がある。すると、原子核の周囲で回っている電子が原子の軌道から外れ、原子核はプラス、電子はマイナスの性質を持つ状態になる。このような不安定な原子の状態をプラズマと言い、核融合炉では高温のプラズマを磁場で閉じ込め、その中で反応を起こしてエネルギーを発生させる。

今回の実験では、水素同位体燃料よりもさらに高温のプラズマが必要で、核融合反応の実現は難しいと考えられてきたが、研究成果により先進的核融合燃料を使った核融合炉の実現に向けた開発が大きく前進すると注目されている。

核融合反応を実証する高エネルギーヘリウムを検出

核融合反応を効率よく起こすには、原子核同士を高速で衝突させなければならない。合体させる原子核はプラスの電気を帯びているため、スピードが遅いと静電気の反発力で原子核の進路がそれてしまう。

そのため、今回の実験では軽水素を時速1500万km、マッハ約1.2万という音速を超える速さでホウ素11に衝突させる必要があった。

実証実験のイメージ図。時速1500万kmを超える速さの軽水素と、プラズマ内に落下させたホウ素11を用い 核融合反応を起こし、その生成物の高エネルギーヘリウムを検出する

資料提供:核融合科学研究所

研究が実施された核融合科学研究所のLHDは、プラズマを加熱するために時速1500万km超の速さの軽水素をプラズマに入射する装置を独自に開発。また、高温プラズマを制御するために、プラズマにホウ素の粉末を振りかける装置を設置した。これらを組み合わせることで磁場を閉じ込め、プラズマ中で軽水素とホウ素11との核融合反応を試みた。

本実験における核融合反応は、反応時に生成される高エネルギーのヘリウムの検出が実証に必須である。そのため研究グループは、これまでのLHDにおけるさまざまな実験でヘリウムの生成が確認された数値シミュレーションに基づき、発生の際に複雑な動きをするヘリウムの軌道を予測。ヘリウムが飛来する予定のプラズマの表面近くにTAE Technologies社が製作した計測器を設置した。

LHDのプラズマ真空容器の内部

画像提供:核融合科学研究所

ホウ素を振りかけたプラズマに高速の軽水素を入射する実験を行った結果、予測通り軽水素とホウ素11の核融合反応によって生成したヘリウムの検出に成功。これにより、世界で初めて磁場で閉じ込めたプラズマ中での軽水素とホウ素11の核融合反応が実証された。

持続可能な社会の実現のために、温室効果ガス排出の抑制は必須との認識が定着する中、放射線リスクが少なく、燃料となる資源が豊富な核融合発電の実現は世界中の人々の期待を背負っていると言っても過言ではない技術の一つだ。

今回の実証が、そのための研究を加速させる第一歩となることを願いたい。

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