2018.6.4
“発電服”が身近に!? 服に張れる太陽電池が登場!
アイロンもOK!理研と東レが共同開発
ワイシャツなどにペタッと張り付けて、洗濯やアイロンにも耐えられる!理化学研究所と東レ株式会社の研究グループが、超薄型ながら高いエネルギー変換効率と耐熱性を兼ね備えた有機太陽電池を開発した。量産化されれば、誰もが“発電服”を着て歩く時代になる!?
100℃の加熱でも発電性能を維持!
スマートウォッチや電気加熱式たばこが当たり前になりつつあるが、どんなに便利なデバイスも“充電切れ”してしまったら何の役にも立たない。スマホやタブレットPCも持ち歩かなければならない現代のビジネスマンにとって、どこでも使える電源の確保は死活問題になりつつある。
そんな中、理化学研究所(以下、理研)と東レ株式会社(以下、東レ)の研究グループが開発した“服に張れる太陽電池”は、われわれを「コンセント探し」の呪縛から解放してくれる可能性を秘めている。その厚さは、わずか0.003mm(3マイクロメートル)! 理研が独自に培ってきたフレキシブルな有機半導体技術をベースに、可視光を吸収することができる新たな半導体ポリマーを開発したことで、超柔軟で極薄の有機太陽電池が完成したという。
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理研と東レの研究グループが開発した超薄型有機太陽電池。半透明に見えるほどの薄さと、ぐにゃぐにゃに曲がるフレキシブル性を兼ね備えている
画像提供:理化学研究所
一見、頼りないルックスながら、侮ることなかれ。この有機太陽電池の最大エネルギー変換効率は従来品の7.9%を上回る10%を達成。さらに、100℃の加熱でも素子劣化が無視できるほどの高い耐熱性を持っている。
また、大気環境中で2000時間(約80日)保管後の性能劣化も20%以下に抑えられている(従来は700時間後のエネルギー変換効率の低下が50%程度)。これまでは難しかった高効率と高安定性の両立を実現しており、高温下での駆動や熱を伴う加工プロセスにも適応する。故に、アイロンの熱を用いて衣服へ直接張り付ける「ホットメルト手法」も可能だ。
生地に張り付けた超薄型太陽電池をアイロンで加熱している様子。耐熱性は100度の加熱で性能劣化率はわずか0.3%。従来の材料は100度だと11.8%も劣化するというから、改善率がすさまじい
疑似太陽光照射で最大36mWの発電!
ワッペンのように衣服にペタッと張れる、次世代の太陽電池。ここからは、その特徴をもう少し詳しく見てみよう。
そもそも、理研はこれまでも伸縮性と耐水性を両立した「洗濯が可能な超薄型有機太陽電池」を発表しているが、変換効率と耐熱性の両立は難しいとされ、高温環境での駆動や熱加工プロセスを有する製品への適用に課題が残っていた。
しかし今回、共同研究グループは、前述のように基板から封止膜までの膜厚が0.003mmという薄さでありつつも、変換効率と耐熱性、大気安定性を兼ね備えた有機太陽電池の開発に成功。この特徴は、新しい半導体ポリマー「PBDTTT-OFT」を開発したことで実現したという。
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生地に取り付けられた超薄型有機太陽電池
画像提供:理化学研究所
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新たに開発された超薄型有機太陽電池と従来電池の耐熱性比較
画像提供:理化学研究所
この特徴は、新しい半導体ポリマー「PBDTTT-OFT」を開発したことで実現したという。
PBDTTT-OFTは、従来の有機太陽電池で広く用いられてきた「PBDTTT-EFT」と似た構造を持つが、PBDTTT-EFTにはない直線状の側鎖(そくさ:鎖式化合物の分子構造で,最も長い炭素原子の連鎖から枝分かれしている部分)を有する。この構造により、高い結晶性を持つ膜が形成でき、加熱による導電性の低下が避けられるとのこと。
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「PBDTTT-OFT」(左)と「PBDTTT-EFT」(右)の構造式。左上部の囲みの部分が今回の改良を実現させた構造
画像提供:理化学研究所
また、基板材料なども見直すことでエネルギー変換効率と耐熱性が向上。大気安定性も改善したという。
実際の数値を見ても、エネルギー変換効率は以前の研究から1.3倍向上し、最大値は10%に到達。縦横5cmの大きさで最大36mWの電力が得られ、センサーや無線機器などを動かせる。
現実的な発電量の目安は、例えば縦横10cmの電池を衣服の肩などに張り付けた場合、屋外なら1Wまで、屋内の照度なら1mWまで。現状の性能ではスマートフォンの充電には力不足かもしれない(昨今はコンセントにつないで10W以上の電力を供給できる急速充電器も販売されている)。
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同太陽電池をシャツの胸部に張り付けた例
画像提供:理化学研究所
ただ、将来的にはスマートフォンや高齢者の見守り用センサーなど、身に着けられる電子機器の充電などでの用途が見込まれる。既存のモバイルバッテリーと比べるまでもなく、「持ち歩きやすさ」は格別。太陽光で発電するのだから、財布に優しいこともポイントだ。
同研究グループによると、目標は2020年代前半の量産化。花が光合成によって酸素を発生するように、人間も(服が)光を浴びることでエネルギーを作れる時代になるかもしれない。
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text:浅原聡