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特集
5Gからの招待

通信業界の変革者「5G」とは何者か?

最速・大容量通信の実現がクルマや町、コンテンツの概念を変える

2018年2月、世界最大規模となる携帯電話の総合見本市「Mobile World Congress 2018」が開催され、世界中から注目が集まった。目玉となったのが、新たな通信規格となる「5G」。エネルギー消費の観点からも、現代のインターネット社会におけるデータの通信量・速度は無関係とは言えない。そこで本特集第1回は、同イベントで展示された各国企業の動きをレポートし、5Gがわれわれにもたらす変革に迫る。

5Gがもたらす新しい世界

2018年2月26日から3月1日にかけて、スペイン・バルセロナで「Mobile World Congress 2018」(以下、MWC2018)が開催された。MWCは、世界の大手携帯キャリア、端末メーカー、通信機器メーカー、コンテンツ企業などが出展する、世界最大級の携帯端末&通信機器見本市だ。

約200カ国から10万人以上の来場者が訪れるとされており、各有名企業の経営者や有識者が出席する大規模なカンファレンスも同時に開催される。いわば、“通信業界のパリコレ”である。

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「Mobile World Congress 2018」が行われたスペイン・バルセロナにある会場フィラ・グランヴィア。連日世界中から訪れる人々でごった返していた

MWCでは毎年、各社が推す新製品だけではなく、将来的に有望な数多くのテクノロジーにもフォーカスが当てられるが、今年の主役はなんといっても次世代通信規格「5G」だった。各社の展示製品およびコンセプトからは、その5Gがもたらすであろう「新しい社会像」が、明確なイメージと共に立ち現れてくるようだった。

「5G技術をどのような産業領域に対して、どううまく利活用していくかという具体的なユースケースは、まだまだ議論の余地が残っています。それでも、米国では2019年から、日本では2020年ごろを目途に実用化の準備が進められている状況です」(日本の大手通信企業関係者)

5Gとは通信規格の「5th Generation」、第5世代移動通信システムとも訳されている。その明確な定義は存在しないものの、その特徴としては「超大容量・超高速通信」「低遅延」、時速約500kmの移動中でも接続を可能とする「モビリティ=移動性」などが挙げられている。

5G以前の通信規格である4Gには、広帯域周波数をいくつか束ねて通信速度を高めるという技術が使われている。実用化された初期段階は、さらにそれ以前の3Gとそれほど変わらないという評価も受けていたが、その後、技術が発展。現在では、広帯域周波数を数本組み合わせ、既存の通信環境と比べて6倍ほど速いとされるLTE(Long Term Evolution)まで開発されている。

MWC2018会場内。装置メーカー、総合ソリューションベンダー、ハードウェアメーカー、モバイルコンテンツプロバイダー、ソフトウェア開発ベンダーなど取扱品目は多岐にわたる

一方、5Gのコンセプトは、広帯域周波数を束ねて速度を向上させた4Gとは根本的に異なる。4Gまで使用されていた低周波数帯域を利用せず、全く異なる高周波帯域を使って通信環境の向上を目指すというものだ。一般的に、5Gの通信速度はLTEの1000倍、3Gの10000倍ともされており、例えば、800MBの動画をダウンロードするのにかかる時間は、3Gの場合は7分半、LTEでも43秒ほどがかかる計算だが、5Gの場合、1秒もかからないという触れ込みだ。

今後、世界ではインターネットの通信量の増加に加え、家庭用IoT端末、自動走行車やコネクテッドカー、ドローン、産業用・サービスロボット、施設や都市、インフラに設置されるセンサーなどがハイペースで増えていく見通しとなっているが、5Gはそれら端末、もしくはハードウェア、センサーから送られるデータを安全かつ高速に送る“大口径のパイプ”としての役割を期待されている。

また逆に、複数台のハードウェアを遠隔で同時に滞りなく操作・コントロールする際にも有用だというのが、会場に出展していた企業関係者たちの一致した見解だった。実際、新たな通信技術の登場によって実現可能になるであろう、さまざまな製品とビジネス構想がMWC2018の会場を埋め尽くしていた。

5Gによって可能となるコネクティッドカー時代

MWC2018で、まず来場者の大きな注目を引いたのは、インターネットへの常時接続機能が付いた自動車「コネクテッドカー」だ。

米コンピューター機器メーカー・HPは、運転席後部エンジンや車体内部のいたるところにIoTセンサーを搭載した、F1用コネクテッドカーを披露した。説明によれば、センサーがタイヤの摩耗具合やエンジンノイズ、風の抵抗などの数々の情報をリアルタイム収集・分析し、最適な車両コンディションでレースに臨むことを可能にするという。

米・HPが展示していた、F1用コネクテッドカー。会場では、特に男性来場者から熱い視線を集めていた

一方、独ソフトウェア企業SAPが展示した車両は、Mastercardとのコラボ製品。同車両には、ドライバーがわざわざ乗り降りしなくとも、車内でガソリンスタンドの決済を行える機能が搭載されている。近年、現金ではなくスマートフォンで決済する「デジタル決済文化」が、中国や東南アジア圏をはじめとした世界各国で根付き始めているが、その機能が自動車に搭載された形だ。

そのほかにも、日本のNTTドコモ、フィンランドのNOKIA、中国のZTE、スペイン自動車メーカーのSEAT(セアト)など、コネクテッドカーを展示していた企業は枚挙にいとまがない。共通して提示されたのは、自動車という製品が新たな通信技術との融合で安全かつ便利になるという「モビリティの未来像」である。

「自動走行車やコネクテッドカーが普及していけば、自動車が『所有』されるものから『共有』されるものに属性を変えていくでしょう。Uberなどが先鞭をつけた、MaaS(Mobility-as-a-Service:サービスとしてのモビリティ)産業も拡大していくはず。おそらく、自動車の販売台数自体は縮小していくと思われ、各自動車メーカーは製造業から“サービス業者”に転換を迫られるかもしれません。MWC2018で、多くのIT企業や通信系企業がコネクテッドカーを展示していたのがその証拠でしょう。いずれにせよ、次世代のモビリティを構想する際に、安全かつ膨大なデータを送受信できる通信環境は不可欠。そこで、5Gに注目が集まっていると分析できます」(韓国の大手通信系企業関係者)

VR、AR、MR分野への期待

コネクテッドカーに次いで展示が目立ったのは、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)分野のコンテンツおよびサービスだ。

韓国企業最大手・サムスンは、「VR宇宙ミッション:人類の月探査(Mission to Space VR:A Moon for All Mankind)」という4DVR体験スペースや、スノーボード、アルペンスキーなど冬季オリンピック種目を体験できるVRブースを展開し、会場で一際長い訪問客の列を生むことに成功した。

韓国・サムスンが展示した、スノーボードのVRブース。サムスンは、最新スマートフォン、VRコンテンツの他にもスマートホーム、IoT端末関連の製品を展示した

なお、VRや動画など、大容量のデータ送受信が必要なコンテンツビジネスは、5Gが実現することで最も恩恵を受ける分野だと言われている。データ規模が大きいコンテンツを安定供給するため、もしくはよりユーザーがコンテンツを扱いやすい環境が整うためには、通信技術のイノベーションが必要とされていたからだ。

「使用できるデータ通信量が増えると、ユーザーが動画コンテンツを利用する量が相対的に増えるという統計があります。これは、動画といった容量が大きいコンテンツの需要が潜在的にまだまだあるということ。利用者が増えれば、自ずと提供側の制作資金も増え、より優良なコンテンツが生まれるというサイクルがうまく回り始めるかもしれません」(日本の大手通信企業関係者)

中国PCメーカー・Lenovoのブースに展示されたVRコンテンツ。会場では、各社各様のVR・AR・MRコンテンツの展示が行われた

VRやAR関連の技術は、エンターテインメントやゲームといった領域のみに需要があるわけではない。職業訓練や遠隔医療、ヘルスケアなど産業面でも大きな需要が眠っている。ただし、動画コンテンツやゲームのように途中で通信が途切れてしまっては大問題。周辺環境や技術の向上が望まれている。そのような事情を考え合わせると、今後、5G環境が実現すれば、VRやARなどサービスの質や幅もがらりと変わってくるはず。MWC2018の会場で目立った関連展示は、そんな来るべきサービスの未来を予兆するものだったのだろう。

会場では、そのほかにウェアラブル端末、スマートホーム、スマートシティといったIoT関連の展示も数多く展開された。5G通信が実現すれば、住宅はもちろん、ビル群や道路、信号機、街灯、上下水道、防犯カメラなど都市インフラ、また自動車など交通手段、そして人間の相互通信がより円滑になる。結果、これまで以上に安全かつ効率的で、住みやすい都市(=スマートシティ)が名実ともに実現していくはずだ。

MWC2018で出展した各企業のビジョンは着実に実現していくのだろうか。日本での実用化が始まるとされる2020年も、もう間もなく。その未来の社会の光景を実際に目撃できるまで、それほど長い時間はかからないだろう。



<2018年4月23日(月)配信の【第2回】に続く>
第2回:ロボットやAIが社会に押し寄せる!通信革命が果たす創造世界の現実化

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