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特集
5Gからの招待

5Gが人間のアバター・ヒューマノイドロボットを可能にする!

タイムラグなしの人間の作業を代替するロボット、実現近づく

前回まで、2月にスペイン・バルセロナで行われた世界最大の携帯電話見本市「Mobile World Congress 2018」(以下、MWC2018)の様子をレポート・分析してきた。特集第3回となる本稿では、MWC2018でひときわ目を引いていた5Gロボットを開発するNTTドコモ、そして新日鉄住金ソリューションズに、近い将来、われわれの前に登場するであろう世界とその可能性を聞いた。

5G時代の新サービスを具現化するために

「大容量・超高速」などを特徴に持つ次世代通信規格「5G」には、社会のあり方を大きく変え得るさまざまな可能性が秘められている。日本では2020年ごろを目途に5G環境が本格的に整備されていくと予想されているが、民間企業各社はすでに、その具体的なユースケース(実用例)を利用者に提示する作業に着手し始めている。

中でも、NTTドコモと新日鉄住金ソリューションズが提示する「5Gロボット」のコンセプトはとてもユニークだ。5Gロボットは、MWC2018で、人間の動きとリアルタイムでシンクロする「書道ロボット」として紹介された。両社は最終的に、通信の際に生じるタイムラグがほとんどない「低遅延」という5Gの特徴を生かし、人間の“アバター”になりうるヒューマノイドロボットを実現しようとしている。

NTTドコモと新日鉄住金ソリューションズが開発した5Gロボット。MWC2018では「書道ロボット」として展示された

今回、この5Gロボットの研究開発を担当する2人に話を聞いた。NTTドコモの先進技術研究所 5G推進室で研究主任を務める原田篤氏、新日鉄住金ソリューションズ テレコムソリューション事業部の小川哲男氏だ。

「NTTドコモでは、あらゆるモノが互いにつながる5G時代を想定して、どのようなアプリケーションやサービスを具現化していけるかという議論を社内で続けてきました。並行して、新しい試みに共にチャレンジしていただけるパートナー企業を探していたところ、新日鉄住金ソリューションズさんが手を挙げてくださったんです。当初は、5Gとロボットで工場の働き手不足をいかに解決していくか、もしくは工場機械の遠隔制御などをいかに円滑に行うかなどの目標を軸に、ユースケースの開発を一緒に進めてまいりました。その流れの中で、新日鉄住金ソリューションズさんからヒューマノイドロボットを具現化してみませんか?というご提案をいただいたんです。それが、5Gロボット開発の直接的なきっかけとなっています」(原田氏)

NTTドコモ先進技術研究所 5G推進室の原田篤氏。5Gロボットの開発経緯について説明してくれた

5Gの低遅延という特徴を生かせば、遠隔地にあるデバイスやハードウェアをリアルタイムかつ確実に制御できるようになる可能性が高い。そのメリットを、具体的かつ分かりやすくアピールするためにはどうすればよいか。両社が悩んだ末に生まれたアイデアが、「ロボットをリアルタイムで思い通りに動かすこと」だったという。

「われわれは、低遅延・大容量通信が実現すれば、これまで人間が目の前でしかできなかったことが遠隔地からでも可能になる、つまり、人間の手が届く空間が通信技術によって延長されると考えたんです。5Gは、その技術的基盤です。

そして次に、人間が担っている作業を遠隔地から行うと想定した際、人間と同じ形をしたヒューマノイドロボットがあれば、人間がやっていた作業をそのまま置き替えることができるのではないかと考えました。今回の研究テーマの副題は『人型ロボット遠隔操作システム』としていますが、今後、数ある5Gのユースケースの中で、そういった使い道が一つの面白いターゲットになると予想しています。

なお、大学の研究レベルでは、1970年代からテレイグジスタンス(遠隔臨場感、遠隔存在感)という概念が提唱されてきましたが、遠隔操作できるロボットを実用レベルで活用している例はまだないと思います。将来的な技術発展が非常に楽しみな分野です」(小川氏)

5Gロボットの開発を手掛けた新日鉄住金ソリューションズ テレコムソリューション事業部の小川哲男氏

では実際、低遅延という特徴は、ロボットの遠隔操作にどれほどのメリットをもたらすのだろうか。

「一般的な説では、モノを遠隔で操作する際に操縦者が違和感を覚える、もしくは『あれ?動きが遅れているな』と知覚する遅延時間は、およそ20~50ミリ秒(1000分の1秒)と言われています。さらに200ミリ~1秒まで動きが遅れると、操縦者は自分が操作していないような感覚に陥る。5Gの場合、想定上の遅延は1ミリ秒以下、基地局の経由や有線通信などが間に入るなどさまざまなマイナス条件を考慮しても、20ミリ秒以下の遅延で遠隔操作することが可能になるでしょう」(原田氏)

「5Gが実現すれば、例えば東京-大阪間、もしくは東京-沖縄間の遠隔操作でも、ストレスなく行える可能性があります。屋内・屋外など環境的な制約も軽減できる。さすがに、地球の裏側から遠隔操作が可能かと問われれば少々厳しいと思いますが(笑)」(小川氏)

さらに安全面においても、5Gがもたらすメリットは大きいという。

「例えば、現在の無線技術でも、データ通信を誤りなく行う技術、仮にデータを送れなかった際に再送信する技術などがありますが、5Gになればそもそもデータを送るスピードが速くなるので、再送も速くなる。つまり、リカバリーのスピードが速くなるということです」(原田氏)

ロボットが多種多様な現場で活躍する可能性

現在、両社によって公開されている5Gロボットはコンセプトモデルであり、実証実験やテストが引き続き行われている状況だ。完成段階までは、改良や試行錯誤を繰り返す時間がしばし必要だという。それでも、各産業での具体的な活用方法については、関係者の中で少しずつ構想が広がり始めているそう。

「以前、私は製鉄所に勤務していたのですが、リアルタイムで遠隔操作できる5Gロボットを生かせる場は多いと考えています。例えば製鉄工場は、温度が高く、人間が耐熱服を着て汗だくになりながら作業するような環境が、いまだ多く残っています。そのような作業をロボットに代替し、人間は安全なところで操縦するようになる可能性は高い。現在、テレワークといったオフィスワーカーの方々が遠隔で働ける環境は整いつつありますが、5G環境が実現すれば、現場で手を動かしている作業者にまで、その裾野が広がるイメージでしょうか。

展示会場では以前、車椅子の方々から『5Gロボットを使えば自由に動けるのに』との声をいただいたことがあります。ロボット側のボディーが強固になりさえすれば、人間は自分の“力”を拡張することができるので、操縦者の状況を問わないツールにもなり得るでしょう。

また遠隔医療などにも、新たな可能性が開けるかもしれません。離島など、人間の医者が足を運びにくい場所に5Gロボットを設置しておけば、あるときは内科医、あるときは外科医と、専門家らがロボットを交代で操縦して効果的な診療サービスを提供できるようになるはずです。ちなみに、私たちが開発しているロボットは、人間の動きにそのまま連動しているので、操作の習熟には時間がかからないという特徴があります」(小川氏)

新日鉄住金ソリューションズで5Gロボットの開発を行っている王陸洲氏が5Gロボットを操縦。人の体にセンサーを装着し、PCで5Gロボットと同期。一度コネクションが成功すれば、センサーを付けた人物と同じ動きをしてくれる

取材時、新日鉄住金ソリューションズのオフィスビルで、実際に5Gロボットを操縦させてもらった。驚いたのは、いとも簡単に5Gロボットが動くということだ。というよりも、体を動かすとロボットがリアルタイムで連動するため、そこにはもはや「操作」と呼ぶべきプロセス自体が存在しないような感覚に陥った。

実際に体験すると、「5Gの低遅延がロボットと人間をシンクロさせる」という、原田氏、小川氏の説明が、すっと腹に落ちる。

特別な能力は必要なく、自分が実際に作業するように動くだけなので、誰にでも操作が可能な点も魅力だろう

「そもそも5Gは、IoT機器など、現在の何十倍、何百倍の数の通信モジュールがネットワークを通じて互いにつながる社会を想定した通信規格です。従来のように、人と人が通信するという段階ではなく、これから先はモノ同士が“会話”を始める世界が到来します。人と人、モノとモノ、人とモノのつながりが爆発的に増えれば、新たな関係性やアイデアが生まれ、やがて社会を変えていくはずです。

NTTドコモでは、2020年を一つのマイルストーンとし、5Gの使い方、使われ方という面でさまざまなユースケースを提示していきたいと考えています。ロボットの遠隔操作はその象徴的な例でしょう。

それに、もし遠隔操作ロボットが普及すれば、間接的にエネルギー削減にもつながるかもしれませんね。電気代はかかるかもしれませんが、化石燃料など、人間が現場に移動する際のエネルギーが消費されなくて済むようになるからです」(原田氏)

5Gロボットは一度現場に運び、設置さえしてしまえば、あとは人が現地に移動することなく動かすことができる。また、人間を超えるその大きなパワーを使えば、これまで数人がかりで行っていた作業を5Gロボット1台で賄うことも可能だろう。飛行機の整備や24時間稼働の工場など多人数かつ交代制勤務のある現場では、作業員の数を大幅に減らせることが期待できる。そうなれば、それらにかかっていたコストやエネルギー削減にもつながる。いずれは、人が仕事のために交通機関を使うことがなくなる日が来るのかもしれない。

間もなく訪れるであろう5G時代には、人間とテクノロジーはいかなる融合を遂げていくのだろうか。まさに人間の“アバター”になるかもしれない5Gロボットの存在だけでも衝撃的ではあるが、さらに好奇心をくすぐるようなイノベーションが続々と登場してくることに期待したい。

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