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“私”を証明する技術!仮想通貨よりも重要なブロックチェーンの真価

ブロックチェーンは自分のアイデンティティーと哲学を証明してくれる

日本では、ビットコインといった仮想通貨のシステムを支える技術として、広く知れ渡ることとなった「ブロックチェーン」。インターネットに次ぐ発明ともいわれる同技術だが、その本来の目的や仕組みについてはいまだ理解が周知されていないのが実際のところだろう。特集1回目では、先端技術の研究・運用を展開する研究機関、電通国際情報サービスの「イノラボ」プロデューサーである鈴木淳一氏に話を聞きながら、「そもそもブロックチェーンとは何か?」を探った。

ブロックチェーンとは何か

ブロックチェーンとは、ひと言で言うと「取引情報の分散管理」技術のことを指している。モノの売買やカネの移動といった取引履歴が一つの集合体(ブロック)にまとめられ、それが鎖のように連結していきながら保存・管理されることから「ブロックチェーン」と名付けられた。

ある一つの取引について、利用者同士が同じ情報を持ち、そこまでの履歴に違いがないかなどを互いに照合することで、事実上はデータの改ざんが不可能となる。

そして、改ざんが不可能であるという性質上、取引における公正性が担保されるため、一元的な管理やそれにひも付く権力の集中(中央集権)も不要となってくる。

例えば、日本の法定通貨である「円」は、日本の中央銀行である日本銀行がその流通量の管理や貨幣の発行を行っている。そのため、「円」は日本銀行やそれを運用する国家の権力下で運用されていると言えるだろう。

しかし、仮想通貨の例に見る通り、ブロックチェーンを使えば、現代の資本主義経済を壊し、非中央集権的なシステムを構築することが可能になるとも考えられている。

国内情勢によって違うブロックチェーンとの付き合い方

こうした考え方について、ブロックチェーンの活用方法を研究するイノラボの鈴木淳一氏は次のように話す。

「日本やアメリカにおいて仮想通貨は投機商品と捉えられ、ブロックチェーンもそれに付随する技術として認識されがちです。しかし、ドイツやエストニア、イスラエルといった“ブロックチェーン先進国”の考え方は全く違う。その普及・発展の過程を見るに、この技術はアイデンティティーの問題と密接に関係しています。これらの国々はかつて、あるいは今も政情的不安定さが目立っており、そのため、そこに暮らす人々は自身のルーツや所有財産を証明する必要に駆られていました。有事の場合、国がパスポートを発行してくれなくなるかもしれないし、自分の財産が知らぬ間に流出してしまうかもしれない。そんな中で、非中央集権的で履歴の改ざんが不可能であるブロックチェーンが、注目を集めることとなったのです」

イノラボ・プロデューサーの鈴木氏。ブロックチェーンの可能性に引かれ、2016年9月から技術活用の研究を進めている

国家やプラットフォームといった“大きな権力”によらないという性質上、ブロックチェーンは自分のルーツや財産を自分で証明する手段として有効に機能する。そのため、近年では美術品の所有者管理や分割所有権売買の履歴記録に利用するといった事例も登場している。これもまた、ブロックチェーンによる所有権やアイデンティティー確立の一例といえるだろう。

鈴木氏によれば、ブロックチェーンによって、政府や自治体といった公的権力とそれを構成する国民や市民が対等な立場になることも可能なのだという。

「北欧のエストニアは130万人程度の小国ですが、既に戸籍の管理や選挙権の行使、財産証明、社会保障などにブロックチェーンを用いています。国民は認証用のカードを持っており、銀行口座開設でのID利用のほか、警察とのやり取りなどにも使われます。例えば、エストニアの路上で職務質問をされた場合、まずその警官が持つカードを国民が使って、『その警官が本物かどうか』の照合が行われます。その後、国民も自身のカードを通じて、個人情報を警官に開示します。そこでもし警官が国民の情報を不必要に見てしまったら、その閲覧履歴がブロックチェーン上に残るため、『警察による不当な捜査』として罰則が及ぶことになります。こんなふうにエストニアは、ブロックチェーンを活用した行政運営を目指しているのです」

鈴木氏がブロックチェーンを最初に学びに行ったのはエストニア。エストニアの新聞には、記述者や掲載内容の情報ソースが閲覧できる仕組みが取り入れられているほどブロックチェーンが浸透している

画像協力:鈴木淳一

ブロックチェーンは“哲学”を証明できる

さらに、ブロックチェーンが生み出す新たな価値について、鈴木氏は説明する。

「ブロックチェーン技術が普及していけば、これまで通貨によって行われていた価値の交換が別の形でできるようになるはずです。つまり、“共感の経済圏”というコミュニティー、マイクロマーケットが立ち上がってくる、ということです。例えば、“環境に優しくありたい”という価値観を共有するコミュニティーがあるとします。そこでは、ある人(消費者)が環境に配慮した食品を食べたら、その食品の生産者や流通業者、消費者に“環境に優しい”というトークンを発行する。このトークンによって、『自分が何を信じているか』『どういう生き方をしているか』ということが証明できるようになるのです」

「トークン」=仮想通貨と思われがちだが、本来はブロックチェーン上で発行される、特定の価値や権利を保証した交換媒体のことを指す。特定の価値を証明することができるため、通貨のような機能を持つと同時に、「どんな価値観を持っているのか」というアイデンティティーを示す役割も果たせることになるのだ。

発行者のみがその価値を保証した交換媒体だからこそ、仮想通貨におけるトークンの場合、需給の関係で0円にも100万円にもなる

「そうすると、考え方や価値観、つまり“哲学”ごとに違ったブロックチェーンを使ったコミュニティーが生まれ、それぞれのトークンが発行されるようになっていきます。そして、このトークンは、仮想通貨の例と同じように、別のコミュニティーが発行するトークンと交換することも可能になる。これまでの価値交換におけるレートは、法定通貨を伴った“価格”という尺度で測られていました。しかし、哲学を価値としたトークン同士であれば“価格”に縛られないレートでの交換ができるようになるのです」

事実、鈴木氏はイノラボでのプロジェクトとして、宮崎県綾町と共に、有機野菜の生産から流通、販売、消費までをブロックチェーンやIoTを使って追跡し、周知する試みを行っている(※プロジェクトの詳細は、12/25公開予定の本特集第3回で後述)。そこでは、“価格”の代わりに“環境配慮度”といった指標を導入した。従来の“価格”に縛られない価値交換の可能性。これこそが、ブロックチェーンが資本主義経済を揺るがすとされるゆえんでもある。

重ねて、鈴木氏はブロックチェーンとトークンコミュニティーの利点を「時間軸を長く取れることだ」と続ける。

「価格という尺度は20世紀的。これからは人の哲学に価値が見いだされる」と鈴木氏

「これまでは、商品に対してスペックや価格が価値の基準とみなされていました。しかし、商品に込められた思いや生産者の哲学に共感するコミュニティー型の消費が台頭してくれば、『前回より商品の出来が良くないけど、生産者の考えに共感するから、今回も買おう』というように、現代的な単発消費ではない、長いスパンでの消費行動が生まれるようになります。そして、このコミュニティーが発行するトークンによって、外部に対して生産者の与信を証明できるようにもなる。こんなふうにブロックチェーンが普及した社会、すなわち“トークンコミュニティー”では『自分がどういった哲学を選ぶのか』というのが重要な意味を持つようになるのではないでしょうか」

非中央集権的なフラットな社会が立ち現れ、そこでは自身の選んだ哲学こそが価値となる。日本では「仮想通貨」の技術として騒がれるブロックチェーンだが、社会に新たな価値観を生み出す可能性を秘めたものなのだ。

次稿からはそんなブロックチェーンの実用例を基に、さらにその可能性を探っていく。

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