トップランナー

一家に一台の時代が到来?「空飛ぶクルマ」が大空を席巻する日

株式会社 SkyDrive 代表取締役 福澤知浩【前編】

アニメーションやSF映画の世界では、昔から日常的に空を飛んで移動するのが常識だった──。そんな“空飛ぶクルマ”の実現に向けて、本気で取り組んでいる会社がある。しかも、実現はそう先のことではない。夢を追いかけてトヨタ自動車でのサラリーマン生活を辞め、株式会社 SkyDrive(スカイドライブ)を立ち上げた福澤知浩代表にインタビューした。

2030年には空を飛ぶのが日常になる?

自動車が発明されてから250年余り。走行性能や快適性は大いに進歩し、多くの人が日常的に利用する移動手段になった。

だが、「道の上を走る」という意味では昔も今も変わらず。少年時代に心躍らせた、宙に浮くクルマはいまだ開発されていない。これまで空は、飛行機やヘリコプターなど、ごく一部の移動交通手段でしか利用されてこなかった。

クルマを走らせるように、誰もが日常的に空を移動できる社会。そんな将来を夢見ている人物こそ、福澤知浩氏だ。

SkyDriveが提案するコンセプトモデル「SD-XX」。前後に座席を配置する2人乗りeVTOL(イーブイトール/electric Vertical Take-Off and Landing:電動垂直離着陸機)で、機体の四隅に配置された二重反転ローターに加え、タイヤを備えているのが特徴

「空飛ぶクルマが実用化されたら、地上の移動では当たり前だった渋滞や遠回りが一切なくなり、行きたい所へ直線的に素早く、かつ楽しく移動できるような世界が実現します。現在、飛行機やヘリコプターを使うには、滑走路やヘリポートといった場所まで地上を移動しなければならず、しかも誰か他人に操縦してもらわなければなりません。これはいかにも非効率です。私たちが今、作ろうとしている空飛ぶクルマは、駐車場に入るくらいコンパクトで、かつ静かなのが特徴。例えば、近所のコンビニに離発着ポートが設置されていれば、そこから目的地まで一気に飛んで行けます」と福澤氏は語る。

もし実現すれば、人々が移動に費やすエネルギーやストレスは大幅に軽減されることになるだろう。

トヨタ自動車時代は部品調達部門に所属。100カ所、1000回以上の現場出張を行って関係各社の改善活動にいそしんでいたという福澤氏。当時の経験が現在の仕事にも生かされている

空飛ぶクルマプロジェクトの出発点は、福澤氏がまだトヨタ自動車に勤めていたサラリーマン時代にさかのぼる。

部品調達の仕事に従事していた福澤氏は、社員同士で集まり「何か面白いことをしよう」と企画。自動車業界、航空業界、スタートアップ関連企業などに勤める若者が広く集まる有志団体CARTIVATOR(カーティベーター)へ2014年に参画し、その共同代表となった。

最初から空飛ぶクルマを作ろうと決めていたわけではない。モビリティを通じて次世代に夢を提供することをミッションにみんなでアイデアを出し合い、100ほど出た企画の中から決定したという。既成概念にとらわれることなく自由に発想し、アイデアの具現化を推し進めていく手法はトヨタ自動車で学んだものだった。

そうした課外活動をする中で、福澤氏の心境に変化が生まれる。

「幼い頃からものづくりが好きで、現場の人たちと直接関われるトヨタ自動車での仕事内容にも大変満足していました。しかし、CARTIVATORでの活動を通していろいろな人々と出会い、自分も本当に好きなことで起業してみたいと考えるようになったのです」

一念発起して「ものづくりに関するコンサルティング」を行う会社・福澤商店を起業したのが2017年。その翌年、CARTIVATORで目標としてきた「空飛ぶクルマ」事業を専門に行うSkyDriveを立ち上げた。事業のスケールが大きくなったために現在はSkyDriveが空飛ぶクルマ開発の大部分を担っているが、CARTIVATORも引き続き、共同開発として参加している。

どんな場所からでも飛び立てる機動力

空飛ぶクルマというアイデア自体は、決して斬新なものではない。古くから既存の自動車にプロペラと羽根を付け、軽飛行機のように飛び立てる実験機などは存在した。また、個人で所有できるエアモビリティという意味なら、ウルトラライトプレーンのような超軽量飛行機、あるいは小型ヘリコプターが既に市販されている。

それらとSkyDriveのエアモビリティが最も異なる点は何か?

「まずは垂直に離着陸できること。そして小型かつ静粛性が高いことです。現在想定している機体サイズは全長4.0×全幅3.5(m)、つまり一般的な自動車の駐車場2台分以下に収まる計算です。コンパクトなスペースで離着陸でき、かつ化石燃料をエネルギー源として動く航空機に比べて圧倒的に騒音が小さく、クリーンなため、滑走路やヘリポートといった大規模な施設を利用する必要がありません」

実は同社が開発しているような電動小型エアモビリティはeVTOLと呼ばれ、現在世界中の企業が実用化に取り組んでいる。形態はさまざまだが、SkyDriveが開発中の機体は反対方向に回転するプロペラ2枚を上下一対に組み合わせ、車体の四隅に配置した構造。各プロペラの回転数をモーターによって自動的に細かく調整することで、姿勢を制御しつつ、揚力や推進力を得る仕組みだ。

自律的に飛行姿勢を制御するのはもちろん、将来的には飛行時間の大部分を自動操縦にする想定で開発が進められている

基本的な構造はご想像の通り、近年急速に普及したドローンと同様のものだ。

また、クルマと名乗るだけあってタイヤを備えていることも特色の一つ。離着陸ポートと目的地が離れている場合でも、自動車のように地上をスムーズに移動できるという。

他社が開発しているeVTOLには車体の周囲に多数のプロペラを配置しているものや、プロペラの他に飛行機のような翼を備えたものもあるが、十分な揚力を得ながら車体サイズを抑え、かつ人が乗るためのスペースを確保するためには、この構造が最適だったという。日本やアジア諸国など、平坦な土地の面積が限られた地域での運用を前提としているのである。

姿勢制御や位置補正はおまかせで誰でも操縦可能

さらにもう一つ、空飛ぶクルマには大きな特徴がある。

「特別な技術がなくても操縦できることが、これまでの飛行機やヘリコプターと最も大きく異なる点です。機体の姿勢制御や航路のズレなどを自律的に修正してくれるため、操縦は極めて容易。通常のヘリコプターを操縦するには、少なくとも数十時間に及ぶ特殊な飛行訓練と膨大な知識習得、莫大な費用を必要とします。ですが、私たちが作っているエアモビリティでは自動運転が主流になり、簡単な操作で運転できるため、空を飛ぶことが特別な体験ではなくなる未来になると考えています」

この自律的に姿勢を制御する仕組みについても、ドローンで確立された技術が応用されている。ただ、機体サイズは動画撮影用小型ドローンなどに比べて格段に大きく、重い。そのうえ人が乗るため、急激過ぎる動作は制御の中に入れられず、安全性には細心の注意を払わねばない。剛性と軽量化を両立する機体の設計に加え、制御技術を確立することに注力しているところだ。

姿勢制御についてはドローンで確立した技術を一部応用できるが、機体の大きさが倍になると不安定さは4倍になるため、そのほとんどが専用開発になるという

これまで世の中に存在しなかった全く新しい乗り物を作っているだけに、伸びしろは無限大。日々、進歩しているという手応えもある。

「企画から設計、デザインまで一貫して車作りに関わるような仕事をしてみたい」という思いは、福澤氏がCARTIVATORで活動していた頃から抱いていた願いだった。

後編では、プロジェクトの進捗状況と普及に向けた道のりについて聞いていく。



<2020年6月16日(火)配信の【後編】に続く>
2019年12月には日本で初めて有人飛行試験に成功! 実用化への道のりやいかに

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE