特集
防災装備&重機最前線

庭やガレージに置くだけ!普段使いの部屋が防災シェルターに早変わり

火山の噴火や津波、地震、洪水、土砂崩れから人々を守る家庭用シェルター「SAM」

災害から暮らしを守るための最新設備にクローズアップしてきた今回の特集。ラスト3回目は静岡県静岡市の建築および不動産会社・小野田産業が開発した家庭用防災シェルター「SAM」だ。最大のポイントは、庭や車の駐車スペースなどに設置可能で、普段は子供部屋などとして使用しながら、いざという時にシェルターとして活用できること。人々に安全に暮らしてほしいという思いを形にしたシェルターの開発秘話を聞いた。

大災害後でも安心して暮らせる家を造りたい

「いつか来ると言われ続けている南海トラフ地震における静岡県の被害想定をご存じですか?」

取材時、開口一番そう問われて返答に窮した。

「最大震度7として、津波の最大高は11m、最短到達時間はおよそ2分。最悪の想定死者数は約10万人以上。そのうち津波による死者数は約9万人…、全国で最大の被害が出ると言われています。そういうデータが国から出ているのに何もしないわけにはいかないじゃないですか」

家庭用防災シェルターSAM。SAMとは「シェルター&アドベンチャー・マシン」のそれぞれ頭文字を取ったもの

事務所の駐車場に置かれた防災シェルターSAMに手を掛けながら、そう語るのは、静岡県静岡市で70年以上の歴史を持つ建築および不動産会社、株式会社 小野田産業の3代目・小野田良作社長だ。

「災害から人を守る住まいを造りたい」と熱い思いを語る小野田社長

「SAMの説明の前に、この起震車に乗ってみてください。これで体験できるシステムと出合ったことが、そもそものスタートなのです」

体験したのは、「エアー断震」というシステム。

これは空気の力で住宅を基礎部分ごと浮かせ、家自体はもちろん家財までをも守ろうというものだ。

起震車体験の動画がこちら

このシステムは、東日本大震災や平成30年6月に大阪で発生した最大震度6弱の地震でも効果を発揮。導入した住宅において被害は一切出なかったという。

しかし問題がないわけではないと小野田社長は続ける。

「エアー断震で家を守れることができても、ライフラインが止まってしまったら結局は避難しなければなりません。そこで次のステップとして、給水対策、非常用電源の確保、さらに水洗トイレが使えるほど下水道対策を施した家を造ることを目指したのです」

そして完成した「パーフェクトハウス」と呼ばれる住まいは、災害発生後、ライフラインが復旧するまでの間、自立して生活できるシステムを構築。これに自信を得た小野田産業は、さらなるステップアップを目指すことになる。

「きっかけは2014年9月に起きた長野・岐阜の両県にまたがる御嶽山の噴火です。静岡で暮らす私たちは南海トラフ地震の他に、富士山の噴火も気にしなければなりません。もしものことが発生したとき、そこから緊急避難できる場所を造れないものか。火山弾は無理だとしても、せめて火山灰から人を守れるものが造れないか──。

そう考え始めたのが、SAMの第一歩でした」

「パーフェクトハウス」の概念図

富士山が噴火したら? 火山灰から身を守るために

御嶽山の噴火からおよそ2年後、小野田産業は火山の噴火から身を守るためのシェルター開発をスタートさせる。

「まず考えたのは素材をできるだけ軽くすること。災害現場に運ぶ可能性などエネルギー効率を考えると、ヘリコプターでも吊り下げられるくらいのものがベストです。そうなると素材は難燃性の発泡スチロールになります」

SAMのテストモデルはなんと10代目。すでに商用化されており、価格は99万8000円(税・運賃別)だ

いくら難燃性のものとはいえ、相手は火山の噴火だ。いくらなんでも発泡スチロールでは火や熱に弱いのではないか、と思ってしまう。

「ポリウレアというコーティング材があります。このポリウレアは耐爆性にも優れていることから、アメリカ国防総省(ペンタゴン)の建物の外装コーティングにも使われているものです。これを発泡スチロールに吹き付け、さらに砂袋を上に載せることにより、衝撃にも熱にも強くなると考えています。来年、ある大学の協力を得た上での実証実験計画が進行中です」

金型からパーツごとに作成した難燃性発泡スチロールに、コーティング剤のポリウレアを吹き付ける

素材の見通しをつけた後は、デザインに取り掛かった。

「空から降ってくる火山灰を落とすためにはドーム形状が良いだろうと。外寸のサイズについては、最大幅を2.24mにしました。先ほどヘリコプターで運ぶことを想定したと話しましたが、トラックで運ぶこともありますよね。居住性と積載性の両立を考えると、2.24mがベストだという結論に達したのです」

そして開発スタートから約4カ月後の2017年3月に最初のテストモデルが完成。防災シェルターSAMは、そこから強度、耐久性などのテストに入った。

「例えば、海上十数mの高さから水面に落としたり、ひっくり返してみたり。スポットヒーターで燃やすという実験も当然やりました。ただし、加熱から1~2分ほどで表面は溶けていきます。そのリスクは壁の厚さを15cmにすることにより数倍の耐久性を得られましたが、決して燃えないわけではありません」

水平落下実験の様子

壁の厚さ15cmはスマホと比較するとこのようになる

大きな地震が発生すると、次に心配されるのは余震や沿岸部であれば津波だ。

「SAMは一次被害が地震、二次被害が津波や余震、火山灰、三次災害が火災と考えています。三次災害となると話は別です。SAMの中ではかえって危険です。ただ、その前の二次災害についてはやり過ごすことができると思っています。そこを乗り切れば、生き残る確率が格段に上がると思うんです」

南海トラフ地震が発生したら…?津波から逃げろ!

当初は富士山の噴火から身を守るために開発をスタートさせたSAM。

発泡スチロールによって軽い本体となったことで、津波にも対応できるのではないかと発想を膨らませていった。

「東日本大震災の被災地を訪ね、話を伺いました。そこで気付いたのは、弱者を守らなければいけないということ。お年寄り、体に障害を抱えていらっしゃる人はもちろん、赤ちゃんを育てているお母さんも。わが子を助けようと抱いたまま流されてしまった方がいたという話を聞き、とにかく弱者が一時的に避難できる場所が身近に必要だと痛感したのです」

そうして水に浮くことができるSAMに、津波に対応する改良が施されていった。

SAMの室内

丸テーブルの真上に自然光を取り入れるための窓があり、緊急時には脱出用の出口となる

「天井に穴を開けたのは、ひっくり返ったときに脱出するためです。そして室内の要所要所に数cm幅の穴を開け、万一浸水した場合、外に排水できるようにしました。

中に人がいる状態で水に流されたとしても、SAM自体は5cm程度しか沈まないことも確認済みです。なので、津波が来襲して6人が乗り込んでも15~20cmしか沈まないため、この中に逃げ込んでもらえればのみ込まれることはまずありません」

SAMの上部・下部それぞれにこのような穴が開いている

そんなふうにして津波からも、そして当初の開発目的であった火山灰からも身を守るシェルターSAM。

最大のポイントは、実は冒頭でも触れたサイズだ。トラックに積み込めるサイズということは、例えば普通自動車1台分の駐車スペースがあれば屋外に置くことができる。戸建ての庭にも十分に設置が可能だ。

「身近に置けるサイズということです。テレビなどで“身の安全を確保してください”とアナウンスが流れますよね。でも、それってどこ?となるでしょう。しかも、静岡は南海トラフ地震が起きたら2分で津波が到達するという予想が出ています。それに対応するには身近に安全な場所を確保するしかありません。

ですので、SAMは普段から日常使いをしてほしいと思っています。子供部屋でも、オーディオルームでも、ゲームルームでもいい。そしていざという時は、ここが一時的な避難場所になる。そんなふうに使っていただきたいんですよ」

だからこそ、SAMには普段から快適に過ごせるような工夫が施されている。そこは建築会社ならではのこだわりだ。

椅子の下は収納庫となっている。水や非常食、ライフベストなどの格納が可能だ

「室内の空気を循環させる工夫を施し、椅子の下には収納庫を設けました。災害から避難された方々がエコノミークラス症候群に悩まされているという報道を見て、床の一部を外してテーブルの下と椅子の間にはめ込むことでフラットな簡易ベッドになるようにもしました。

暑さと寒さについて言えば、もともと発泡スチロールは住宅の断熱材としても使われているもの。SAMはさらに耐衝撃性や耐候性などエネルギー効率にも優れるポリウレアでコーティングしていますから、室内を快適な環境に保つことができます。避難しているという極限状態の中で、人が居住する上で必要となるエネルギーを無駄なく使うことを考えたんですよ」

そしてさらには、ポータブル電源を室内に配置すればエアコンなどの設置も可能となる。

床板を使ってベッドモードに。足を伸ばして横になることで、エコノミークラス症候群対策となる

以前から、危惧されている南海トラフ地震。

政府の地震調査研究推進本部は、マグニチュード8~9クラスの地震の発生確率を30年以内に70~80%としている。

地震や津波、余震など一・二次被害からの身の守り方、処し方を提唱するアイテム・SAM。

有事の際、まずは自治体指定の避難所などを目指すのが優先順位の上位だが、それ以外でもいざというときに逃げる場所があるというだけで、心にも少しゆとりが持てるのではないだろうか。

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