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自宅で注文可能なオーダーメード・インソールが足病医療に革命をもたらす!

ジャパンヘルスケア代表取締役/足の総合診療医 岡部大地【前編】

テクノロジーで先進的な予防医療に取り組むジャパンヘルスケアがことし4月に発売開始した「HOCOH(ホコウ)」は、スマホで簡単スピーディーに注文できるオーダーメードのインソールだ。これまでクリニックでしか作れなかった本格的な矯正用インソールがリーズナブルな価格で手に入れられる。開発者にして、ジャパンヘルスケアの代表と足の総合診療医という二足の草鞋(わらじ)を履く岡部大地氏にインタビューした。

欧米に100年も遅れている日本の足病医療

地球上で、直立二足歩行を実現した動物は人間しかいない。しかし、全体重をわずかはがき1枚分(片足)程度の面積で支えているだけに、足裏にかかる負担は大きい。現代では、扁平(へんぺい)足や外反母趾(ぼし)といった足のトラブルに悩む人が増えているという。

「運動不足や足に合っていない靴を履き続けるなど、後発的な理由で足が変形してしまっている場合もあれば、その人が元々持っている特性で足裏に痛みが出たり、うまく歩けなくなったりすることもあります。寿命が延びたため、人間の寿命よりも筋骨格の衰えの方が早く来るようになった、とも言えますね」

医学部を卒業後、総合診療医として勤務。その後、大学院に進んで先進予防医学を学んだ岡部大地氏。足専門のクリニックと出合ったことがHOCOH開発のきっかけとなった

そう語るのは、足の総合診療医で、医師を中心とした法人・ジャパンヘルスケアの代表を務める岡部大地氏。

高齢になってからの扁平足は、加齢による筋力の低下、じん帯の緩みが主な要因だ。扁平足を気付かずに放置していると痛みが生じるようになり、手術が必要なほど足の変形が進行することも。徐々に足元がおぼつかなくなり、転倒によるけがなどをきっかけに入院し、けがが治っても筋力低下によって歩行困難な状態に陥る。運動不足からさらに体力が衰え、自力での移動が難しくなるというのが、寝たきり状態になる典型的なパターンだ。

そうした状況に陥るのを防ぐには、初期段階からオーダーメードのインソールを使い、足裏のバランスを整えることが効果的だ。ドイツ、アメリカなど足の整形治療が盛んな国では何十年も前から常識だったが、日本ではこの分野が近年まで全く注目されてこなかった。

「アメリカでは100年も前から足の専門医『足病医(そくびょうい)』が登場していました。今では約1万5000人もの足病医が存在し、歯が痛いときには歯医者さんに行くように、足に異常を感じたら足専門のクリニックに行くことが当然、と考えられています。しかし、日本で足の総合病院が登場したのはつい最近のこと。日本がこの分野で欧米に遅れてしまった理由の一つには、靴を履く習慣が広まってからまだ150年ほどという文化の違いも大きいでしょう」

製品の機能を保ちながら普及促進を目指す

日本でも医療用のインソールが存在しなかったわけではない。ただ、強い痛みや歩行障害など、明らかな症状が出ている人以外にはほとんど利用されてこなかった。

そもそもオーダーメードのため費用は高額。さらに保険適用を受けるには、クリニックに行って医師の診断を受け、専門の義肢装具士(医師の指示の下に、患者の手足を採型し、義足や義手、装具を作る国家資格所持者)が採型、製作を行わなければならないなど、利用へのハードルが高かったからだ

「明らかな症状が出る前の段階で、より手軽に、誰でも利用できるオーダーメード・インソールを作ることができないか?」、そんな発想で生まれたのが「HOCOH」だ。

「私も以前、7万5000円ほどもするオーダーメードのインソールを使用していた時期がありました。それは素晴らしい履き心地で満足できるものでしたが、高価な上、手に入れるまでに手間と時間がかかり、とても気軽に利用できるサービスではありませんでした。別の製品でインターネットから簡単に注文できるものもありましたが、そちらは品質が低かったり。従来のインソールは玉石混交といった状態でした。

そのため“足のバランスを整える”インソールとしての医学的価値をきちんと成立させながら、製造までのプロセスを効率化する方法を模索しました。そんなとき、手間のかかる採型を、写真から足の形を分析できるようにしてはと思い付きました。製造も3Dプリンターを利用すれば、時間とコストを大幅に圧縮できるだろうと考えたのです」

クリニックで作るのと同様、医学的にきちんとした製品であることは大前提。その上でユーザーとのコミュニケーションや製造工程にITを取り入れて効率化を目指した

注文プロセスも効率化され、購入はスマホ一台あれば自宅にいながら完結する。

具体的には、公式サイトから使用者の身長や体重、足のサイズ、症状などを入力。注文確定と決済後に届くQRコードで公式LINEにアクセス。あとはガイダンスに従って足の写真を6枚撮影して送信すると、後日、足の特性を分析した結果が届くという流れだ。

また、インソールの製造に入ったことや発送といった通知は随時LINEに送られてくるので、進捗(しんちょく)の把握も可能になっている。

自宅にいながらオーダーメードのインソールを作れるサービスを実現した「HOCOH」。カメラ付きのスマホさえあれば注文できる

EMIRA編集スタッフが実際に注文してみたが、非常に現代的で洗練されたユーザーインターフェースだった。最初に写真を撮影する際は足の形を正しく把握するために、「壁にかかとを付けた状態で」「A4のコピー用紙を下に敷いて」「爪先を上げて」など独特な作法が必要となるが、ガイダンスに見本となる写真が付いていて分かりやすい。分析結果から自分の足の特徴がよく分かり、靴を選ぶ際の参考にもなる。注文から商品到着までにかかる時間は、約1カ月弱だ。

「クリニックに行くことなく、ここまで高精度に自分の足を把握できるサービスは他にないと思います。案内が分かりやすくなっているのは、会社のスタッフが試行錯誤しながらサービスを煮詰めてくれているおかげですね」と岡部氏は語る。

IT技術と手作業の融合

HOCOHを手に取ると、市販の靴などに使われる通常のインソールとは厚みが全く異なっていることに気付く。

3層構造になっており、一番底になる部分が硬い。ひまし油由来のPA(ポリアミド)11という樹脂素材が使われており、ここが装着者それぞれの足の形状、症状に合わせ、3Dプリンターで成型される芯材の部分となる。

中間層はウレタンのクッション、一番上は和紙から作られた吸湿性・防臭性に優れた特別な生地を使用。芯材の成型には3Dプリンターを用いるが、3つの部材を接着し、最終的に形を整える作業は職人が手仕事で行っているという。

右画像のインソール裏側、濃いグレーになっている部分が芯材となるサポート部分。オーダーメードなので名前も入れてくれる。価格は1万9800円(税込)

また、送られてくる画像を元に足の特徴を分析する作業にも、医師や義肢装具士による肉眼での診断が行われている。足の特徴をパラメータ化し、それを設計のデジタルデータに反映させる工程だ。ただ、このプロセスは近い将来、AIによる自動診断、自動採測に移行していきたいと考えているとのこと。

ITを駆使してユーザーが最初の一歩を踏み出すためのエネルギーを軽減し、さらに短納期化、低コスト化を図りながらも、必要な場面では人の手も使う。そうした臨機応変さは、今後のモノ作り全般に求められる姿勢だろう。

和紙などの素材から3Dプリンタでの芯材まで、HOCOHの製造工程はすべて国内。最後は職人が一つ一つ丁寧に仕上げる

後編では、HOCOHの着用によってどのような効果が期待できるのか。

そのメカニズムと共に秘められた実力や、岡部氏の予防医療にかける思いに迫る。



<2020年11月2日(月)配信の【後編】に続く>
装着することで歩行や姿勢が改善する? テクノロジーと予防医療の関係を解き明かす

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