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夢は予防医療改革! オーダーメード・インソールが秘める健康長寿の可能性

ジャパンヘルスケア代表取締役/足の総合診療医 岡部大地【後編】

スマホで手軽に注文できる革新的なオーダーメード・インソール「HOCOH(ホコウ)」を開発したジャパンヘルスケアの岡部氏。後編では、インソールを装着することで歩行や姿勢が劇的に改善されるのは、どのようなメカニズムからなのか? さらに岡部氏が足に特化した予防医療を始めるに至った経緯、テクノロジーと予防医療の関係を解き明かす。

インソールを最も必要としていたのは自分だった

岡部氏がオンラインによるオーダーメード・インソールの開発に乗り出したきっかけ。

それは自らの実体験と、日本における足病医学の現状にあった。

「当時、私は予防医療の観点からさまざまな調査活動をしていて、日本で初めての足専門クリニックを見学させてもらったときのことでした。先生が一通り診察を終え、最後に私の足も診てもらったところ、『今日クリニックを訪ねてきた人の中で一番ひどい足だよ』と言われたのです。

実際、HOCOHを開発する過程で社内にいるスタッフの足も測定しましたが、私の足が今でも一番ひどかったです(笑)。そうした体験があり、『自分自身が欲しい』と思えるものを作っているので、自ずと情熱があふれ出てきます」
※【前編】の記事「自宅で注文可能なオーダーメード・インソールが足病医療に革命をもたらす!」

取材時に岡部氏が見せてくれたHOCOH。表面に和紙素材を使うアイデアは、アパレル関係に詳しいスタッフから提案されたものだという

岡部氏は今、ジャパンヘルスケアの代表を務めながら、そのとき見学した足専門クリニックに勤務し、医師として働いている。ただ、“自分自身がインソールを必要とする足だった”ことはHOCOH開発の動機となったが、理由はそれだけではない。

予防医療の調査をする過程で食事や睡眠、メンタルヘルスケアまでさまざまな分野について学ぶ中で、「今の日本で最も必要な予防医療とは何か? 自分が社会に最も貢献できる分野は何か?」を冷静に追求した結果が“足の裏”だったのだ。

「例えば糖尿病の患者は国内に300万人以上いると言われていますが、糖尿病を専門にしている医師は既にたくさんいます。私が何かアクションを起こさなくても、他の誰かがやってくれることでしょう。

一方、足のことで悩んでいる人は多いにもかかわらず、足の診療を専門に行っている医師、特に予防に力を入れている医師は非常に少ないのが現状です。歩行に支障が出ると日々の暮らしにも影響し、それが遠因となってさまざまな疾病につながる可能性があるにもかかわらず、です。さらに、足腰の痛み=筋骨格系疾患は、介護が必要になる要因の3分の1を占めていると言われています。これは何か解決策を示さなければ、と考えたのです」

HOCOHで歩くのが楽になるメカニズムとは?

それにしてもインソールを装着するだけで、本当に歩行が改善されるのだろうか? そうであれば、今後HOCOHはさらなる高齢化社会を迎える日本において救世主になり得る存在になるかもしれない。

「それはもう、劇的に変わるはずです。私自身が毎日使用しているので、自信をもって言えます。足は片足につき28個もの骨で構成される複雑な構造をしていますが、形は人それぞれ。しかも、歩き方や姿勢など生活習慣によってゆがみやすい部位でもあります。筋骨格のバランスが崩れていると歩行時の負荷が大きくなることは、容易に想像できるでしょう。ところがインソールを装着して足裏の形を整え、最初に接地する部分を変えてあげることで、スムーズに動くようになるのです」

樹脂製の芯材(右側グレー部分)で足裏の接地する部分を変え、かかとを支えて真っすぐにすることで歩行をサポート。自然と姿勢を整えようとするのだ

実際にオーダーメードされたHOCOHを装着して歩いてみると、かかとの部分を下から力強く支えてくれる感触がある。製品を触ったときに硬すぎるのではないか?と思った最下層のソールは、足の形状にフィットしているため歩行時には硬さを感じない。そして、関節が矯正されるためか、最初はわずかに違和感を感じるが慣れてくると歩くのが楽になる。これは新鮮な体験だった。

足の筋骨格は成長期に完成されると、それ以降は理想的な形に補正することが難しい。だからこそ、インソールで矯正する意味があると岡部氏は言う。

「理想的な骨格を持っていると、ごく少ないエネルギーで歩くことができます。しかし、恵まれた骨格に生まれ、維持し続けることができる人はむしろまれ。インソールを着けることは、そうした理想的な骨格に近づけることが目的なのです」

ジャパンヘルスケアが行ったユーザー調査では、「足の疲れやすさを感じていた」人のうち、HOCOHを装着することで約75%の人が「足の疲れが改善された」と回答しているという

扁平(へんぺい)足や外反母趾(ぼし)などで足専門のクリニックを訪ねる人は、かなり症状が悪化している場合が少なくない。その手前には、もっとずっと多くの潜在的患者がいるはずだ。軽度の状態でインソールを着用すれば、症状が重くなるのを未然に防げるだろう。

オンラインで誰でも手軽に注文できるインソールを開発した背景には、岡部氏のそんな思いがあった。

足裏から全身へと広がる、予防医療にかける夢

ジャパンヘルスケアではHOCOHの開発以前に、人の歩き方を3Dセンサーで可視化し、理想的な歩き方をAIがアドバイスしてくれる装置「MIRROR WALK(ミラーウォーク)」を2年前に開発している。これは、センサーの前を通り過ぎるだけで、自分の歩き方を客観視できるというユニークなものだ。

「これまで整形の医療分野は、手術を施して治す外科が主体でした。しかし、長寿命化、高齢化した日本で今、健康寿命を延ばすために必要なのは、手術に至る前に症状を早期発見、早期治療する整形内科の領域に違いないと私は考えています。自然と健康になる環境をつくることで、その人の筋骨格や体形、生活習慣などが自ずと変わり、病気になるのを予防する。これを0(ゼロ)次予防と言います。

0次予防を普及させるには、症状が極めて軽い、あるいはまだ症状が出ていないけれど将来的に出てくるかもしれない人、つまりクリニックに来ない人たちにアプローチすることが大切。MIRROR WALKやHOCOHは、そうした信念で開発しました。0次予防はセンサーやAIなど、テクノロジーとの相性がいい分野でもあるのです」

現在、HOCOHは中敷きを交換できるスニーカーなどに適した仕様となっているが、革靴用、スポーツ用も開発中で、今後、順次リリースされる予定だ

現在、ジャパンヘルスケアの事業領域は歩行、足に特化しているが、岡部氏の視線はさらにその先を見詰めている。

「将来的にはMRIなどを活用して全身を分析し、足だけでなく体全体の筋骨格系疾患を予防することにも挑戦していきたいですね。そこまで実現して初めて、0次予防システムの完成と言えると考えています」

ITの技術を駆使して、誰もが健康に長く暮らせる社会の実現──。

これは予防医療が進んでいるドイツやアメリカなどの国でもまだ達成されておらず、もし実現すればまさに快挙といえる。

自らの手で日本を0次予防先進国へ導くという壮大な野望を秘める岡部氏にとって、HOCOHの誕生も夢の実現に向けた第一歩に過ぎないのかもしれない。

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