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オンライン診療を当たり前に!「curon(クロン)」が変える病院の未来

株式会社MICIN 代表取締役CEO 原聖吾【前編】

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、「オンライン診療」の普及が進んでいる。3密を回避しながら医師の診断を受けられるだけでなく、蓄積されたデータが将来あらゆる病気の早期発見に生かされ、医療の未来を変える可能性もある。日本におけるオンライン診療サービスの先駆けである「curon(クロン)」を運営する株式会社MICIN(マイシン)代表取締役CEOの原 聖吾氏に、利用者急増の背景を聞いた。

オンラインでいつでも自宅が診療室に

「何だか微妙に体調が悪いけど、仕事が忙しいし、市販の風邪薬に頼ろう…」「わざわざ病院に行っても、他の病気に感染しちゃうかもしれないし…」

これまで、働き盛りのビジネスパーソンは、ついつい病院に行けない理由を探しがちだった。ところが今年は、一気に状況が変わってきている。オンライン診療サービス「curon」を運営する株式会社MICIN(以下、MICIN)によると、2020年5月の段階で新規ユーザーが1月時点の10倍に跳ね上がったという。同社代表取締役CEOの原 聖吾氏が内実を語る。

「まず、新型コロナウイルスのパンデミックをきっかけに、弊社サービスの導入施設数が倍増しました。2020年3月のタイミングでは2000施設未満でしたが、現在は約4500施設です。それに伴いユーザーも増えているのですが、都市部在住、かつスマートフォンとの親和性が高い20~60代が多いですね。生活圏と病院が離れているわけではなく、忙しくて医療機関に行けない方々にメリットを感じていただいています」

MICIN創業以前、研修医として病院に勤務していた経歴を持つ原氏。退職後、医療の制度や政策作り、医療ビジネスのコンサルティングに従事した

curonのアプリ提供が始まったのは2016年4月。患者はスマートフォン、医療機関はパソコンまたはタブレット端末を使用し、予約から問診、診察、決済、処方箋や医薬品の配送手続きまでをオンラインで完結させることができる。類似サービスとの違いは、患者と医師、双方にとっての使いやすさを重視していること。

「医療機関に導入費用を求めるサービスが多い中で、われわれのサービスは従量課金制。使う度に料金が発生する仕組みにしており、医療機関が導入時の初期負担を抑えられることがメリットです。ただ、医療は関係者同士の信頼関係が大切ですから、われわれは営業において導入をゴリ押しするようなことはしません。医師の方々に納得してもらいながらオンライン診療と向き合っていただくことを重視しているため、それが結果的に患者さん側からの高い評価にもつながっていると思います」

事前に予約をすれば、時間や場所に縛られず、いつでも、どこでもオンライン診療を受けられるcuron。医師と患者の間で血糖値や血圧などのデータを共有できる点も支持されている。アプリ利用料は一診療につき300円(税別)をユーザーが負担し、その他、病院・クリニックからの請求となる「診察料」や、処方箋・薬の「配送料金」などが加算される。支払い方法はクレジットカードのみ

資料協力:MICIN

オンライン診療サービスは急激に身近なものになりつつあるが、まだまだ懐疑的な印象を持っている人も少なくない。それでも、curonを活用することで救われている患者がいるのは事実だ。

「curonを導入している医療機関の中には、全国的に数が少ない希少疾患患者を診ている大学病院もあります。北海道から毎月、家族に付き添われながら飛行機で川崎の病院まで通院していた患者さんが、オンライン診療を活用することで通院の頻度を減らせたケースもありました。『経済的、肉体的な負担が減って、治療を続けやすくなった』という声を聞くと、非常にうれしく思います」

オンライン診療を「ありえない」から「当たり前」に

コロナ禍で注目を集めるオンライン診療だが、curonにもサービス開始までは紆余曲折があった。

原氏がMICINを設立したのは2015年。規制緩和によってちょうどオンライン診療が解禁されるタイミングだったが、当時は発熱など急性期の患者には使えず、診療報酬も対面と比べて半分程度といった制限があった。触診ができないなど、対面と比べると患者から得られる情報量が少ないこともあり、なかなか導入に手を挙げる医療機関に出合えなかったという。

「当時は『遠隔診療』と呼ばれていて、私もいろいろな医師に会って必要性を訴えたのですが、『対面じゃない形で診療するなんてありえない』というリアクションが当たり前でしたね。そこは今でも課題ではありますが、あらゆるサービスがオンライン化されているのに、医師の診療だけが例外であり続けることはないだろうなと思っていました。未来の社会では、それこそ当たり前のようにオンライン診療が広く使われているはずだと」

“時間や場所に縛られずに診療を受けられることが、患者を助けることになる”。最初にcuron導入を決めた医師も、原氏のこの確信に共感した。

「その先生は、外来で通院している患者が途中で来なくなるケースが多いことを気にしていました。忙しくて時間が合わないとか、面倒臭いとか、途中でやめてしまう理由はたくさんあると思いますが、オンラインなら通院を諦めなくても済むかもしれない、と。そうやって理解を示してくださる先生に出会って、実際に使っていただきながら、少しずつ広げていくことができたのです」

curonを使ったビデオ通話による診察。事前の問診回答を基に、オンラインによる効率的な診察・処方が可能に。患者の事前予約が必要で、通話は医師からのみかけることができる

画像協力:MICIN

2018年には厚生労働省によって診療報酬が改定され、テレビ電話を使ったオンライン診療が保険診療として認められた。ただ、6カ月以上対面で診療している糖尿病などの慢性疾患の患者などに限られていたため、大きな追い風にはなっていない。それでも原氏はcuronの使い勝手を地道に向上させてきた。

医療への貢献を目指し、医師から起業家へ

もともと原氏は起業家志望だったわけでなく、幼い頃から医師を目指していた。2006年に東京大学医学部を卒業してからは、研修医として病院に勤務していた。

「当時は妊婦がたらい回しにされて死亡する事故が起きたり、医者が患者を取り違えて訴訟になったりするなど、“医療崩壊”が社会問題になっていました。一方で、研修していた病院の現場では非常に優秀な医師たちが身を粉にして長時間勤務をこなしている。そのギャップに違和感を覚えて、制度や仕組みを改善する必要があると考え始めました。私が一人の医師として病院でがむしゃらに働き続けるよりも、制度を変えるために動く方がたくさんの患者を救えるかもしれないと」

使命を見いだした原氏は、周囲の猛反対を押し切って研修先の病院を出て政策提言などを行うシンクタンクの日本医療政策機構に入った。その後、米・スタンフォード大学経営大学院にてMBAを取得。大手コンサルティング企業マッキンゼー・アンド・カンパニーに転じる。

「『せっかく医師になったのにもったいない』と言われることが多かったですが、私自身は何かを犠牲にした感覚はなかったですね。どこに身を置いても、医療の世界に貢献していきたい気持ちはブレなかったので。シンクタンクでは、特に制約を与えることにもなる医療制度が作られていく過程を知ることができましたし、その経験は今でも生きています。当時の人脈を生かして、厚生労働省にオンライン診療の必要性や制度の問題点を説く機会にも恵まれています」

厚生労働省が設けた懇談会「保健医療2035」にて、原氏は2035年の日本における医療政策についての提言策定に従事。コンサルタント時代の経験も生かし、定量データに基づいた提案もした

医療崩壊を防ぎ、医師と患者の双方にとって良い環境を作るために、オンライン診療の未来を切り開いてきた原氏。

後編では、ウィズコロナの時代となったことで生じた課題と今後の展望に迫る。

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