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オンライン診療から生まれる患者のビッグデータが未病の世界を作る

株式会社MICIN 代表取締役CEO 原聖吾【後編】

時間や場所に縛られず、医師の診断を受けることができる「オンライン診療」。効率的な医療体制が整えば医師不足の解消にもつながり、また、症例データがストックされれば予防医療への発展にも寄与する。前編では、あらゆる側面で医療への貢献が期待されるオンライン診療サービス「curon(クロン)」を運営する株式会社MICIN(マイシン)代表取締役CEOの原 聖吾氏に現状を聞いたが、後編ではこれから向き合うべき課題、そして今後のビジョンに迫った。

オンライン診療にある眼前の壁は「初診」

2016年4月に提供を開始したcuronは、予約から問診、診察、決済、処方箋や医薬品の配送手続きまでをオンラインで完結させることができるサービス。2020年5月の段階で、新規ユーザーが1月時点の10倍まで増えており、新型コロナウイルスのパンデミックを契機として急速に普及しているのは間違いない。

curonのアプリを介して医療機関に予約、問診票を入力すると、予約時間内に医師からビデオ通話がかかってくる。終了後は登録してあるクレジットカードにて診察料などの決済が行われる

画像協力:MICIN

しかし、2020年8月の厚生労働省の発表によると、7月末時点でオンラインでの遠隔診療に対応する医療機関は、全体の15%となる約1万6000施設。そのうち初診患者に対応しているのは約6800施設で、まだまだ発展途上と言える。

一方、10月にはこれまで時限的な措置だったオンライン診療を恒久化させることに厚労相ら3大臣が合意した。これにより普及が今後も拡大していくことが予測されるが、curonを運営する株式会社MICIN代表の原 聖吾氏は慎重な姿勢を示す。

「触診もできず、写真を撮影しても色合いが分かりにくいオンラインで初診を行うことは、やはり医師や患者にとって不安が大きいものです。実際にわれわれが行った調査では、基本的には初診であっても、過去に同じ病気で他院での受診歴がある患者さんに限定して受け入れているケースが多いようです。そもそも私も、対面が全てオンラインに置き換わるとは考えていません。対面をベースにしながらも、個々の症状やライフスタイルに応じてオンラインを活用していただきたいですね」

MICINの原氏。今年はコロナ禍で問い合わせが殺到し、ニーズが広がることはうれしいものの、膨大な仕事量をこなしたとか

実務上の制約や心理的な抵抗といった課題はあっても、オンライン診療は医療従事者が働きやすい環境作りに大きく貢献できる可能性がある。curonなどのサービスを介して医師が事前に患者のデータを収集することで、業務の効率化につながるからだ。医療の人手不足が解消されれば、患者側も、より安心して診療を受けられるようになるだろう。

患者と薬剤師のコミュニケーションもサポート

現在、こうした課題を解決するべく、MICINは考え得るあらゆる取り組みを実施している。2020年4月には初診での受診フローや留意事項(患者側・医師側)、想定される事例などをまとめたユーザーガイドを策定。診療に必要となる数値などを患者が自宅で計測できるデバイスの開発にも着手している。

また、調剤業務を実施する薬局向けに「curonお薬サポート」というサービスも5月に開始した。

「以前は、オンライン診療をしても、患者さんは自宅に届く処方箋を持って実際に薬局へ行っていただく必要があったのですが、制度が改定されたことで医療機関から直接薬局に処方箋を送れるようになったんです。『curonお薬サポート』は、医療機関からオンラインで処方箋を受け取った薬局に対し、患者さんとのコミュニケーションをビデオ電話などでサポートするサービスです」

患者側は届いたURLをタップし入力するだけでオンライン服薬指導が受けられる。curonのユーザーはアプリの追加インストールや登録手続きが不要で、診療受診から薬の受け取りまでをスムーズに行える

資料協力:MICIN

コロナ禍を通してオンライン診療を取り巻く制度が急速に改定される中、より多くの医療機関や患者が利用しやすい仕組みを作り続けていくことがMICINの使命だ。

オンライン診療が普及することのメリットは、「いつでもどこでも医療にアクセスできる」という安心感が広まること。社会に不可欠なツールに成長していくことが予測されており、その先にある未来に原氏は思いをはせている。

「私は診療データがオンラインで蓄積していくことに大きな可能性を感じています。これまで多くの病院の中で埋もれ、消えていた症状の変化や個々の治療法が積み重なっていけば、あらゆる患者さんの病症の推移が予測しやすくなりますよね。今後10年で、オンライン診療から得られたデータが医療の在り方を変えるのではないかと思っています」

病院で聞く「こんなはずじゃなかった」をなくしたい

今後、日本が超高齢社会を迎えるのは周知の事実。予防医療は、社会の大きな負担となる医療費の増大を防ぐためにも重要になってくる。

「今、ほとんどの方は、体に何か異変を感じてから病院に行きますよね。ただ、一度“病気の状態”で安定してしまった体を治療によって元の状態に治していくのはとても大変なんです。本当は、そうなる前にいろいろな兆候があったはずです。オンライン診療によって蓄積されたデータをAIなどで解析すれば、どんな暮らしをしているとどういう病気になるのかという傾向が明確になってきます。これまで、時間のかかる研究や優秀な医師の経験によって支えられてきた領域を容易に“見える化”できるということ。

ですから、将来的には病気になってから病院に行くのではなく、『このままだとこんな病気になるから、生活習慣を変えましょう』と指導したり、場合によっては薬を導入して未然に防ぐような世界になってほしいなと。それは夢物語じゃなく、現実のものとして徐々に近づいてきているような気がしています」

MICINは創業当時から「すべての人が、納得して生きて、最期を迎えられる世界を。」というビジョンを掲げている。それは原氏が子どもの頃から抱き続けてきた問題意識が発端となっている。

「私は父親が病院で働いていて、昔から病院に訪れるいろいろな患者さんを見てきました。『なんで自分はこんな病気になってしまったのか』とか、『こんなことになるなら、もっと違う生き方をすればよかった』とか、やはり後悔の念を口にする方が多くて。これを解決することが医療の価値向上につながるという意識を、ずっと抱いてきたんです。医療が発達したことで人間の寿命は延びましたが、最期に何らかの病気で死ぬというプロセスはほとんど変わっていない。私たちは、そこにもう少しアプローチしていきたいと思っています」

MICINという社名は、スタンフォード大学で1970年代に作られた医療人工知能「Mycin」へのオマージュで名付けられた。感染症を診断して抗生物質を推奨するMycinは、一般的な医師より高い診断結果を誇ったと言われている

現在、MICINは東京女子医科大学と共同で、脳梗塞につながる因子を特定する研究を進めている。約1500人の患者について、過去に受診した人間ドックの結果をAIで解析し、脳梗塞の要因を探る取り組みだ。脳梗塞になる因子が分かれば、具合が悪くなって病院に通う前の段階で、人間ドックや健康診断の結果を医師が参照し、正しく受診するよう患者に促すなどの予防医療が可能になると考えられている。

「どんなふうに生きていると、どういう病気になるのか。それがもっと分かっていれば、自分の生き方を調整することができますよね。仮に病に伏したとしても、もうちょっと納得して病気と向き合えるようになるのではないかと考えています。病気の可能性を認識しながら日々を生きるのと、知らず知らずのうちに病気になってしまうのとでは、全然違います。まだまだ課題は多いですが、今後もオンライン診療の普及に励むことで、少しでも日本の医療に貢献していきたいです」

内閣府による『平成29年版高齢社会白書』には、2025年は65歳以上の高齢者のおよそ5人に1人が認知症になるという推計がある。その予防法の確立は日本にとって喫緊の課題だ。この病もデータの蓄積と分析によって予防することができたら?

人類共通の敵の出現で急激に普及したオンライン診療。そこから派生する技術や方法論が、やがて社会の救世主となってくれることに期待したい。

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