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カギは人間の意識改革。「自動運転」普及に向けたティアフォーの戦略

株式会社ティアフォー 取締役COO 田中大輔【後編】

オープンソースの自動運転OS(オペレーティングシステム)として、世界中の自動運転車両に使われている「Autoware(オートウェア)※」。前編では、このシステムを開発した株式会社ティアフォーが見据えている社会実装の道筋を紹介した。後編では、自動運転を広く社会に浸透させるために行った戦略と解決を目指す課題について、引き続き同社取締役COO(最高執行責任者)の田中大輔氏に聞いた。

※ 「Autoware」は「The Autoware Foundation」の登録商標。

オープンソース戦略で巨大企業に立ち向かう

株式会社ティアフォーは、自動運転OS「Autoware」(以下、オートウェア)を誰でも自由に使えるオープンソースソフトウェア(ソースコードを無償で一般公開したソフトウェアの総称)として世界に公開し、数々の実証実験やサービス実装を通じて、オートウェアの有用性を示してきた。同社取締役COOの田中大輔氏は、自動運転におけるレベル4(特定条件下における完全自動運転)は、限定条件下なら技術的に実用可能なレベルまで成熟していると前編で教えてくれた。

前編はこちら>>タクシー、バス、工場内車両で自動運転が続々!? 自動運転OS「Autoware」が示す自動車の未来

今では世界の自動運転を支えるオートウェア。その開発が始まったのは2012年のことだった。同社の創業者でCTO(最高技術責任者)である加藤真平氏が、名古屋大学の准教授時代に産業技術総合研究所などと共同し、スタートからわずか3年で形にした。

しかし当時、自動運転の分野は米・Googleが先行。資金も人材もなければ、後発では勝ち目はなかった。そこで活路を見いだしたのがオープンソース戦略だった。

「当時はまだ、オープンソースの自動運転システムはありませんでした。ならばオートウェアを公開し、世界中の誰でも開発に参加できる仕組みをつくって団体戦で立ち向かえば、大手企業とも戦えると考えたのです」

自動運転はハードもソフトもさまざまな技術の集合体である。世界中の企業や技術者、研究者が得意分野を持ち寄り、機能を高めれば、オートウェアはより早く、効率的に進化していく。

2015年8月、世界初となるオープンソースの自動運転システムが公開されると、世界中から想像以上にポジティブな反応が集まった。それを後押しに、公開4カ月後には株式会社を設立。さらに、オートウェアを自動運転の標準規格にすることを目指す業界団体「The Autoware Foundation」(以下、オートウェア ファンデーション)を設立し、オープンソース戦略をより強固なものとしていく。それを主導したのが田中氏だった。

「2018年当時の当社は、従業員50人ほど。会社というより研究室の延長というイメージでした」と田中氏

「オートウェア ファンデーションの立ち上げは、私にとってティアフォーでの初仕事でした。設立に当たり、自動運転の開発を行う海外企業や自動車メーカー、半導体大手など約20社に対してプレゼンをし、加盟をお願いしました。名だたる企業のCEO(最高経営責任者)クラスを当時50人ほどの当社が主導していく。なかなか骨の折れることでしたが、現在は加盟企業・団体などが約60にまで増え、議論をし、システム設計、実証、マーケティングまで一緒に行っています。これは、企業としての自信にもつながりました」

連携するのは自動運転分野でトップを走るテクノロジー企業から米国運輸省までと幅広く、その広がりこそが数々の実証実験を形にし、巨大企業とも対峙できる礎となっている。

完全自動運転の実現に必要なこと

自動運転車両は未来の乗り物。一般にはそんな意識がまだ根強く残っていることだろう。この先、われわれが普通の乗り物と捉えるには、どんな変化が必要となるのだろうか。

「モビリティにかかわる全ての方が、その利便性や将来性にワクワクした気持ちを抱き、一方で社会実装の難しさやリスクもしっかりと理解する。最終的にみんなで本気になって自動運転車両を世の中に出していこうとできるか。これが、最終的に皆さんのお手元に届くかどうかの分水嶺だと思っています」

そのためには、社会全体で自動運転に歩み寄る意識が重要だと田中氏は続ける。

「例えば、一般道でも歩行者が立ち入れないような道路にしたり、信号機の情報を電波で自動車に飛ばすようにしたりと、インフラの整備は必要です。現在でもお台場や関西国際空港の周辺など、比較的新しい都市臨海部は自動運転に優しい設計になっている場所もあります」

オートウェアは歩行者の飛び出しに備え、死角手前から緩やかに減速する機能などを搭載している

さらに、社会を構成する市民のマインドチェンジも促していかなければならない。

「自動運転の自動車が走っていれば道を譲る、多少スピードが遅くても許容するといった理解は、今後欠かせないものとなるでしょう。私たちが実証実験で一般の方にも参加していただいているのは、そういった機運を醸成するためでもあるのです」

自動運転が求める社会変革

他方で、自動車業界における別の大きな動きがEV(電気自動車)化だ。自動運転車両は必ずしも動力が電気である必要はないが、相性の良さは間違いない。世界で急速に進む電化の波は、自動運転普及とともに両輪で捉える必要があるだろう。

「EVが急速に普及した場合に困るのは、充電スタンド不足や充電時間の長さでしょう。さらにそれが自動運転車両なら、わざわざ充電コードを人間が挿さなければならないのもスマートではありません。使い勝手の良い自動運転車両を世の中に広める観点で、無線充電はいずれ普及させるべき技術の一つです」

さらに自動運転EVの活用が進んだ社会では、電気を送る配電網そのものの見直す必要も出てくると言う。田中氏が可能性を感じているのは、「ビークル・グリッド・インテグレーション(VGI)」の考え方。つまり、車両と配電網のネットワーク化だ。

EVを巨大な蓄電池と考えれば、災害時の電力不足の解消などに役立つ

「自動運転EVが主流になった場合、電気を蓄えた無数の自動車が常に配電網とつながった状態になります。すると、発電所から電線を通して電気を送るだけでなく、電気が余っている自動車から電気を取り出し、再配分することでエネルギー効率を高めていくことも可能となるでしょう。電力会社も次世代に向けたエネルギーの考え方を模索しているはず。ぜひ一緒に考えていけたらと思っています」

技術の進歩とは別に、インフラ、法律、事業エコノミクス、人のマインドなど解決すべき課題は山積みだ。これらを乗り越えていくため、ティアフォーの渉外チームは毎日のように霞が関に出向き、経済産業省、国土交通省、警察庁などに対して積極的な働き掛けを行っている。

「自動車メーカーもベンチャーも自動運転を扱う企業は、総じて渉外チームが強い。それだけ自分たちでは変えることが難しい技術以外の部分がボトルネックだと捉えているんです。どうしたら自動運転を効率的に、安全に、そして特定の会社だけに利益やリスクが偏らないよう社会実装できるのか。これからも提案をし続けていきます」

自動運転が実現されることは、「時間からの解放」でもあると田中氏は言う。テレワーク関連の技術によって通勤時間から解放されたように、人が運転から解放されればハンドルを握っていた時間を別のことに使うことも可能となる。

ティアフォーが目指す自動運転が普及した未来。より豊かな社会を築くための基盤技術となる自動運転の進捗から、これからも目が離せない。

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