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「共創」で未来をつくる。パーソナルモビリティー「CanguRo」の挑戦

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長 古田貴之【後編】

最先端技術で社会の課題を解決するべく、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(以下:fuRo。フューロ)を率いて画期的なロボットを開発してきた古田貴之氏。パーソナルモビリティーが少子高齢化をチャンスに変えると確信している理由とは? 社会実装に向けた課題と今後のビジョンも語ってもらった。

技術の力で高齢化社会をピンチからチャンスに

古田貴之氏が人の役に立つロボットを開発することを決意したのは中学生の頃。脊髄の病気で「余命は8年。運が良くても一生車いすだろう」と宣告されたが、奇跡的に回復を遂げて歩けるようになったことがきっかけだった。それから「足が付いた“車椅子ロボット”を作れば同じ境遇の人は喜ぶに違いない」と思うようになる。

以来、自動で障害物を避けながら目的地へたどり着く「全方位移動型電動車椅子」や、状況に応じて電動三輪車やキックスケーターに変形する「ILY-A(アイリーエー)」、その進化版といえる「CanguRo(カングーロ)」など数々の未来型モビリティーを開発してきた。いずれも少子高齢化という社会課題を解決させることを目的としている。

ILY-Aは1人乗りの小型モビリティー。収納・運搬用の「キャリーモード」、電動三輪車になる「ビークルモード」、立ち乗りができる「キックスケーターモード」、ショッピングカートや手押し車、ベビーカーなどに使える「カートモード」の4つに変形する

「少子高齢化というと暗くて重い話になってしまい、『将来はピンチだ』という発想になってしまいがちです。実際に厚生労働省は高齢化で医療費や介護費用が膨れ上がるという話をするし、それを聞くと、自分の生活は自分で守らなければと、怖がって外出しなくなり、足腰が動かなくなって脳機能も劣るという悪循環に陥ってしまう。しかし、捉え方次第ではピンチがチャンスに変わるんです」

モビリティーで社会課題の解決を目指す古田氏

日本政府の抱えている負債は、2021年の時点で1241兆円。一方、60歳以上の塩漬けの預貯金は1000兆円以上あると言われている(2015年税制調査会より)。そこにチャンスがあると古田氏は考えている。

「高齢者が家に引きこもってお金をため込むのではなく、いろんなことに好奇心を持って、経済活動と文化活動を引っ張る。それがこれからの日本が目指すべき理想の社会だと思うんですよ。そこで重要になるのが僕たちのロボット技術。CanguRoやILY-Aは、世代を問わず誰もが元気に、自由に動き回ることができるツールです。『世代を問わず』という部分が重要です。高齢者が仕方なくシニアカーに乗るのではなくて、若者がうらやむようなモビリティーを作って、自分から乗りたくなるようにしてあげないと。だからこそ僕はデザインにこだわるのです」

独創ではなく共創で未来をつくる

一気通貫のモノづくりを信条とする古田氏の仕事は、「ロボットを作ったら終わり」ではない。開発したロボットを社会に実装させるための環境整備にも根気よく取り組んできた。

「普通免許を返納した高齢者が新たなパーソナルモビリティーを活用できるようにするためには、道路インフラと法律の整備が必要です。だから私は何年も経済産業省所管のNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術開発機構)に通いつめ、つくばの実験場で実証実験を続け、電動モビリティーを公道で走らせるための規格を作るプロジェクトを進めてきました。自分が作ったロボットを社会に広めるために、怠りなく準備をしてきたのです」

CanguRoの全長はユーザーの後ろをついてくるロイド(ロボット)モードだと550mm、バイクのようにまたがって搭乗できるライド(乗り物)モードだと750mmで、重量は64kg。時速10kmで移動可能。道路交通法で定められた超小型モビリティーの規格に対応している

「自分は研究者だから技術開発しかやらない」と、一本足打法で戦うのではなく、あらゆる関係者を巻き込みながら“共創”を目指すのがfuRoのスタイル。実際に産学共同で取り組んできたプロジェクトが多い。

「社会の課題を知って問題を抽出し、どんな製品やサービスが完成すれば明るい未来をつくれるかを考えた後は、その分野の専門家の力を借りればいいんです。みんな独創で戦うから敗れ去ってしまうんですよ。これからは共創の時代。重要なのは、誰が何をできるかを把握し、自社にとって必要な人とつながることです。企業は実現したいコンセプトを持っていても、それをロボットで実現するための基盤がありません。一方、私は完成したロボットを量産し、社会に普及させる販売手段を持っていません。だからこそ共創することでWin-Winの関係が築けるんですよ」

fuRoとパナソニックとは産学連携の一環として17年12月に「パナソニック・千葉工業大学産学連携センター」を設立。18年3月にレーザーSLAMとアクティブリフトを搭載したロボット掃除機「ルーロ」のプロトタイプを公開

とはいえ、fuRoが持つ最先端技術を一般企業が扱うのは簡単ではない。プロトタイプで提案したさまざまな機能が削ぎ落とされて販売されることも多いという。そこで古田氏は、今後、肝いりのプロダクトであるCanguRoの製造・販売を担う会社を立ち上げることを予定している。

「スティーブ・ジョブズがApple Storeをつくったように、やっぱり消費者の手に届けるところも自分でやらなければいけないと考えています。CanguRoは2016年に開発を始め、2018年に発表したのですが、販売を他に任せていたらさらに時間がかかってしまいそうですし、そろそろ自らの手で届けたいと思ってきました。既に会社名も決まっています」

モビリティーもエネルギーも多様性の時代へ

未来を変えるような革新的なプロダクトを生み出すためには、自分たちだけでなく他社や大学、行政、社会起業家など異業種、異分野が持つ技術やアイデア、知識などを組み合わせたオープンイノベーションが大切。それはあらゆる社会的な課題に通じる話であり、そこで「エネルギー問題がカギになる」と古田氏は語る。

「日本はエネルギー資源に乏しいわけで、なるべく石油の依存度を下げて、エネルギーの多様性を確保しなければいけないですよね。過去2度のオイルショックや、コロナ禍の影響による電気代の高騰を見てもそれは明らかです。まずは特定の資源をタブー視するのではなく、オープンに話せるようにするべきなんですよ」

CanguRoやILY-Aのようなパーソナルモビリティーは、人々のエネルギー消費の在り方を変える可能性を秘めている。

「高度経済成長期は、鉄道の路線を造り、沿線をベッドタウンとして都市開発して、電車やバスをたくさん稼動させて人々を大量輸送するビジネスモデルが成立しました。でも、人が少ない時代にでかい電車を走らせてもペイできないですよね。だから僕は、これからは1人乗りのパーソナルモビリティーによって、エネルギーを小分けにして分散することが大切だと思うんですよ。人が乗っていない電車を動かすのではなく、一人一人のライフスタイルに合わせて、適材適所で細分化する。パーソナルモビリティーが社会に浸透したら、エネルギーの節約に一役買えるのではないかと考えています」

古田氏は文部科学省主宰の「ユニバーサル未来社会推進協議会」で副会長を務めている

医療の世界では、患者個人のゲノムを解析し、その結果に基づいて診断・治療を行うという「パーソナルゲノム医療」が実現しつつある。今後はエネルギーもパーソナライズされる時代がやってくるかもしれない。

「僕は、技術というのは、この世の全てに平等を与えるものだと思っています。できないことを、できるようにする。そのために技術があるんです」

国土交通省によると、超小型モビリティーの走行距離あたりエネルギー消費効率はガソリン車の1/6程度。二酸化炭素(CO2)削減に大きく貢献する乗り物として期待されている。

また、fuRoが開発した8本足ロボット「Halluc IIχ(ハルク・ツー・カイ)」は、3つの形態に変形することでどんな地形でも走れることを目指している。そんなモビリティーが進化し普及すれば、道路開発のために自然を切り崩す必要が軽減されるかもしれない。

CanguRoをはじめとした高度なモビリティーの発展は、超高齢社会や地球環境など、我々が直面している多くの課題を解決に導くツールになる可能性を秘めている。

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