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農業のニューノーマル

1台で複数機能! 小型ロボット「DONKEY」が解決する農業機械化の未来

新しい農業機械が解決に導く農業が抱える課題

今年話題のキーワード「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」に、農業界も当然乗り出している。既にさまざまなテクノロジーの導入例も出てきている一方で、実際の農業従事者の多くはまだ“機械化”にすら追いついていない事実も存在する。そんな設備投資などのハードルの高さに頭を抱える中小規模の農業経営体を支えるべく、小型多機能ロボットを世に送り出そうとしているのが株式会社DONKEYである。同社代表取締役社長の山本秀勝氏に、農業界で求められているロボットの在り方について聞いた。

スマート農業を一般化したい

「スマート農業」という言葉が聞こえるようになって久しい。ロボット技術やICT(情報通信技術)、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの先端テクノロジーを活用し、作業効率や生産物の品質向上を実現しようという、次世代の農業の在り方だ。

しかし、株式会社DONKEYの代表取締役社長、山本秀勝氏はその実態について次のように話す。

「日本の農家さんの7割は中小規模の農業経営体で、うち4割は農業による所得が100万円以下、平均しても200~300万円とも言われています。また、全体の5割は中山間地域(平野の外縁部から山間地)で営まれているので、収益性や生産環境の問題から、トラクターや作業機械の導入などはほとんど進んでいません」

「サポートすべきは、中小規模の生産農家だ」と話す株式会社DONKEYの山本社長

「例えば、農業機械というとコンバインを思い浮かべる人も多いのではないかと思いますが、コンバインを活用できるのは、主に米、そして麦や大豆の収穫だけであり、非常に単機能なのです。一つの問題を解決しても、別の問題は解決されないという状態では、設備投資にかかるコストとそれによって得られる利益がなかなか見合わないんですよ」

もちろん、露地栽培(屋外の畑で栽培すること)の野菜や果物用の機械もある。キャベツやネギ、イチゴなどそれぞれの作物に合わせた形状で、作業工程に対応して労働力や時間を削減してくれる。ただ、多くが中大型の作業車や機械であるため、中小規模の農業経営体にとって導入や維持のハードルは低くはない。

そんな状況に追い打ちをかけるように、農業の担い手不足も深刻だ。農業就業人口のうち、主として仕事としている者(勤め人で日曜日だけ農業を手伝うような人を除く)は、2000年に240万人から2018年の145.1万人へ、20年弱で39.5%も減少している。2019年の概算値は140.4万人とされており、1年で5万人近くも減ったことになる。対して、1農家当たりの経営耕地面積は大型化していて、もともと突出して広かった北海道は15.98ha(ヘクタール)から28.90haと1.80倍に、北海道以外の都府県の平均は1.21haから2.2haと1.82倍にもなっている(全て農林水産省調べ)。

担い手が減っている中で1農家当たりの生産量をより増やしていくためには、高度な機械化による作業量の軽減・効率化に大きな期待がかかる。

「そうした状況下で、株式会社日本総合研究所が『農業者みなが儲かる農業 = Agriculture 4.0』を提唱し、民間企業と共に、2017年から中小規模の農家さんが使いやすいロボットの検討に乗り出したのです」

協働したのは、エンジニア派遣と技術開発をする株式会社アルプス技研、ソフトウェア開発などを手掛ける情報技術開発株式会社、日本有数のシンクタンクである日本総合研究所、産業機械専門商社のユアサ商事株式会社、管材や電設資材を扱う渡辺パイプ株式会社の5社(50音順)。開発を進めているのが「DONKEY(ドンキー)」だ。

「農家の方々に協力してもらい、コンセプト検証と改良を重ねた結果、2020年3月に5社が共同出資し、会社を立ち上げるに至りました」

「多機能」が農家の使いやすさにつながる

DONKEYは“小型多機能ロボット”と銘打った、1台で複数の機能を持つロボットだ。山本氏が「最もロボットを必要としているのではないか」と話す中小規模農家の使いやすいさにこだわった。

例えば、最大20度の傾斜を自力で登る「登坂性能」や、凹凸の激しい畑道でもコンテナを積載した状態で認識した対象物に付いて来る「追従機能」、農薬散布に使用されるホースの取り回しなどもスムーズに行うことができる。

現状ではインホイールモーターを4つ付けており、電力稼働で最高時速は6km程度。追従機能を使うときは1回の充電で4時間稼働できる。農作業現場において重い荷物を載せ、しっかりと作業者についていく「DONKEY(=ロバ)」と名づけられたのもその所以だ

「将来的には、収穫物をDONKEYが“一人”でトラックまで持って行き、農業従事者が移し替えたら収穫場所にまた自動で戻る、ということも実現したい。家庭用ロボット掃除機のように自動でソーラーパネル付きの蓄電システムで充電する、といったことも可能になればと思います」

積載荷重は100kgまで可能。各種アタッチメントの付け替えにより、さまざまな作業を行うことができる

「単機能の機械をいくつもそろえるのは現実的ではないし、一年を通して収穫時期の違う作物を複数作っているとしたら、それにも対応できないと意味がない。一つ一つの機能は目新しいものではありませんが、それが1台でカバーできるという点に価値があると考えています」

追従試験の様子

動画提供:DONKEY

アタッチメントを利用した防除試験の様子

動画提供:DONKEY

「また、アタッチメントが交換できる仕組みになっているので、多機能という意味で今後も広がりがあるのではないかと思います。まずは『農薬を散布する』とか『収穫したものをそのまま計量する』といった機能が切り替えて使えるように設計しています」

例えばナスを収穫する場合、農業者は「農業コンテナ1杯分のナスの重さ」という目方をもとに収穫量を量り、帰宅してからその数値を手入力しているのが一般的だという。しかしDONKEYなら、農業コンテナに収穫物を入れていくと、そのコンテナを積んだDONKEYが自動で重さを記録し、リアルタイムでデータが蓄積されていく。衛星からの位置情報取得機能も搭載されているため、同じ畑の中での収穫量や質の違いを分析することも可能にしていく。

「数十cm単位で位置情報を計測できるため、同じ農地内でも南側の方が北側よりも収穫時期が早かったなど、翌年の栽培計画に必要な情報をまとめやすい。いずれは、いつ植えて、いつ追肥し、どんな気温の中で何をすべきかなども分かるようになれば、その土地の記録にもなるでしょう。土壌の分析ができるようになれば、肥料の散布なども効率が良くなるはずです」

データ化については、まだ想定している全てが組み込めているわけではない。しかし、DONKEYをデバイスと捉えれば、そこからさまざまな活用につなげていくこともできるだろう。

ホウレンソウ作りにかかる労力と時間をロボットで軽減

しかし、まだまだ課題も少なくない。「そもそも農業用ロボット市場はまだ成熟しておらず、価格や機能の標準化もされていない。実績を残して農家の方々に価値を見いだしてもらうことからチャレンジしていかなければならない」と山本氏は続ける。

「私たちが参入していこうとしている露地野菜だけで見ても、数百億円規模の市場が見込めるだろうという期待はあります。特に、比較的機械化の進んでいる米を除く野菜の収穫部分においては、まだまだ未開の地となっているものが少なくありません。中でも手がかかるのがホウレンソウ。機械ではなく、座って一つ一つ収穫していくことになります」

ホウレンソウを出荷するまでには、10a(1000㎡)につき1人当たり約244時間の労働力がかかっており、収穫と出荷作業がその大半を占める

出典:農林水産省『野菜をめぐる情勢』(2019年4月)より

「その後、収穫したホウレンソウの芽をそろえて、折れた葉は手で一つ一つ取り除いていく。ちぎっては量ってを繰り返しながら測量し、最後に梱包して出荷することになります。この調整過程も全て手作業。非常に時間がかかるため、作業軽減につながる技術が開発されなければ、国内生産されるホウレンソウは次第に減っていくかもしれません。じゃあホウレンソウの芽をそろえる機械があればいいかというと、もしジャガイモも作っている農家さんだとしたら、今度は実を壊さずに収穫する機械も欲しいはずです。作っている作物によって需要が細かく異なる中で、私たちのロボットが担えることは何なのかを考えていかなければなりません」

中小規模の農業経営体のロボット化が進んだ先に、どんな未来を見据えているのだろうか。

「弊社としては、3ステップで考えています。1段階目はDONKEYを使った農作業の支援。2段階目は、これまで個々に作業方法が違っていた作物でも、データを蓄積して、よりよい作業方法を農家さんに共有していけたらと思っています。そして3段階目は、2段階目の発展として、例えばあるブランド品種の栽培方法がDONKEYを介して共有されることで、他の農家さんでも栽培できるようになればいいなと考えています。せっかくその土壌ならではの優良品種が生まれたとしても、その農家さんでしか作れないようでは全体の生産量は上がりません。また、せっかくおいしい野菜が作れても、継承者がいなければ一代で絶えてしまう可能性もあります。そうならないように生産方法をデータ化、共有して、地域のブランドとして残していけるような流れになればうれしいですね」

山本氏は「小型多機能ロボットの普及によって、より多くの農業経営体が生産量・所得アップを実現できるようサポートしていきたい」と、夢を語ってくれた

技術だけが進んでも使われなければ意味がない。使い手を一番に考えたロボットで農業者の未来を変える。そんな思いを載せたDONKEYが、畑を走り回る日はもうすぐだ。

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