1. TOP
  2. トップランナー
  3. 肌に優しく、節水も実現。コインランドリー業界の先駆者が仕掛けた“洗剤レス”の衝撃
トップランナー

肌に優しく、節水も実現。コインランドリー業界の先駆者が仕掛けた“洗剤レス”の衝撃

株式会社wash-plus 代表取締役 高梨健太郎【前編】

2013年より、日本初の「洗剤を使わないコインランドリー」を展開している株式会社wash-plus。99.9%が水のアルカリイオン電解水のみの力で、持ち込まれた衣類をキレイに洗い上げる。合成化学物質を含まず肌の弱い人でも利用できるだけでなく、排水による環境負荷も大幅に軽減。人にも地球にも優しく、まさにSDGsの理念を体現する進化系のコインランドリーとして注目を集めている存在だ。洗濯の常識を覆す独自の特許技術を生み出した同社代表取締役の高梨健太郎氏に、開発の苦労や事業に懸る熱い思いを語ってもらった。

不動産業からコインランドリー事業の経営者に

コインランドリー「wash+(ウォッシュプラス)」の特徴は、独自に開発したアルカリイオン電解水を用いて“洗剤レス”で衣類を洗うこと。ホームページでも汚れが落ちる仕組みが解説されているが、にわかには信じ難い。

「洗剤を使わないで、本当に汚れが落ちるのか?」

そんな疑問を見透かしたように、株式会社wash-plus代表取締役の高梨健太郎氏がデモンストレーションを行ってくれた。

「wash+」を展開する同社代表取締役の高梨氏

油性マジックで白い皿に印を付けて、その部分にアルカリイオン電解水を吹きかける。すると、わずか数秒で汚れが浮き上がり、スルンと落ちてしまった。

論より証拠、ということだ。「汚れは洗剤(合成界面活性剤)を使って泡立てないと落ちない」という固定観念を目の前で覆されてしまった。

アルカリイオン電解水には、油脂をグリセリンと脂肪酸に分解する作用があり、油汚れや皮脂など酸性に属する汚れにめっぽう強い

「wash+」は2013年に1号店を開業してから順調に店舗数を増やし、2023年8月の時点で全国42店舗に拡大している。アルカリイオン電解水の洗浄力が高いだけでなく、専用アプリで洗濯の残り時間や空き状況を確認できるなど、便利なシステムを設けてリピーターを増やし続けている。

元々高梨氏は地元の千葉県浦安市で父親から受け継いだ不動産業を営んでおり、コインランドリーの経営を視野に入れていたわけではない。転機が訪れたのは、2011年の東日本大震災だった。

「東京湾に接している浦安市は、市域の86%で液状化の被害を受けました。当時、私は浦安青年会議所の役員を務めており、3月12日からボランティア活動をけん引するために地域の被害情報を収集していたんです。液状化による地盤沈下のダメージを細かく把握していたので、ボランティア活動が一段落してから一気に危機感を覚えました。『今後、不動産は売れないのではないか?』と」

実際に液状化の被害は深刻で、不動産の価値は1/3まで落ち込み、約3000人の人が浦安市から引っ越していった。賃料が下がり、顧客も減ったという。

新しい事業を模索する中で、高梨氏は税理士の知人から「地方でコインランドリー経営がもうかっているらしい」という話を聞く。急いで調べてみると、小さな土地でも有効活用できるビジネスであることが分かり、たまたま空室になることが決まっていた自社物件のアパートに出店することを決めた。

大手メーカーに鼻で笑われた“洗剤レス”のアイデア

“洗剤レス”のコインランドリーという付加価値を思い付いたのは、高梨氏がプライベートでも転機を迎えていたからだ。

「当時のコインランドリーは、大手とされる4つのメーカーから機器を選んで設置するだけのシンプルな事業でした。機能面で差別化できないのであれば、近所にコインランドリーができたら価格の安さで勝負するしかありません。その不毛な戦いを避けるためのアイデアを探していたころ、2012年5月に子どもが生まれて、父親になったんです」

慣れない子育てに奮闘する日々の中で、洗濯に対しての視野が広がっていく。

「妻は入浴後の子どもの全身に保湿剤を塗っていたのですが、その工程を私はちょこちょこサボっていたんですよ。ある日、それが妻にバレてしまい、説教されてしまって……。『娘がアトピーになったらどうするの?』と。私は無知だったので、アトピーは先天性の疾患であり、親の自分が経験したことがなければ娘も大丈夫だと思い込んでいたんです。ところが、せっけんや洗剤の刺激で後天的にアトピーになってしまう子どもも多いみたいで。そこから、アトピーなどに悩んでいる人たちはどうやって洗濯をしているのか興味を持つようになりました」

リサーチの結果、肌が弱い人は、普通の洗濯洗剤ではなく、刺激の少ない粉のせっけん洗剤を使っているケースが多いことが分かった。一方、当時のコインランドリーは備え付けの液体洗剤が自動投入される方法が主流で、ユーザーは使われている洗剤の種類を知る方法がなかった。

「昨今はあらゆる商品が詳しく成分表示をされていて、アレルゲンも明記されていますよね。レストランやホテルでは、予約段階でお客さまにアレルギーの有無を聞いてくれるところも多い。それがコインランドリーで実現されていないことに疑問を感じて、だったら自分は、どんな人でも安心して使えるコインランドリーを作りたいと考えました。そこで思い出したのが、液状化被害の補助金を申請する際に訪れた船橋市の施設で見かけた工業用のアルカリイオン電解水のポスターです。そこには『水で油が落ちる』と書いてあり、それを衣類の洗濯に応用すれば洗剤を使う必要がなくなるのではないかと思いました」

「前例がなくても、自分が正しいと思ったら突っ走るタイプです」と語る

視察する目的で開発会社を訪れた高梨氏は、20Lのアルカリイオン電解水を購入して自社に持ち帰る。工場で実証実験をしてみたら、ちゃんと汚れが落ちた。衣類の洗濯に適切な濃度を探る必要があったが、これを使えば、人にも地球にも優しく、最初の目標だった「どんな人でも安心して使えるコインランドリー」を実現できることを確信。自身のアイデアに手応えを得ることができたが、次のステップで壁にぶつかる。

「店舗に設置する機器を共同開発するパートナーを探し始めたのですが、最初に大手2社にお願いに行ったら鼻で笑われてしまいました。『洗剤の泡立ちが見えなかったら、客は寄り付きませんよ』って。ものすごく悔しかったですね。唯一興味を示してくれたのが、株式会社山本製作所(広島県尾道市)の社長でした」

共同研究を経て、独自の洗濯機が完成。2013年6月、「wash+」1号店を開いた。

「wash+」で使われるアルカリイオン電解水は、界面活性剤などの合成化学物質を含まない無色・無臭の電解水。洗濯機の内部が泡立たないことが特徴。洗浄効果は一般の洗剤を使った場合と遜色なく、洗濯物を除菌する効果もある

アルカリイオン電解水の大量生成が実現。店舗拡大が加速

試行錯誤して開業にたどり着いた「wash+」。次に直面した問題は、衣類の洗浄を担うアルカリイオン電解水の値段が高いことだった。

「一度に生産できる量が少なかったこともあり、普通のコインランドリーと比べて1回の洗濯にかかるコストが3〜4倍にもなっていました。そこで、店舗にアルカリイオン電解水の生成装置を置いて、コインランドリーが使われていない時間帯を利用して自分たちで生成・貯蔵しながら営業することに。とはいえ、各店舗に生成装置を設置すると費用もかさむし、装置のメンテナンスにも手が回らなくなるかもしれません。そこで、アルカリイオン電解水をまとめて生成する工場を作り、タンクで各店舗に輸送できる仕組みを作りました」

「wash+」の洗濯機には「洗剤使用禁止」のシールが張られている

アルカリイオン電解水を使った、洗濯システム「wash+ Technology(ウォッシュプラス・テクノロジー)」は特許取得済みの技術。唯一無二の洗剤レスの魅力は、1号店を開いてから口コミでどんどん広がっていった。

「当初の狙い通り、肌に悩みを抱えている方々から好評をいただくことができました。遠方から通ってくださっている方もいますし、お子さんが重度のアトピーの人から感謝の手紙が届いたこともあります。我々にはアルカリイオン電解水の力を洗濯に有効活用する独自の技術があるので、今後もそれを使って社会に貢献していく手段を探っていきたいですね。例えば最近はペットの体を拭くウエットシートにも応用できそうなことが分かってきて、研究開発を進めているところです。他にも、幅広いジャンルの企業と一緒に進めているプランがたくさんあります」

洗剤レスだけでも十分に付加価値のある事業だが、「wash+」の革命はそれだけでは終わらなかった。IoTシステムを導入してユーザーの利便性を高めることにも成功しており、ろ過装置を開発することで“排水レス”にも着手している。後編では、高梨氏の快進撃にフォーカスする。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. トップランナー
  3. 肌に優しく、節水も実現。コインランドリー業界の先駆者が仕掛けた“洗剤レス”の衝撃