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においの検知も再現も可能。レボーンが見据えるにおい産業の未来

株式会社レボーン代表取締役 松岡広明【後編】

五感の中でも謎が多い嗅覚の研究を進め、独自のセンサーとAIで顧客のにおいに関する課題解決をサポートしている株式会社レボーン。代表取締役の松岡広明氏はロボット製作に熱中した少年時代を過ごし、当時から今の事業につながる疑問を抱いていたという。におい分析技術の最新事情や、将来的なビジョンについて、松岡氏に熱い思いを語ってもらった。

幼少期に抱いた疑問が原点「なぜロボットには鼻がない?」

食品、化粧品、電気機器、医療など、レボーンが開発したにおい分析システムはさまざまな分野の企業に導入されている。主力サービスである異常検知AIは、人間の鼻で嗅ぐことでしか判断がつかなかった「異常」が、センサーでにおいを測るだけで簡単に判別できるようになる。

レボーンが開発したにおいセンシングデバイスの「OBRE(オブレ)」。対象のにおいを瞬時にデータ化・分析が可能。操作はBluetoothなどを介してスマートフォンのアプリから行う

同社代表取締役の松岡広明氏は幼少期からロボット製作を始め、わずか13歳でロボカップの世界大会に出場し準優勝した逸材。当時から今の事業につながる疑問を抱いていたという。

「ロボカップには、ロボットが障害を乗り越えて被災者に見立てたマーカーを見つけ出す『レスキュー』という競技があります。でも、災害時に人間や救助犬はにおいをヒントに異常や要救助者に気付くのに、ロボットには鼻がない。そこに対する疑問が原点ではあるものの、そもそも僕には人間とロボットの違いがよく分からないんです。人間が親や上司の指示に従って活動しているように、ロボットも指示された通りに動く。鼻ぐらいしか違いがないのではないか……と思って、 それを解明したいという欲求が今でも強いんですよ」

株式会社レボーン代表取締役の松岡広明氏。同社には臭気判定士などの資格を持つにおいのスペシャリストも在籍している

嗅覚は五感で唯一、感情や本能に関わる「大脳辺縁系」に直接伝達される感覚であり、理性的な思考のフィルターを通さないといわれている。先入観の影響を受けにくい器官だからこそ、においが人間の個性に与える影響が大きいのかもしれない。

「新型コロナウイルスに感染したことで性格や言動が変容したという報告が相次いだように、鼻から脳に入った物質の影響は計り知れません。であれば、これは私の予想ですが、食べ物や飲み物からも相当な影響を受けているはず。そういった謎を解明するためにも、においのデータを蓄積することが重要。今はにおいセンシングデバイスのOBREを普及することに力を入れています」

古い画像の「においを再現」することも可能

レボーンはにおいの分析技術だけでなく、イメージしたにおいを作り出すことを目的としたサービスの開発も進めている。2023年9月には、写真などの画像からイメージされるにおいのレシピを瞬時に作成する「画像調香AI」をリリース。

「“においの再現”は、におい・香りに関わる技術の中でも最も難易度が高い技術の一つで、人間しか行えない職人技であるとされてきました。でも弊社の調香AIは、例えばバラの画像を入力すると、その画像のイメージに沿った香りブレンドのレシピがAIによって割り出されます。『花の部分のみのバラの画像』と『茎や葉も映ったバラの画像』を入力した場合だと、異なるブレンドが出力されることがポイントです」

画像調香AIによる香りレシピのイメージ

画像提供:株式会社レボーン

においが手軽に再現できるようになれば、VRやARの世界では、においを組み込むことで、より没入感のある体験が可能になる。映画やテレビ番組、ビデオゲームにおいても、登場人物が感じる環境や状況に合わせたにおいを視聴者に提供することが考えられる。

「過去の思い出のにおいを気軽に再現したり、においを作ってメールで送るなど、今までにない新しい文化が生まれる可能性もあります。現在は、においの再現の先駆けとして、画像からイメージされるにおいのブレンドレシピを出力するという調香AIの新機能をリリースした段階ですが、今後出力されたブレンドを、デバイスを通じて直接嗅ぐことができるような機能を開発します。興味を示していただいている分野の一つが、自動車メーカーです。将来、自動運転が当たり前になると、自動車は空間演出が差別化の鍵になってきますよね。そこで香りは重要なブランディングになってくるのではないかと考えています」

におい再現デバイス「Hearom(ヒアロム)」。においの元となる成分を複数搭載して、調香されたデータを生成して出すことができる

画像提供:株式会社レボーン

においに関する前例のないサービスを打ち出していることがレボーンの強みだが、それが課題にもなっている。

「冷静に考えたら分かるのですが、においって対象から遠過ぎるとうまく測れないんですよね。カメラも遠くを撮るためには望遠レンズが必要であるように、
遠くのにおいを測るためにもいろいろな機能が必要です。そうした仕組みをお客さまにご理解いただくことに時間がかかっているのが今の課題ですね」

人間が進化できることを証明したい

目や耳と違って、鼻(嗅覚)に関する学問はまだ確立されていない。そのため松岡氏は個人で地道に研究を進めてきたが、まだ分かっていないことが多い。

「私の感覚だと、現時点でにおいについて解明されていることは15%ほど。『においって何ですか?』というシンプルな問いに、まだ誰も正確に答えることができないんですよね。アロマテラピーが一般家庭にも普及していますが、なぜ特定のにおいにリラックス作用があるかも、いまひとつ分かっていないんです。本当に知りたいことが解明されるまで、あと200年~300年かかるのではないかと思っています。私の人生は、においセンシングのシステムを普及させて、皆さんの仕事場で役立つ瞬間を見届けたら終わってしまう気がします(笑)」

Hearomには最大16種類の香料を充てんすることができ、6万通り以上の調香パターンを楽しむことができる

松岡氏の情熱によって生まれたにおい分析技術が新たな産業の礎をつくり、今後、多方面で画期的な文化が生まれるかもしれない。

「新しい文化を作るお手伝いができるはずですし、自分たちの事業を通してまだまだ人類が進化していけることを証明できるのではないかと思っています」

親族に起業家が多い松岡氏は、「自分のために働くべからず(起業家は社会貢献を目指すもの)」と教え込まれてきた。それ以上に原動力となっているのは、においの謎を解明することで、人間の本質を探りたいという個人的な欲求だ。

「人間は里山の風景を見ると『懐かしい』という同じような感想を抱きますが、『おばあちゃんの家のにおいがする』と感じるシチュエーションには個人差があるんですよ。つまり、においこそ、人間の個性に影響を与える唯一の物質なんです。それが解明されない限り、私には人間とロボットの違いが分からない。でも、胸を張って自分は人間だと言えるようになりたい。結局、これまでの事業も全部、自分を探すためにやってきたことなんです」

壮大なテーマに向かってストイックに突き進んできた松岡氏。近い将来、「世紀の発見」にたどり着くことを期待せずにはいられない。

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