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IoTセンサーとAIで「においのデジタル化」をけん引するレボーンの狙い

株式会社レボーン代表取締役 松岡広明【前編】

視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚から成る人間の「五感」の中で、“嗅覚=におい”は解明されていない領域が多い分野だった。視覚に関連するカメラやモニターが発明されたことで人間の生活が激変したように、これから嗅覚もデジタル化に成功すれば世界にとてつもないインパクトを与える産業に発展する可能性がある。その市場を創出するべく奮闘しているのが株式会社レボーンだ。においを解析する独自技術の強みについて、同社代表取締役の松岡広明氏に話を聞いた。

幅広い分野でにおいの異常を検知

自社開発の「においセンサー」や複数のAIを用いることで、顧客の“におい”に関するさまざまな課題を解決している株式会社レボーン。飲料や食品の生産現場における原料の品質管理、工場で起きる火災などの異常検知、イメージ通りのにおいを作る調香レシピの提供など、サービスの範囲は多岐にわたる。

そもそも、においの感じ方や表現は個人差が大きく、文化や経験に左右される。だからこそレボーンは「においの“なんとなく”をなくす」というミッションを掲げ、においの情報を可視化することに力を入れてきた。まずはサービスの具体的な事例を代表取締役の松岡広明氏に教えてもらった。

「例えば食品業界では、ほぼ全ての商品で人間の鼻を使った“官能検査”と呼ばれる作業を行っています。原料調達、商品開発、出荷前の品質検査など、あらゆる工程で自分たちが狙ったにおいなのかどうかを確認しているわけです。しかし、においには確立された指標がなく、これまではベテランスタッフの経験や勘に頼るしかありませんでした。その“なんとなく”の基準を後継者に受け継ぐのは至難の業でしたが、弊社のセンサーと異常検知AIを使えば誰もが客観的なデータを基に同じ精度の判断ができようになります」

レボーン株式会社代表取締役の松岡広明氏。経営者、エンジニアとして事業をけん引している

異常検知AIは2023年4月に提供が始まったサービス。まず「正常」とされる対象物のにおいデータを取得し、クラウド上でAIに学習させる。そして、判定結果が知りたいサンプルのにおいデータをにおいセンサーを用いて取得し、クラウド上でAIに判定させることで、判定結果を見ることができる。

「食品の大敵であるカビは既存のガスセンサーなどでは測ることができず、人間が鼻で嗅ぎ分ける作業が欠かせませんでした。出荷の段階で不合格になると膨大な原料や商品を廃棄することになるため、におい検査の精度は大きなコストを左右することになります。とはいえ、においを検査する現場では、どんな異常なにおいが発生すのか予測することが困難です。ほんのわずかな腐敗や異物混入によってにおいに影響が出ることもありますが、正常品との差異を見る異常検知AIであれば、カビはもちろん突発的な異常も判定することができます」

人間と同じようなステップでにおいを捉える

一般的な口臭チェッカーやアルコールチェッカーなどの臭気センサーは、酢酸、アンモニア、アセトアルデヒドなど、においを発する成分の濃度を検知するもの。

一方、レボーンが開発したにおいセンシングデバイス「OBRE(オブレ)」には水晶振動子が搭載されており、電圧をかけると一定の周波数で振動する。その仕組みを応用することでにおいの全体を捉えることが特徴だ。

「水晶振動子の表面には、におい成分を捉えるための16種類の感応膜が塗布されています。におい測定の際には、その感応膜と相性が良いにおい成分が付着して、重くなった影響で周波数が小さくなりますが、その周波数の変化こそ、においの特徴として判別できるわけです。そこで得られたデータは自動的にクラウドにアップロードされ、AIを介した分析結果がOBREの画面に表示されます」

OBREはにおいを吸引するノズルやポンプ、においを電気信号に変換するセンサー、データを送受信するクラウド通信などが一体になったデバイス

人間がにおいを判別する仕組みは複雑で、例えば赤ちゃんにチーズのにおいを嗅がせても、それがチーズであることを理解することはできない。つまり、においの物質を鼻の中の嗅覚受容体がキャッチして、その受容体から発せられる信号の変化を脳が解釈することでにおいを判別しているということ。嗅覚受容体に相当するOBRE(センサー)に加え、脳の役割を果たすAIを組み合わせたレボーンの技術は、人間の鼻に近いステップでにおいを捉えているのだ。

「実は既存のアルコールチェッカーは、キムチやみそなどの発酵食品を食べた直後や、エナジードリンクを飲んだ後にも反応してしまうことがあり、冤罪につながるケースも発生しています。アルコール量を検知するだけでは、飲酒運転の正確なチェックはできないんですよね。しかし弊社のシステムはにおいを全体として捉えるため、息に含まれるにおいがビールや焼酎、ウイスキーなのかを判別することが可能です。より精度の高い飲酒運転検知システムを開発するため、2022年からは大学や民間企業と共同研究を進めています」

OBREは片手で操作できるサイズで、AIの診断結果はスマートフォンでチェックできる。出張の際にバッグに入れていくことも容易だ。

「昨今、においを科学することで新たな産業やサービスが誕生することが期待されており、その市場規模は100兆円(内閣府の開発プロジェクト「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」より)の稀有なブルーオーシャンと呼ばれています。そこで弊社は、いち早くインフラを構築するためにも多様な方々にOBREを使っていただくことを目指しています。そのため、サービスはサブスクリプション形式を採用しており、常に最新モデルでのセンサーの利用が可能ですし、より気軽に参入していただける体制を構築しています」

医療分野の嗅診に科学的根拠をもたらす

異常検知AIは理解が得やすい食品や香粧品だけでなく、大手自動車メーカーにも導入されているという。それは松岡氏も開発段階で予期していなかった需要だった。

「中国人の自動車ユーザーはケミカル臭を嫌う傾向があるそうです。日本なら新車の証しとして受け入れる人も多いと思いますが、中国の場合は『健康被害につながるのでは?』という不安を与えてしまうんですよね。ただ、自動車には約3万の部品が使われており、製造される場所もバラバラなので、全部のケミカル臭を人間の鼻でチェックして管理するのは非現実的。そこで我々の異常検知AIを役立てていただいています」

異常検知AIのサービス画面サンプル。測定は1回約90秒とスピーディーであり、人が不在のときでも自動で測定をすることもできる

画像提供:株式会社レボーン

レボーンのにおい分析技術は医療分野でも注目を集めている。これまで経験豊富な医師だけが可能であった嗅診に科学的な根拠が加わるからだ。

「がんの患者さんから発せられる特有のにおいは、専門の医師は非常に高い確率で感じ取ることができるそうです。しかし、科学的な根拠がなかったため、カルテに書くこともできず、本人に伝えることも禁じられていました。我々のシステムでデータを蓄積すれば、それが科学的な根拠になり、患者さんに早い段階で検査をうながすことができるようになるかもしれません」

レボーンのシステムは、ワキガや歯周病など、ヘルスケアの分野でも幅広く応用可能。「現在は企業向けのサービスのみですが、将来的に個人向けのサービスも展開していきたいです」と語る松岡氏

2018年の創業以来、におい産業の確立に向けた取り組みを続けてきたレボーン。後編では、そもそも松岡氏がにおいのデジタル化に着目した背景や今後のビジョンに迫る。

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