
2026.10.28
ウランに新たな可能性! JAEAが世界初のウラン蓄電池を開発
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA) 原子力科学研究所 NXR開発センター 大容量蓄電池開発特別チーム 研究副主幹 大内和希【前編】
再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入拡大に伴い、発電量の変動を補う大容量蓄電池への期待が高まっている。一方、原子力発電用燃料の濃縮工程で生じる劣化ウランは、将来的な利用が見込まれる資源でありながら、現時点では多くが未利用のまま保管されている。こうした中、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)がウランを活用した世界初の蓄電池の開発を進めている。ウランにはどのような可能性があるのか──。開発者の一人、ウランの新たな資源価値創出に向けた研究を進めている大内和希氏に話を聞いた。
この記事のポイント
- JAEAが世界初となる「ウラン蓄電池」の充放電を実証
- 大容量・長寿命が期待できる「ウラン・鉄レドックスフロー蓄電池」へ発展
- これまで未利用だった「劣化ウラン」に新たな資源価値を創出
ウランを用いた蓄電池での充放電を実証
近年、エネルギーの安定供給と脱炭素を両立する電源として、再エネや原子力発電の重要性が高まっている。しかし、再エネは普及が進む一方で天候や時間帯などによって発電量の変動が課題となっている。
そこで注目されているのが、電力を蓄え、必要なときに供給できる蓄電池だ。再エネの発電量が多いときに電力を蓄え、少ないときに放電することで、再エネの出力変動を補い電力の安定利用を支える役割が期待されている。
こうした中、原子力と再エネ双方の弱点を補いながらカーボンニュートラル社会の実現を目指すJAEA NXR開発センターは、ウランを用いた蓄電池の開発を進めている。開発の背景を、同チームの大内研究副主幹はこう語る。
「ウランは酸化数3~6価という幅広い酸化状態を取ることができます。例えばウラン3価(U3+)は、ウランが3個の電子を失った状態を示します。電子を失うことを『酸化』、受け取ることを『還元』と言い、ウランはこうした酸化還元反応を起こすことができます。
この性質から、充電や放電をする蓄電池の活物質、つまり蓄電池として利用できるのではないかというアイデアが2000年代初頭、日本の大学の研究グループによって概念として提案、有望視されてきました。
しかし、実際にウラン蓄電池をつくり、性能を評価するまでには至っていませんでした。私たちは、これを世界で初めて実現したということになります」

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JAEA NXR開発センター 大容量蓄電池開発特別チームの初期メンバー。左から植野雄大研究員、渡邉雅之上級研究主席(撮影当時/現東北大学工学部教授)、大内和希研究副主幹
画像提供:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)
JAEAでは、ウランの化学的な特徴を生かした研究を進めるため、NXR開発センターに「大容量蓄電池開発特別チーム」を創設。2024年から、大内氏を含む3人のメンバーで研究を進め、2025年3月には世界初のウラン蓄電池を開発し、充放電できることを確認したと発表した。
大容量蓄電に適したレドックスフロー方式の蓄電池を開発
一般的に、現在の蓄電池はリチウムイオン電池が主流となっている。リチウムイオン電池の特徴について、大内氏は「最大の特徴は高いエネルギー密度にある」と説明する。
「蓄電池は、電池の重さや大きさに対して、どれだけ多くの電気をためられるかが重要です。その点、リチウムイオン電池はエネルギー密度が高く、多くの電気をためられるため、小型化・軽量化しやすく、スマホやパソコン、電気自動車(EV)などで使われやすいといった特徴があります。しかし、ニュースなどでもよく話題になりますが、リチウムイオン電池は熱暴走によって発火する恐れがあるという課題もあります」
この他リチウムは産出地に偏りがあり、充放電を繰り返すことで劣化する課題もある。現在、再エネの安定供給を支える系統用蓄電池の多くでリチウムイオン電池が活用されているが、大容量の蓄電が求められる系統用蓄電池では、小型化・軽量化だけでなく、安全性や寿命なども重要な要素となる。
この課題を補う新たな蓄電池の登場が待望される中、大内氏らのチームは2026年3月、「ウラン蓄電池」の発展形として「レドックスフロー蓄電池」の開発を発表した。

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ウランを用いたレドックスフロー蓄電池の構造イメージ
資料提供:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)
「レドックスフロー蓄電池とは、外部のタンクに入れた電解液に電気をため、その液体を循環させて充放電する蓄電池のことです。今回、開発した蓄電池は活物質(ウラン・鉄)が溶けた液(電解液)をためるタンクが外付けになっており、充放電を起こす電極部と分離していることが特徴で、外部のタンクを大きくすれば蓄えられる電気の量も増やすことができるため、大容量の蓄電に適したシステムになっています」

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負極にウラン(U)、正極に鉄(Fe)を用い電解液を循環(フロー)することで外付けしたタンクへ電気をためられる構造に。タンクは電極部に外付けすることで大きくでき、蓄電容量を増やすことが可能に
資料提供:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)

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レドックスフロー蓄電池の充電試験。電極部に入った負極電解液は、充電反応によって濃い緑から紫に変色し排出される。電解液はタンクと電極部の間をポンプで循環し、負極側タンクの電解液の色も同様に変化
資料提供:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)
蓄電池への活用で、劣化ウランに新たな資源価値
リチウムイオン電池には、充放電を繰り返すことで劣化する弱点がある。一方、レドックスフロー蓄電池で使われる電解液は、長期間の使用に耐えられるとされている。
「従来のレドックスフロー蓄電池の電解液にはバナジウムが使われていることが多いですが、バナジウムの場合、20年使い続けられると言われています。そのため、定期的に電解液を交換する必要はありません。私たちが開発したウラン・鉄レドックスフロー蓄電池も、まだ長期的な評価は行えていませんが、バナジウムと同様に、長寿命というメリットが期待できると考えています。また、リチウムイオン電池のような熱暴走による発火のリスクもないため、リチウムイオン電池の弱点を補う蓄電池になることが期待できます」
今回、大内氏らのグループが開発した同蓄電池の成果は、これだけではない。もう一つの大きな成果が、劣化ウランに新たな資源価値を見いだしたことだ。
「ウランには、質量数の異なるウラン235とウラン238が存在します。このうち、核分裂を起こしやすいウラン235は原子力発電の燃料に利用されていますが、天然ウランにはウラン235が0.7%程度しか含まれていません。残りの99.3%は、核分裂を起こしにくいウラン238が占めています。
そのため、燃料製造時にはウラン235の含有率を3~5%まで高める『濃縮』を行います。その副産物として、ウラン235の含有率が天然ウランよりも低い『劣化ウラン』が発生します。この劣化ウランは現在の原子炉(軽水炉)の燃料には使用できないため、その有効利用に向けた研究が行われてきました」

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資源としてのウランの活用イメージ
資料提供:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)
現在、劣化ウランは日本国内におよそ1万6000トン、世界全体では約160万トンが保管されているとされる。今回開発された蓄電池では、天然ウランと劣化ウランのいずれを用いても同様の化学反応を起こすことができるため、既に保管されている劣化ウランを蓄電池の材料として活用できる。そのため、ウラン資源を海外から調達するのではなく、国内に保管されている劣化ウランを活用できることが大きなメリットとなっている。
また、劣化ウランのさらなる活用について、大内氏は次のように期待を寄せる。
「蓄電池に使用した劣化ウランは、使用後も通常の燃料として利用できる形に戻せる可能性があります。将来的には、次世代の原子炉として期待されている高速炉などに再利用する道も考えられます」
劣化ウランを蓄電池と核燃料サイクルの双方で活用できれば、ウラン資源の利用の幅を広げ、劣化ウランの有効利用にもつながる可能性がある。
ウラン蓄電池のフロー化で、劣化ウランの資源化とカーボンニュートラル社会の実現を共に導く大容量蓄電技術の確立に向けた動きは加速し始めている。
後編では、ウラン・鉄レドックスフロー電池の開発秘話や今後の展望、実用化に向けた課題について聞く。
<2026年10月30日(金)配信の【後編】に続く>
試行錯誤から生まれた「ウランと鉄」の新たな組み合わせ。その苦労とはいかに

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text:木村敬(ウィット) edit:大場 徹(サンクレイオ翼)















