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さらなる快適性、安全性向上を!「ALFA-X」から見えてきた、次世代新幹線のあるべき姿

東日本旅客鉄道株式会社 先端鉄道システム開発センター 所長 浅野浩二【後編】

JR東日本が現在開発中の次世代新幹線開発へ向けた試験車両「ALFA-X(アルファエックス)」。前編では現在の新幹線開発の大きな課題が、速達性の向上とともに環境性能であること。そして、新幹線における環境性能とは“省エネ”と“低騒音”という2つの側面を指すことが明らかとなった。後編では安全性や快適性の向上をテーマに、引き続き、JR東日本 先端鉄道システム開発センター所長の浅野浩二氏に話を伺う。

速達性と安全性の向上はワンセットで考える

高速で移動し、目的地まで短時間で到達する──。

この速達性こそが新幹線に与えられた、最も重要な課題であることはいうまでもないだろう。しかし、同時に高い安全性も確保されなければならない。特に日本は地震など天災の多い国であり、万一の事態にも備えることはもはや必然といえる。

「次世代新幹線の開発には速達性だけでなく、安全性の向上などさまざまな研究開発テーマが課せられる。そのために用いられるのが『ALFA-X』です」と試験用車両の意義を説く浅野氏

「安全性・安定性を確保することは公共交通手段として当然ですが、“ここまで実現できればよい”という明確な基準がないため、車両を造る私たち自身で目標を定める必要があります。

今回、『ALFA-X』では『さらなる安全性・安定性の追求』をコンセプトとしました。これは既存の新幹線より運行速度が速くなっても従来と同等か、それ以上の安全性や安定性が確保されるということです」
※【前編】の記事はこちら

車両とレール間に、地震が発生した時でも脱線しないようにするための“地震対策ダンパ・クラッシャブルストッパ”。長年、鉄道車両の台車開発に携わってきた浅野氏の専門分野となる

画像提供:JR東日本

具体的には、地震発生時に強い減衰力を発揮し、車体の揺れを抑えて脱線しにくくさせる「地震対策ダンパ」や、台車の振動や温度をモニタリングして異常状態を検知する装置などが搭載されているとのこと。だが、「ALFA-X」では他にもさまざまな安全装置を搭載し、実用性を検証していく予定だという。

中でも、ブレーキを補助するための新たな装置「空力抵抗板ユニット」の機構は実にユニークなアイデアといえる。通常、屋根上に格納されている空力抵抗板を、地震発生時には立ち上げることで、空気抵抗を得て制動距離を縮めようという仕組みだ。

「同じ原理のものは先代の『FASTECH360』にも搭載されていたのですが、あちらは抵抗板一枚あたりの面積が大きく、車体に格納するために客室容積が狭くなってしまうというデメリットがありました。今回の『ALFA-X』では、抵抗板をより小さくして数を多く設置し、車内への影響が少なく済むよう配慮します」

パラシュートのように空気をブレーキに使うのだから、当然、速度が速いほど減速効果は高まる。車両が走行するエネルギーを逆手に利用した“ブレーキの補助機構”といえるだろう。
※2018年12月、車両が報道陣に向けて公開されたときに機能を紹介した記事はこちら

緊急ブレーキ時に跳ね上がり、空気抵抗を増して減速に寄与する空力抵抗板ユニット

画像提供:JR東日本

あらゆる手段を検討するのが試験車両の役割

もう一つ、「リニア式減速度増加装置」なる斬新な実験装置にも注目したい。これは“緊急時、台車下部にはり付けた電磁力を発生するコイルを一時的にレールに近づければ、コイルとレールの間のずれたがらない力により減速に役立つのではないか?”という発想から誕生した。

「海外では渦電流式レールブレーキと呼ばれる、似たような機構を採用した高速鉄道がすでにあるのですが、減速力を発揮するために大きな電力を必要とすることと、動作の際に高熱を発するというデメリットがあります。

今回、『ALFA-X』には減速によって得られるエネルギーを電力に換えてコイルを励磁(れいじ)する電流として活用することで、発熱を抑え、かつ消費電力も抑えられるという新構造のものを搭載します。これは従来方式の欠点を克服できる可能性を秘めた画期的な構造で、鉄道総合技術研究所と共同で研究を進めてきました」

レールと車体の間に電磁力を発生し、その力を利用して減速を助けるリニア式減速度増加装置

画像提供:JR東日本

「実際は、どこまでが営業車両に採用されるか正直分からない」というのが浅野氏の見解だ。しかし、「ALFA-X」の役割は、“より多くの手段を検証してデータ化し、実装化の材料を提供する”こと。

技術の引き出しを増やすことで、本来、想定し得ない事態にまで備えようとする心構えが、新幹線という乗り物には求められるわけだ。

このほか、メンテナンス性を高める施策として、架線やレールといった地上設備の状態をモニタリングする装置も搭載される予定。これまで設備の交換や修理サイクルは人間の目や専用の機械で確認したり、使用期間で判断していたが、それらを列車が走行しながら点検できる仕組みだという。

より点検の頻度が高くなり、安全性やメンテナンス性の向上に貢献するのはもちろん、部品の交換頻度を適正化することで、省エネルギー化につながる可能性も秘めた実験といえる。

走行しながら地上設備を点検し、それらをビッグデータとしてメンテナンスに生かすCBM(Condition Based Maintenance/状態基準保全)のイメージ

画像提供:JR東日本

さらに、快適性の向上も「ALFA-X」に課せられた重要なミッションの一つ。車体の揺れを抑える「動揺防止制御装置」「上下制振装置」の搭載はその代表例といえる。

「これまで左右方向の揺れを抑える装置を実用化し、乗り心地が格段によくなったのですが、“かえって上下方向の揺れが気になる”という意見をいただくようになりました。そこで『ALFA-X』では、上下の揺れを抑える仕組みに力を入れて開発していきます。

一つの水準を達成すると、お客様の要求が高まるのは当然のこと。乗り心地には振動の大きさだけでなく周波数なども影響しますので、揺れを人間がどう感じるのかをデータ化する研究も同時に行っていきます」

次世代新幹線では「移動時間をどう演出するか」がカギになる

このようなメカニズムの探求は、今後も間断なく続けていくという。だが、“快適性の向上とは、単に利便性を高め乗り心地をよくすることだけではない”と浅野氏は語る。

「新幹線は常に航空機が比較対象になってきました。速度の向上が今後も重要課題となることは間違いありませんが、単純な移動時間だけを比べると、こちらに勝ち目はありません。ただ、航空機を利用するには空港まで移動し、手荷物検査を受け…といった細切れの時間が発生するのに対し、新幹線は乗ってしまえば移動するだけ、あとは時間を比較的自由に使いやすい、という有利な面もあります。

私たち自身がそうした特性への理解をさらに深めて、お客様に有意義な時間を提供することが新幹線の使命だと思っています」

「時代と共に鉄道に求める快適性の概念が変わってきているのを感じる」と語る浅野氏

移動に要する時間を短くする、乗り心地を改善するといった直接的な要求を満たすだけでなく、利用する側が心地よいと感じられる空間、時間をいかにして演出するか──。

次世代の新幹線に求められる性能は、壮大かつ複雑だ。

間もなくお披露目される「ALFA-X」が、その実現を近づける担い手となることに期待したい。

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