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目指すは世界一の新幹線!JR東日本の“次世代新幹線”試験用車両に秘められた新たな進化論

東日本旅客鉄道株式会社 先端鉄道システム開発センター 所長 浅野浩二【前編】

東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)の次世代新幹線開発に向けた新たな試験用新幹線E956形式、愛称「ALFA-X(アルファエックス)」が間もなく完成、5月に落成予定となる。まさに次世代新幹線の礎を担う存在であるこの試験用車両の誕生は、新幹線にどのような変化をもたらすのだろうか。「ALFA-X」の開発を担当するJR東日本 先端鉄道システム開発センター所長の浅野浩二氏を訪ね、その詳細に迫った。

実用化にとらわれず幅広い研究分野を担う

1982(昭和57)年に開業した東北新幹線から始まった、JR東日本における新幹線の歴史──。

営業開始から約37年が経過し、その間に高速化や乗り心地、安全性なども著しく向上。車輪式の高速鉄道としては世界トップクラスの営業最高速度と安全性を誇っている。このように技術的にはすでに完成の域に達しているようにも思えるが、今回着目した「ALFA-X」にはまだまだ進化の可能性があるようだ。

2018年12月に川崎重工業株式会社 兵庫工場において報道陣に公開された「ALFA-X」1号車両(東京寄り先頭車)

画像提供:JR東日本

そもそも「ALFA-X」とは、2017年、JR東日本が新たに開発に着手することを公表し、2018年10月に外観デザインなどを含めた開発状況を発表した試験用車両。

愛称は「Advanced Labs for Frontline Activity in rail eXperimentation」の略で、直訳すると「最先端の実験を行うための先進的な試験室(車)」ということになる。ことしの5月に落成、10両1編成の全車両がお披露目される予定となっている。

「高速化に向けて開発し続けてきた新幹線の技術を、さらに推し進める研究を行うための車両。それが『ALFA-X』です。高速鉄道車両にはさまざまな課題がありますが、それらを解決するための試験的プラットフォーム、そうした意味合いで名付けました」

そう語るのは「ALFA-X」の開発を行うJR東日本 先端鉄道システム開発センターの所長を務める浅野浩二氏だ。

「ALFA-X」開発の意図から丁寧に説明してくれた浅野氏。入社後、鉄道の安全や乗り心地に関する研究など一貫して研究開発部門に携わってきたエキスパートだ

JR東日本が試験用新幹線を開発するのは、もちろん初めてではない。1992~98年に「STAR21」、2005~09年には「FASTECH(ファステック)360」という試験用車両が登場し、それぞれで培われた技術は新たな新幹線開発に生かされてきた。

であるならば、「ALFA-X」は“次代を担う新幹線開発に向けた車両”と安易に想像してしまうが、そういうものでもないらしい。

「現在、E5系が走る北海道・東北新幹線(北海道新幹線は北海道旅客鉄道<JR北海道>が運行管理)の運行区間を想定した車両であることは確かですが、『ALFA-X』はあくまで試験用車両という位置付けで、営業用車両のプロトタイプモデルである量産先行車とは役割が全く異なります。

さらなる高速化、快適性、価値向上といった目的のために何をすべきか、最終的に採用されるかどうかは別として、幅広く実験できることが特徴です」と浅野氏は強調する。

メタリックのボディに「自然と、都市間における人々の活発な行き交いを表した」爽快感のあるグリーンの帯を合わせた車体カラーリング(画像は10号車/新青森寄り先頭車)

画像提供:JR東日本

さまざまな課題を乗り越え、実現するのが新幹線の使命

「ALFA-X」では「安全性・安定性」「快適性」「環境性能」「メンテナンス性」という4つの分野について、それぞれ研究開発コンセプトが与えられている。これはIoT(モノのインターネット化)やビッグデータ、AI(人工知能)といった最先端技術を取り入れながら、「安全・高速な移動手段の提供に加えて、新たな価値の提供」を実現するための指針になると浅野氏は言う。

「新幹線は、まず第一に速くなければいけません。現在のE5系における営業最高速度は320km/hですが、それをいかにして360km/hに引き上げていくかが課題です。それに今はただ速ければよいという時代ではありません。実現のためには動力性能だけでなく、環境性能や安全性、快適性のさらなる向上などが不可欠なのです。これまでと同様、鉄道総合技術研究所や車両メーカーなどと協力して取り組んでいます」

実際に試験走行では「STAR21」の時代に、すでに425km/hの最高速度を記録。しかし、その後導入されたE4系(1997年12月に営業運転を開始した全車2階建車両、愛称「Max」)の営業速度は240km/hとはるかに低かった事実がある。いかに静かに、環境に優しく、そして安全に走るかが重視されているのかをうかがい知ることができる。

自然環境だけでなく周辺環境への配慮も重要なファクター

鉄道における環境性能には、主に2つの意味がある。

一つは一般的にイメージされる「省エネの推進」。「ALFA-X」では、ある駅から発車して次の停車駅で止まるまでの到達時間が同じでも、できるだけエネルギー消費の少ない運転曲線で速度を自動制御する方法を研究したり、電気機器の半導体材料をより高効率なシリコンカーバイドに換えたりする実験を行うとのこと。

また、車両表面の段差を極力なくすフラッシュサーフェス化を進め、空気抵抗を少なくすることも課題として取り組んでいる。

「より少ないエネルギーで走ることは、環境に優しいだけでなく低コスト化にもつながります」と語る浅野氏

もう一つが「静かに走る」こと。

新幹線はあまりに走行速度が速いため、トンネルへの突入時に大きな圧力波が生じてしまう。これにより車両がトンネルに突入した後に、圧力波が出口側に伝搬(でんぱん)し、発破音と呼ばれる騒音が発生しかねない。そのため、圧力波をいかに抑えるかが近年の新幹線開発における一大テーマとなっている。

「圧力波はトンネル内を車両よりも速く進み、出口でドンという音が出る場合があります。圧力波の大きさはトンネルの断面積といった要因のほかに、車両の先頭形状で決まります。その対策として『ALFA-X』では先頭車両の形状を2種類作り、1号車と10号車で異なる車両形状としているのが特徴です」

1号車(上画像)のフロントノーズ16mに対し、10号車(下画像)では22mとより長いフロントノーズが採用される

画像提供:JR東日本

前後で異なる車両の形を採用するのにはどのような意図があるのだろうか。

「車両のノーズを長くするほど圧力波が抑制されるという特性があります。ただ、実際の新幹線では、先頭車両にも客室部分の容積を確保する必要がありますよね。そこで1号車は現行の営業用車両に近いノーズ長(16m)にして、その中で形状を工夫することにより圧力波をどこまで抑制できるか探ります。

一方の10号車はノーズを限界まで長く(22m)して、圧力波を可能なところまで抑えてみようというチャレンジングな仕様です。これは試験用車両ならではで、座席・定員の確保は二の次といった感じでしょうか(笑)。両極端な構造を試してみることで、実際の営業用車両ではどのあたりが合理的かを検討する材料にするのです」

このような実車両での走行試験に加え、車両と地上設備をモデル化したシミュレーションも行いながら圧力波を抑える仕組みを解明していくとのこと。技術の進化が壮大なチャレンジと地道な努力の積み重ねで実現してきたことを感じさせてくれる。

後編では、「ALFA-X」に課された、新幹線のさらなる安全性向上に向けた技術開発、快適性というニーズへの変化をテーマにお届けする。



<2019年2月1日(金)配信の【後編】に続く>
札幌延伸も視野に入れた試験用車両「ALFA-X」から見える、次世代新幹線のあるべき姿とは?

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