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たとえ1個からでも作る!電子機器を電源につなぐコネクタ製造の仕事

株式会社七星科学研究所 取締役・工場長 小田光一

発電所から家庭や企業へ、毎日供給されている電気。その道のりにはさまざまな施設や人が関わっている。数ある仕事のうちの一つ、電源と機器をつなぐコネクタを製造する仕事人の哲学に迫った。

電気を電子機器につなぐコネクタ製造の世界

街に立ち並ぶ電柱(電力柱)。方々に延びる電線と共に眺めると、あるときは変わらぬ日常への安心感を抱いたり、またあるときはノスタルジックな気分に浸ったりと、種々の感情を抱くことだろう。

もちろん電柱とそれに付属する機器は、電気を各所へと送るために設置されているのだが、実は突発的な停電が起きた際に、停電区域の制御や別区域からの電力供給ができる機能も備えている。配電自動化システムと呼ばれるこの機能に大きく貢献しているのが、コネクタメーカーの七星科学研究所だ。

「電柱に設置されている『子局』という装置に、われわれが作る製品が用いられています。あらゆる電柱に搭載されているので、北海道から沖縄まで、全国各地で当社の製品が頑張っていますよ」

そう教えてくれたのは、埼玉県狭山市にある七星科学研究所(本社は東京都中野区)の生産工場で工場長を務めている小田光一さん。七星科学研究所の主力製品であるコネクタは、一般的に電子回路や光通信などの配線を接続するために用いられる機器で、身近なところでいえばパソコンやスマートフォンの充電ケーブルの先端接続部もその一つである。

「接続するものごとにコネクタがあるといっても過言でありません。従って、一つ一つの機器に合わせて、オーダーメイドのようにコネクタを作っていくことが大切であると同時に、大変でもあるんですよ」

株式会社七星科学研究所の小田光一さん。工場内に植えてある桜の木が、毎年、花を咲かせる姿を楽しみにしているのだとか

コネクタが停電時間短縮の一助となる

話を戻し、再び電柱を見上げてみる。発電所で作られた電気は、送電線を通り各地域にある配電用変電所に送られ、そこから高圧と低圧に分けられた配電線によって生活圏へと届けられている。空中や地中を使って市街地に張り巡らされているのがこの配電線。家庭などには、そこから電柱上部にあるバケツ形の変圧器で電圧が変換され、引込線を通って分配されている。

人間の血管のように走る配電線を、一つ一つ監視し、制御すると多大な労力とコストがかかる。そのため電力会社は、「子局」と「親局」という装置で、電気の流れを遠隔地から管理できるようにしている。各電柱に設置された「子局」は、電線の通電をオン・オフできる自動開閉器の開閉指示や電圧の監視を行っていて、それを配電管理を担う営業所に設置された「親局」装置で監視し、制御。このシステムは、事故や天災などによって停電が発生した場合に、大きな意味を持つ。故障区間を自動検出して電力供給ラインから切り離したり、故障区間以外に別のラインから電気を送ったりと、停電時間を短縮してくれているのだ。

写真中央部にある円柱状のものが子局装置。そこにつなげられているケーブルの接続部がコネクタだ

つまり、その核となるのが「子局」装置であり、その装置の一部が“七星印”のコネクタなのだ。電力の安定供給を担う機構で、自社製品が活躍していることに対し、小田さんはほほ笑む。

「停電が起こると、生活するのに困りますよね? なので、何かの原因で起きてしまったときには、このシステムにしっかり働いてもらわないと。われわれの製品が大いに役立ってくれていると自負しています」

電柱に設置された子局装置につなげられているコネクタ

世界に名高い高圧大電流コネクタ

そもそも七星科学研究所は、1927(昭和2)年に産業製品の研究所として発足した。その後、1943(昭和18)年に株式会社化し、コネクタ製造の国内トップメーカーとして、現在も生産を続けている。

「自社のオリジナル製品の開発や販売も行っていますが、新製品の開発は2年で1つぐらいです。汎用的なコネクタを作るよりも、機器の仕様や性能に合わせた製品を作ることが多く、それだけで年間30~40種ほど。ニーズが圧倒的に高いんです」

普通なら意識してコネクタの形の違いを見比べたことはないだろうが、「機器の仕様や使用場所、用途、通電する電流・電圧によって、その形状は全く違う」と小田さんは言う。

七星科学研究所が手掛けたコネクタは、屋外で使用される防塵性、耐熱性、耐寒性が高いもの、ガス開閉器など気密性の高いものなど、その種類は1万品種以上。生産数で言えば、年間400万個近くを数える。

6.6 kV用の三相高圧ケーブルを一括して着脱できる「NHVCシリーズ」は、世界的にも珍しいタイプのコネクタ

それらは形が違えば大きさもさまざま。FA(ファクトリーオートメーション:工場自動化システム)機器や制御装置といった産業用から、キャンピングカーや消防車用、さらには港湾や採掘現場などの荷物運搬で活躍する長大なベルトコンベアの電源用大型コネクタまでも手掛ける。

巨大ベルトコンベアを動かすほどの高圧大電流に耐え得るコネクタを製造しているのは、七星科学研究所を含めて世界で3社のみ(※同社調べ)。漁港や輸出入を担う港の数だけ必要となることを考えれば、世界中から需要がありそうだ。

「主力はやはり産業機器用コネクタですから、一般の方が目にする機会はあまりないと思います。用いる機器ごとに求められるスペックが違うので、個別の製品を内製できるように、もともとノウハウとして持っていたダイカスト技術(金型に溶融金属を流して固める鋳造方法の一つ)を活用して、自社でも生産しています。近年だと、まずは3Dプリンタで試作品を作ってから提案することも増えましたね。もちろん、新製品は自社で品質や性能のチェックを行えるよう、試験室も備えています」

製品の性能テストなどを行う試験室。高電圧・大電流に耐え得る大型コネクタは一つずつ性能試験を行う

850t鋳造機。工場で使用される製造装置や機器には、もちろん自社製コネクタが使われていることもある

最小ロットは1個から!人の手によるこまやかな対応

小田さんが長を務める狭山工場は、工場と聞いて思い浮かべるような大型組み立てラインがあるわけではなく、ほとんどの製品を人の手で組み立てている。それは七星科学研究所ならではの強みによる影響だ。

「形状も大きさも違う多品種のコネクタに対応しているので、いわゆる大量生産することができないんです。なので、1人、または少数チームで製造工程を完結するセル生産方式を導入して、分業体制を構築しています。とはいえ手作業ですから、それぞれのスキルに合わせて納期を守りながら生産数を上げていくのは、なかなか難しいですね」

電源を必要とする製品が世の中に増えれば増えるだけ多様化するコネクタだけに、この生産現場の在り方は、現状が最善なのかもしれない。「たとえ注文が“1個だけ”でも対応する」というポリシーには感服する。

部品を成形する際に使う金型。自社製造することでコストダウンにつなげている

コネクタとケーブルをつなげるはんだ付け作業は人の手で行う

このように一歩ずつ着実に歩みを進める七星科学研究所だが、五輪開催に沸く現在の景況には、危機感があるという。

「抱えている課題は2020年問題です。需要があることはとてもありがたいですが、その需要に果たして応えられるのかどうか。需要が増えれば、製品の種類が増え、すると生産ラインは新たなことを覚えなければなりません。製造過程の多くを人の手に任せている狭山工場では、生産を担う職人の技術向上が生産量に大きく関係します。この技術向上だけは、どうしても長い時間を要しますからね。ニーズに合わせた受注形態や、受注品目に合わせた人材や作業工程のマッチングを、今後は考えていかなければなりません」

高い要求に対して真摯に応えようと熟慮を重ねているのは、「1個だけでも」に通ずる信念だろう。さまざまな業界で2020年を目標に掲げた青写真が、創造されるか、霧散となるかの瀬戸際。ただ、ムードに流されることなく確度を模索する七星科学研究所は、確実で着実な“ものづくり”を提示してくれるはずだ。

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