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未来シティ予想図

次世代型「道の駅」や建物OSを開発! 清水建設が豊洲で進めるスマートシティのカタチ

システムの逐次アップロードで、多様なニーズの一元対応を目指す

江戸時代から東京で“ものづくり”に力を入れてきた清水建設株式会社が、かつてないほどの大規模プロジェクトを進めている。舞台は湾岸エリア・豊洲。今秋開業予定の道の駅で同地の交通課題にアプローチしながら、街区一帯をサイバー空間でシミュレートする技術をも構築する。目指すのは、蓄積したデータを駆使して生活者や来街者の利便性が次々とアップデートされていくスマートシティの実現だ。大手ゼネコンが先導する未来都市の全貌に迫る。

都市型「道の駅」で豊洲の交通課題を解消

2006年にゆりかもめ(東京臨海新交通臨海線)の有明駅─豊洲駅間が延伸。以降、「アーバンドック ららぽーと豊洲」や超高層マンション、オフィスビルが立て続けに建設され、豊洲エリアは東京におけるグリーン・フィールドとして注目を集めてきた。

一方、急激に生活者やインバウンドが増加したことで、近年は周辺道路の渋滞や公共交通機関の便の悪さが顕在化。五輪・パラ五輪東京大会を見据えた防災対策や、新たな施設の魅力を最大限に活用した地域活性化などに課題を抱えていた。

そんな中、環状2号線に面した江東区豊洲6丁目の一角で、日本を代表するゼネコンの一つ、清水建設が日本初となる都市型道の駅「豊洲MiCHiの駅」を整備中だという。投資額は約600億円。同社単独の開発プロジェクトとしては過去最大規模で、今秋の開業を目指している。

敷地内には大規模賃貸オフィスビルと豊洲エリア最大規模のホテルも建設され、総延べ床面積は約12万m2。ららぽーと豊洲の約16.5万m2と肩を並べるかなりの規模の複合開発。来街者は豊洲市場の最寄り駅でもあるゆりかもめの市場前駅から晴海運河まで、ビル伝いに移動できるようになり、にぎわいの創出に貢献できることは明らかだ。

※臨海エリアの交通網についての記事はこちら
東京臨海エリアに導入される新輸送システムBRTが都市交通変革の先駆けになる!

ホテル棟(左)とオフィス棟(右)の間に東京BRT、空港直結高速バスを含むバスターミナルを配置。その上のオープンスペースと建物内の歩行者デッキで、市場前駅と晴海運河をつなぐ。また、各棟地上部分にそれぞれ100台以上の駐車場を設置予定

画像提供:清水建設

歩行者デッキには来街者を目的地まで案内するスマートフォン対応の音声ナビゲーションシステムや、交通・防災情報を提供するデジタルサイネージを実装する。また、飲食・物販機能として移動型店舗サービスを導入予定

画像提供:清水建設

今回のプロジェクトで注目すべきポイントは、国土交通省が実施するスマートシティモデル事業で「先行モデルプロジェクト」に選定されていること。

「豊洲MiCHiの駅」は交通結節点の役割を果たすだけでなく、施設自体をデータプラットフォーム化することで、あらゆるデータを観光・モビリティ・イート・ヘルスケア・防災などに活用する複数領域横断型サービスの実装を目指すという。

ゼネコンの清水建設が、なぜ都市のデジタル化に取り組むのか? 同社豊洲スマートシティ推進室室長 宮田幹士氏に話を伺った。

「これまで都市や道路インフラの空間をデジタル化させる動きは行政主導で行われてきました。しかし、私たちは街づくりに関わるさまざまなサービスの運営を民間企業も担っていくべきだと思っています。そのためには建物の設計や施工だけでなく、IoTを使ったサービスの提供など、従来の建設会社の枠を超えた仕組みづくりを進める必要があり、データサービス事業にも挑戦しようと考えています。豊洲スマートシティは、その実証フィールドの一つです」

豊洲スマートシティ推進室室長の宮田幹士氏

そのデータサービス事業の中核を担うのが、「豊洲MiCHiの駅」につながるビルに導入する「DX-Core」と呼ばれるシステムだ。これは建物の運用業務をデジタルトランスフォーメーション(DX)するためのコア技術を意味している。

具体的には、建物内にある空調や照明、カメラ、エレベーター、自動ドア、ロボット、デジタルサイネージといった設備やサービスアプリなどを、開発メーカーを問わずに連携させるためのプラットフォームを構築すること。

スマートフォンに例えると分かりやすい。ビルがスマホ本体であり、各種の仕組みがアプリケーションで、iOSやAndroidに相当するのがDX-Coreだ。

「弊社は長年にわたりビルのマネジメントシステムの開発を続けており、ゼネコンの中で唯一、経産省から認証されたシステムインテグレーターの企業であることが強みです。建物OSであるDX-Coreをビルにインストールすることで、ビルの躯体は変わらなくても、必要な仕組みを実装したり変更したりが可能になります。外部のサプライヤーやスタートアップと連携しながらアプリケーションの開発を進めることが今後の課題ですね」

ビルなど建物の基本ソフトウェア(OS)となる「DX-Core」の概念

画像提供:清水建設

豊洲には住宅や大学、オフィスが立ち並び、なおかつ豊洲市場も開場したことで、さまざまな用途が混在している。早朝から夜遅くまで人々が行き交い、今後もどんどん開発されていく。その中で、多様なニーズを一元的に対応するために、DX-Coreといった建物OSの果たす役割は大きい。 

「例えば事前登録を済ませた自動車がエントランスに到着すれば、ナンバープレートをカメラで読み取って訪問先に来訪を伝えることができます。将来的には案内ロボットが施設内を動き回り、部屋に入る際には扉とも連携してドアが自動的に開閉します。本来、異なる設備同士を連携して制御しようとすると、対象となる設備ごとに接続インターフェースを開発しなければなりません。DX-Coreは登録した設備をシンプルな操作だけで接続できるようにします」

EV(電気自動車)のテスラに代表される自動運転機能を持つ車は、地図データなどのソフトウエアを更新することで、購入後も新たな機能が追加されていく。

清水建設が目指しているのは“テスラのような街を作ること”だ。

「システムをアップデートしていけば、昨日まではできなかったことが、今日明日には次々とできるようになっていくかもしれません。今後、清水建設は鉄とコンクリートで建物を造るだけではなく、DX-Coreを通してデジタルで街づくりを手がける『デジタルゼネコン』に進化していきたいと考えています」

「日本で一番新しい街」を目指す

新型コロナウイルス感染症のパンデミックを機に、世界中で建物や空間の快適性を見直す気運が高まっている。また、人のニーズやデジタルの技術は刻々と移り変わっていくため、これからのスマートシティにはいち早く課題を発見して対応していくことが求められる。

そこで注目されている概念が、現実の世界をバーチャルな世界に再現する“デジタルツイン”だ。これは、人や車などの物理的な移動を仮想空間で再現しながらリアルタイムでシミュレーションするもので、問題の早期発見と対策が期待できる。豊洲スマートシティにおいても、清水建設はデジタルツインの実現を目指しているという。

「弊社はビルの物理的な快適さを左右する換気や空調設備のノウハウ、ビルの設計に用いるBIM(Building Information Modeling/建物のライフサイクルにおいてそのデータを構築管理するための工程)データを豊富に持っています。これに、ビルからリアルタイムに収集するセンサーデータなどを組み合わせることで、現実世界をデジタルに把握し、AI(人工知能)分析により問題に先手を打てるようになると考えています。

今回はデジタルの上に豊洲の街を再現して、街中のセンサーやカメラで集めたデータをサイバー空間に落とし込みます。例えば、時間帯によって駅からどれくらい人が流れてくるのか、混雑時に災害が起きた際の避難方法などのシミュレーションをデジタル上で行える。そうやって試行錯誤しながら実際の計画に反映していきたいと考えています」

デジタルツインの概念図。3Dソフトウエア大手のオートデスクとの協業でシミュレーションを行い、人やモノの流れを踏まえた交通や防災の最適化を図る

画像提供:清水建設

都市のデジタルツインは、周辺のビルが連携してデータを扱うことで実現する。そこは今後、DX-Coreのポテンシャルが試される領域だ。

「ビルが完成していないのでまだまだこれからのプロジェクトではありますが、あるゆるデータを取れるような環境は整いつつあります。たくさんの企業と一緒にデータの活用方法を模索しながら、新しいことを試す実証の舞台にしていきたいですね」

「人や車の流れに関するデータを将来的にはオンデマンド型の新交通サービスの実装に役立てたい」と話す

清水建設にとって、今回のプロジェクトは豊洲スマートシティの「推進拠点」という位置付けになる。

「やはり豊洲は都心で唯一のグリーン・フィールドであり、イノベーションが起きやすい土壌が整っている街だと思います。どんどん先進的なことにトライして、『日本で一番新しい街』だと感じていただけるようなスマートシティを作っていきたいですね」

DX-Coreやデジタルツインをどのように活用するのか。

ゼネコン流の街づくりに期待しながら、その動向を見守りたい。

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