2017.7.10
グリーン&フロート技術による海上都市で“地球環境”時代に新たな豊かさを!
清水建設による“植物質”な未来都市構想。環境アイランド『グリーンフロート』
子供たちの朗らかな歌声にのせて映し出される海に浮かぶ緑豊かな未来都市──。清水建設がプライムタイムに放映する、そんなTVCMをご記憶の方も多いのではないだろうか。今回は海上都市「グリーンフロート」を取り上げるべく、本連載初回に続き清水建設海洋未来都市プロジェクトチームを訪ねた。
INDEX
小さな新聞記事をきっかけに得た世界からの注目
清水建設が新しい技術へのチャレンジや将来に向けた提言を行っている未来構想<シミズ・ドリーム>。
本連載の初回に紹介した2014年発表の深海未来都市構想「オーシャンスパイラル」に先駆け、2008年に発表された<シミズ・ドリーム>プロジェクトが、今回紹介する未来の海上都市『グリーンフロート』だ。
中央に高さ1000mのタワーがそびえる直径3000mの人工島──その大胆な構想は、2030年という遠くない将来に実現を目指すと発表された。
専任チームのプロジェクトリーダー・竹内真幸さんによると、「オーシャンスパイラル」よりもまず、こちらの構想がきっかけとなって<シミズ・ドリーム>が注目を集めるようになったという。
「このプロジェクトは2008年秋の発表当時、サブプライムローンがはじけた真っただ中ということもあり新聞記事に小さくしか載らなかった。しかし、その記事をきっかけにつながった縁で、地球環境への発信力が強いキリバス共和国のアノテ・トン大統領(当時)が気に入ってくださり、各国を回られる際に『グリーンフロート』のPRをしてくださったんです」
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『グリーンフロート』の模型を前に、プロジェクトリーダー・竹内真幸さん(右)とサブリーダー・吉田郁夫さん(左)。東京・京橋の清水建設本社にて
人口は10万人程度だが、赤道付近350万km2の範囲の環礁からなり、アメリカを除けば太平洋で圧倒的に大きな海域を有するキリバス共和国。一方で、地球温暖化の影響から国土全体が水没する危機にもひんしており、常に地球環境への強いメッセージを発信していることでも知られている。
そのキリバス共和国から、現実的な選択肢の一つとして関心が寄せられたことがきっかけとなったのか、『グリーンフロート』は各国のインターネットサイトでも注目を集め、清水建設のサーバーがパンクするほどアクセスが集中したこともあったという。
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複数の『グリーンフロート』が連結されているイメージ。メインの居住区となるタワーの上部は、大地への日照を最大限にするため逆円すい形となっている。フロート部分は直径3000m、タワーは高さ1000mで頂上部分の直径は1000m
地球環境は、地表の70%を占める海の影響に支配されている!
“沈みゆく国”キリバスの大統領を本気にさせた『グリーンフロート』は、赤道直下の太平洋上での建設が提案されている。
「今はもうちょっと立地のバリエーションを考えていますが、最初はハリケーンや台風が来ないメリットから赤道直下を想定したんです。そのエリアは海ばかりなので、そこに土地を造ろうとするとフロートという選択肢がいいだろうと、構想がまとまっていきました」
もう一つ。海上都市にこだわった理由がある。
1992年にブラジル・リオ デ ジャネイロで初開催された国際会議・地球サミットから、「地球環境」や「サステナブル」という概念が一般化されようとしていた。『グリーンフロート』は、地球の表面積の70%を占める海の活用による、地球環境時代の新しい豊かさを提案する。
「一つの都市であれば、ヒートアイランドのような局部的なこともありますが、地球全体では良い面も悪い面も、海の影響が支配しているわけです。地球全体で考えるのであれば、“海を考えないんですか?”と、そこから始まったんです」
そうやって、竹内さんをはじめとするプロジェクトチームが導き出した「新しい豊かさ」が、“植物質な都市”という提案だった。
陸上の都市は、自然界に比べるとエネルギーの循環が圧倒的に速く、資源も有限だ。このような社会では採算効率が圧倒的に重視され、化石エネルギーに基づく高効率な経済活動による環境影響も大きい。
一方で、海をはじめとする自然界ではもっとゆっくり資源エネルギーが循環している。効率は全体としては良くないが、総量としての資源はものすごく多い。
「そこに都市を出すということは、量は比較的あるけれどゆっくりとした循環に合わせていく。その代わり、資源量、面積、容量はものすごく大きいので際限なくエネルギーを生み出せ、環境影響度も小さくできる」
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タワー部の居住ゾーンイメージ。高さ700m以上の外周部より30mの範囲に約30フロアで構成。赤道直下であっても、この高度であれば気温は一年中26~28℃に保たれ、コンパクトなことも相まって都市構造そのものが省エネに貢献する
都市や建築のあり方を自然界の循環にならって作り変える
そもそも“植物質な都市”とは何か?
具体的には自然の循環に学んだシステムによりCO2排出量ゼロを超えた、カーボンマイナスの都市を掲げる。
『グリーンフロート』の1000mに及ぶ象徴的なタワー部分、ここは大部分が植物工場だ。カロリーベースでの自給率100%を目指した植物工場となる。人が暮らすのは高さ700m以上の部分のみで、約1万戸(3万人)。また直径3000mの水辺部分も、外周部に約3000戸(1万人)の居住地を用意する以外は、大部分が農業や漁業に活用される。
「農業だけをやるんであれば平らなものでもいい。また、浮体全部がびっちり都市でもいいんですが、自給自足にこだわり、都市と環境の在り方を考え、自立する“植物質な都市”にということで計画しています」
東京や多くの都市は、水も食料も自立していない。
日本人は一日にカロリーベースで一人あたり2000kcalほどを消費するが、この食料は『グリーンフロート』の農園や植物工場、牧場、海で生産することで自給自足する。主に野菜を生産する植物工場は、太陽を思いっきり利用するオランダ型の植物工場を垂直に積み上げる。
“農・住”近接によるライフスタイルは、物流過程でのCO2の排出も削減することができる。
また、人間が排出する生ゴミやCO2は、施設内のリサイクルプラントを経てこの植物工場などで再び養分として利用される。
「うまく循環させてやれば、人間が出すCO2やゴミが栄養になって返ってくる都市ができる。海に出すことで、陸上の都市の延長で広げるのではなく、都市や建築の在り方を自然界の大容量エネルギーの大きな循環に対応したものに変えていけるのではないでしょうか」
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タワーの大部分を占める居住スペース以下の空間は植物工場。フロートする人工島部分も大部分は農園や牧場、またマングローブなどの森となり、食料の自給自足、排出されるCO2やゴミの再利用、再生エネルギーなど自然にならった循環システムを構築する
めどが立った建築技術と可能性が見えたグリーン技術
実現にあたっての課題は、フロートという建築技術と、グリーンという環境技術の融合。
まず、建築技術についてはめどが見えているという。
「現実的にビジョン、コンセプトは変わっていないんですが、スケールを10分の1、直径200mで高さが120mくらいにして地道に検証をしています。浮体は、波に対しては大きい方が安定するのですが、テスト環境で確認したところ10分の1スケールでも問題ありませんでした。まずは手近な湾岸に防災や物流拠点、またはリゾートとして浮かべようと実現化の検討をしています」
造船会社の実験水槽を借り、地震や津波に対する安全性は既にテスト済み。浮いていると地震力が入ってこないため、仮に1000mの高さであっても安全性に問題はないことが分かった。10m想定の津波も、水面から2mの堤防で水は越えてこなかった。
浮体の建設は、沿岸部のドック内でユニットを組み立て、洋上に運んでつなぐ。あとは主にコスト面の問題から、洋上で建設するタワーについて極力人手を介さない自動化技術やロボット技術の検証を進めている。
グリーン技術については、まだ研究段階の技術が多いが可能性は見えている。
「電気は、JAXAさんが2030年に宇宙太陽光発電パネルを実証実験で打ち上げを行われます。発電された電気はレーザー波かマイクロ波で伝送しますが、受電側は直径2000mくらいの面積が必要なんです。これは海に浮かべる方が土地の確保や安全面で都合がいい。この技術そのものは私どもの技術ではないのですが、実現すれば電源も使い切れないほど確保できます。宇宙太陽光発電は100万kW程度ありますが、5~10万人規模の都市なので1割も使わないくらいです」
プロジェクトについての外部とのコミュニケーションを担うサブリーダーの吉田さんは、小・中学校や高校、大学での授業・講演を受け持つことが多いという。そんな学びの現場では、環境意識のネガティブな作用を感じてきたという。
「現状から少しでも開発をしたら全部地球に悪い…何もやっちゃいけないと思っている子供が結構多いんですよね。このプロジェクトのような、良い意味で積極的に環境にアプローチしていく、環境を自分で変えていくという提案が、子供たちの思考の転換につながってくれたらと思います」
最終的にこの都市を造る人、ここに暮らす人は、そんな子供たちの中から出てくるのだ。
現代のガウディプロジェクトとも言える海上未来都市は、実現に向けて一歩ずつ着々とこぎ進められている。
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海岸から30mの範囲には、低層のタウンハウスと共にビーチリゾートも併設されるなど、日常の中に大自然が広がる。これまでの経済的な豊かさとは異なる、新しい豊かさを感じられる都市の在り方を提案する
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text:三木 匡(questroom inc.) 画像提供:清水建設
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