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東京臨海エリアに導入される新輸送システムBRTが都市交通変革の先駆けになる!

BRT(バス高速輸送システム)がもたらす交通利便とは?

東京23区内であれば、どこにいても交通利便に困ることはないと思いがちだ。しかし、例えば臨海エリアの晴海や勝どきなどは地下鉄網の整備が進んでいないという現状があるのをご存じだろうか。さらにこのエリアは、今後大掛かりな住宅整備がなされることから、生活利便のさらなる向上が求められている。そこで東京都が進めているのが、都心部への交通利便性向上施策「BRT」(Bus Rapid Transit:バス・ラピッド・トランジット)の導入だ。

臨海エリアの利便性を高めるために

2020年の五輪東京大会開催まで2年を切り、さまざまな準備が本格化している。特に東京の臨海エリアでは、いくつかの競技会場や選手村などに加え、環状第2号線の整備や沿道地域の住宅開発などがこれから着々と進んでいく。

こうした臨海エリアの開発に伴い、増加する交通需要に対応するために導入されるのがBRTだ。

「もちろん五輪はきっかけの一つではありますが、そもそもは住宅などの開発や豊洲市場の開場などによって増加するであろう臨海エリアの交通事情改善が大きなテーマでした。特に晴海や勝どきエリアは鉄道もなく(エリア北側に都営大江戸線の勝どき駅があるのみ)、少なくとも中規模以上の交通機関が必要であるという認識を持っていたんです」

そう語るのは、東京都都市整備局で都市基盤部交通プロジェクト担当課長を務める堀川誠司さんだ。

東京都の都市整備局でBRTと舟運(水上バスなど)を担当する堀川さんは「さまざまな交通機関の乗り換え利便性などについて検討することも私が担当しています。総合的に交通計画を整理することで、都民にとっての交通利便性を高めていきたいですね」と語る

「そこでどんな交通機関がベターかということを検討した結果、導き出された答えがBRTでした」

BRTというシステムは海外の事例を見るまでもなく、すでに国内でも導入済みだ。例えば、宮城・岩手県の気仙沼線や大船渡線では東日本大震災によって使用できなくなった鉄道敷(てつどうしき)にバスを走らせることで、周辺住民に速やかに、そして安定的な交通インフラを提供している。
※宇都宮で計画されている国内初の全線新設による次世代型路面電車「LRT」(Light Rail Transit:ライト・レイル・トランジット)に関する記事はこちら

「事前の予想としても、BRTが有力であろうと想定していました。最大の特徴にしてメリットは、“特定の線路がなく、柔軟に導入できる”ということ。コスト面からいっても優れ、速やかに導入できるだろうと考えられていました」

東京都が具体的に検討を開始したのは2014年からだという。そこから運行事業者を募集し、選定された京成バスと共に運行ルートなどを策定していった。

「2018年に一般公募を行い、新たな都市交通システムを『東京BRT』と命名しました。今後、都民をはじめ利用者の皆さんに愛される交通機関とするためにしっかりと準備していこうと思っています」

その具体的な施策の一つが、当初は計画になかったという3段階に分けた運行計画だ。

3段階で進む東京BRT運行計画の実情とは?

臨海エリアと都心部を結ぶ東京BRTは今後、五輪の大会前・期間中の「プレ運行(一次)」、大会後の「プレ運行(二次)」、そして環状第2号線本線トンネル開通後となる「本格運行」と3段階で運行状況を変更させていく予定だという。

「当初の計画ではプレ運行は考えていませんでした。もともと環状第2号線ができれば走行空間がかなり整備されるので、これによって東京BRTの運行もスムーズに行われるだろうと考えていたのです」

環状第2号線とは、2003年に事業化された都市計画道路のこと。江東区有明から豊洲~晴海~勝どき~築地~新橋~虎ノ門~溜池~赤坂見附~四谷~市ケ谷~飯田橋~水道橋を通り、神田までをつなぐ環状線だ。

このうち勝どき~築地間は築地市場の跡地を利用し、2020年に完成する計画となっていたが、豊洲市場への移行スケジュール変更の影響を大きく受けることとなる。

「結果、環状第2号線の完成予定が2022年度に変更になったわけですが、完成までの段階でも交通需要の変化になんとか対応できないかということで、プレ運行が計画されることになったのです」

東京BRTの運行計画。プレ運行(一次)は京成バスが、プレ運行(二次)は京成バスとBRTのために新設された新会社が、そして本格運行になると新会社のみで運営される予定

2020年度に迫ったプレ運行だが、五輪期間中ももちろん乗車できる。

「東京BRTは大会関係者のために走らせるわけではなく、公共の交通機関ですから、もちろん一般の方にご利用いただきます」

ただ、大会期間中の関係機関を調整中のため、具体的な運行内容については改めて発表予定だという。

※新橋駅~勝どき間の運行便数及び輸送人数(片道)は運行開始時の便数で、交通状況や需要などを考慮しながら適切な運行頻度・便数を検討予定。さらに一部系統では途中停留施設を通過する急行便の運行を検討

プレ運行(一次&二次)と本格運行時の運用体制の違い。もちろん、あくまで予定であり、実際の需要などを考慮しながら詳細を決定していくという

気になる運賃については、プレ運行時は都バスと同程度になるという。しかし、本格運行後は独自の料金体系になるそう。堀川さんは「速度と機能が上がる分、運賃も高くなる可能性があります」と説明する。

そうなると利用者として気になるのは、列車の各駅停車と特急程度に運行時間に差が出るのかということだ。

「東京BRTは、新しい道路を活用することで走行空間も2~3車線と十分な広さがあります。さらに現状でも、複数車線がある道路は一番左の車線をバス専用レーンとして運用している区間がありますが、信号制御を調整するなどを進めることで、さらに東京BRTを優先的に運行することも可能だと考えています」

宮城県気仙沼線のBRTは、鉄道敷を走らせることで一般車両などが混入することがない専用路線を確保している。しかし東京BRTの場合、実際のところは一般車両と同じ車線で走行する可能性は高い。

そこで「その他の点と合わせてユーザーの利便性について配慮しています」と語る堀川さんに、東京BRTの特徴をまとめてもらった。

■乗車料金の支払い
交通系ICカードもしくはバス停留所で乗車前に精算することで乗降をスムーズに行う。また、これによって全てのドアから乗り降りを可能とし、停車時間を短縮する

■停留所を少なくする
在来の路線バス(都バスなど)に比べて停留所を少なく、間隔を大きくすることで所要時間の短縮を目指す

■輸送力の向上
連節バスの導入により、乗車定員を増加させて輸送力を向上させる

また、バスの外観をはじめ、運転手の制服やバス停留所まで統一性のあるデザインにすることで、他のバスとの差別化も図っていくという。

ことし1月に発表された東京BRTのデザイン。車両、停留所はもちろん、制服、公式HPなども鮮やかなレインボーカラーで表現される

「停留所ではデジタルサイネージを有効活用し、他言語対応も行います。五輪の東京大会はもちろん、将来的なことも踏まえて、海外からのお客さまにも分かりやすい交通サービスにしたいですからね」

燃料電池バス導入の先にあるものは?

東京BRTには2種類の車両が投入される。一つは連節バス。もう一つは燃料電池バスだ。

「連節バスは、先ほど申し上げたように輸送力の向上を目指したものです。東京BRTを運用する事業者の京成バスは、すでに千葉県内で連節バスを走行させているので、運転手の育成などのノウハウが生かせると考えています」

京成バスが走行させている連節バスのイメージ

(C)風見鶏 / PIXTA(ピクスタ)

燃料電池バスの運用については、事業者選定時の条件に含まれていたそうだ。

「東京都としては“水素社会の早期実現”を目指しています。すでに都バスでも燃料電池バスを採用しており、2020年までに都内で100両以上を導入する予定です。東京BRTも、当然その流れの中にありますね」

さらに東京都ではBRTの将来を見据えたとき、燃料電池車以上に未来志向の交通システムとなることも念頭に置いているという。

それが、科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」における次世代交通ワーキングとして、公共交通の自動走行技術の開発などを進めていくことだ。

国が進める公共交通における「安全・安心」のための自動運転など、技術開発(ART)のイメージ

「自動運転をはじめ先端技術については、今はまだ検討しているところです。

ただ、東京BRTには『安全性などが確認されれば積極的に導入していこう』というのがわれわれの基本的なスタンスになります。自動運転についても、実用化することで例えば加減速がスムーズになったり、安全性確保のためのクルマ側の機能が進化していけば、それはどんどん取り入れていきたいと思います。

その結果、都民の都市交通の利便性をどんどん高めていきたいですね」

自動運転やカーシェアリング、コネクテッドカー、電気自動車など、モビリティが大きな曲がり角に来ているといわれる昨今。公共交通もまた、新たな局面に立っているといえる。

東京BRTが、世界屈指の大都会で、これからどのような進化を果たしていくのか──。

そこに未来の都市交通の姿が浮かび上がってくるかもしれない。



次回は、自動運転に関する実証実験やプロジェクトの現状、モビリティの目指す未来について探っていきたい。

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