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未来シティ予想図

第一生命が挑む“地域住民のQOL向上”を目指したまちづくり

世田谷の福利厚生施設を利用した「SETAGAYA Qs-GARDEN」を計画中

東京都世田谷区にある敷地面積約9haの広大な森を舞台に、本格的なまちづくりが進められている。「SETAGAYA Qs-GARDEN」と名付けられたプロジェクトをけん引するのは、2022年で創業120周年を迎えた第一生命保険株式会社だ。契約者のQOL(Quality of Life=生活の質)向上を目指し、生命保険の枠にとらわれない取り組みを続けてきた同社の“らしさ”が詰め込まれた計画の全貌に迫る。

「地域住民のQOL向上」を考え抜いたまちづくり

まちづくりが行われているのは、東京都世田谷区給田(きゅうでん)にある「第一生命グラウンド」。

1954年に第一生命が取得して以来、従業員向けの福利厚生施設として活用されてきた。そのグラウンドの稼働率が低下していたため、社有不動産を有効活用するべく2016年に始まったのが「SETAGAYA Qs-GARDEN」だ。プロジェクトを主導してきた同社不動産部ファシリティマネジメント課の堀 雅木氏に背景を振り返ってもらった。

「東京ドーム2個分ほどの敷地全体についてさまざまな再調査を繰り返しながら活用手段を探ってきました。半世紀以上も豊かな自然が守られてきた場所なのですが、短期的な収益を優先するのであれば、木々を大量に伐採してたくさんのマンションを立てるのが常とう手段です。ただ、そういった地球環境に高負荷を与える開発が正しいのか?それを第一生命としてやるべきなのか?と自問自答し、関係者の方々も含めて慎重に話し合いを重ねてきました」

同社が保有する資産の価値を高めるためのプランニングを担ってきた堀氏

そもそも同地は第一種低層住居専用地域に該当するため、投資効率の高い商業用途や大型施設は建築できなかった。事業性を担保することが難しかっただけでなく、行政による計画道路が敷地内に多く入り込んでおり、境界も未確定。計画の過程で紆余(うよ)曲折あったが、2019年の秋ごろに構想がまとまった。

「長きにわたって同地を保有し続けてきた意味を問い直し、第一生命らしいやり方で不動産を最大限に生かし切るためのプランを描きたいと考えました。そこで、敷地内の道路や建物の配置を工夫して、既存の樹木を極力残し、多くの世代が豊かに居住し、交流し続けるまちづくりを計画しました」

「SETAGAYA Qs-GARDEN」の概念図。南側に学生寮やファミリー向け分譲マンション、高齢者向け住宅を各区画にバランスよく配置。意図的に多世代が集う仕組みが採用されている。丸紅都市開発株式会社、相互住宅株式会社、NTT都市開発株式会社、野村不動産株式会社を事業パートナーとして開発が進行中だ

まちづくりのコンセプトは「地域住民のQOL向上」。

施設計画だけでなく、健康増進や高齢者支援、地域活性化、子育て・教育、安全・防災、環境配慮などを通じた地域住民のQOL向上策も盛り込まれている。

「全ての人々のwell-being(幸せ)は、持続可能な社会があってこそ実現するもの。弊社にはそんな考え方が根付いているため、第一生命グラウンドというリアルアセットを生かして地域に提供できる価値を考え抜きました」

運動施設をアップデートして地域住民の健康促進を

「地域住民のQOL向上」を実現する機能として注目を集めているのが、敷地内にあったテニスコートをレッドクレー化(石灰石でできた層の上にレンガを砕いた土がまかれたコート)したこと。

世界4大大会の一つである全仏オープンの会場と同じ仕様であり、屋外コートとしては国内初の事例。第一生命は公益財団法人 日本テニス協会と連携することで、次世代テニス選手の強化をはじめ、テニスの普及と地域住民の健康促進に向けた取り組みを進めていく。

大会の会場として利用されるだけでなく、一般向けのテニススクールやイベント、クリニックなどを開催予定

「世田谷区には周辺地域でスポーツ施設が不足しているという課題がありました。そこで、元々弊社の福利厚生施設だったテニスコートをレッドクレーコートに改良することで希少価値を高め、地域住民の方々がスポーツに触れるきっかけを作りたいと考えています。レベルの高いジュニアやプロのプレーヤーが練習している風景を見るだけでも刺激になると思いますし、たくさんの方の健康増進やwell-beingに貢献できるはずです」

テニスコートだけでなく、敷地内の野球場を人工芝化して日中は地域住民へ開放する。2022年1月から利用を開始しており、常に予約でいっぱいの状況だという。

また、夜間は近隣の日本女子体育大学が部活動で利用する二毛作運営にすることで当初の課題だった稼働率を高めようとしている。安定収益の獲得と地域課題解決が同時達成できるというわけだ。

SETAGAYA Qs-GARDEN 内の野球場「J&S フィールド」

「敷地内にはランニングコースやウォーキングコースを計画しているのですが、それも女子陸上競技部(2022年11月27日に行われた第42回全日本実業団対抗女子駅伝『クイーンズ駅伝』では8位に入賞)がある“第一生命らしさ”の一環なのかなと思います。将来的には、スマートデバイスを活用して健康増進に役立つ機能を拡張させることも見据えていますが、今はその土台を作っている段階ですね。また、スポーツだけでなく、心の健康にも着目して敷地内で文化的な交流が持てるようなアイデアを実装していくことも検討中です」

「地球のしあわせ」に配慮した最先端の設備も

「QOL向上」や「well-being」をキーワードに利用者や地域の“しあわせ”を具現化する機能を盛り込んでいるだけでなく、「地球のしあわせ」に配慮していることもこのプロジェクトの特徴だ。

その象徴として敷地内に設置されるのが、第一生命がESG投資している株式会社チャレナジーと共同開発した風力発電機だ。

「チャレナジーさんは強風や風向きの変化に弱い従来のプロペラ式風力発電機の弱点を克服したマグナス風車を手掛けていますが、今回は都市の微風でも継続的に発電が可能なサボニウス(垂直軸)型という新たなモデルを設置します。その風力発電機で蓄電をして、災害時の補助電源として地域に開放していく予定です。また、女子陸上競技部が使う施設の屋根にはソーラーパネルを設置しており、運営に必要な電力を十分に賄える仕様になっています」
※チャレナジーが挑んでいる台風発電に関する記事:“台風発電”が次なるステージへ! 世界も注目するチャレナジーの挑戦

小型風力発電機の開発に向けて、チャレナジーと共に2021年から第一生命グラウンドで風況調査を続けてきた

そもそも、自然を極力残し、環境に低負荷な開発を計画することが「SETAGAYA Qs-GARDEN」の基本スタンス。行政との話し合いにおいてもその軸を貫いた。

「当初、行政側は直線的な道路を想定していたのですが、われわれは既存樹木をできるだけ残し、既存建物の取り壊しも避けたかったため、合意形成には時間がかかりました。それでも、『地域住民のQOLを高めるまちづくり』というコンセプトに普遍的な価値があったからこそ、関係者の方々の理解と協力を得てプロジェクトを推し進めることができたのではないかと思っています」

「『SETAGAYA Qs-GARDEN』で得られた知見やつながりを他のプロジェクトにも生かしていきたい」と堀氏

「SETAGAYA Qs-GARDEN」の“Q”は所在地の“給田”にインスパイアされているが、「一人一人が楽しみや喜びを探求(Quest)していける」「さまざまな驚きや発見のきっかけ(Question)が生まれる」など、幾つもの思いが込められている。

「QOLやwell-beingという言葉は、一人一人捉え方が異なりますし、絶対的な正解があるわけではありません。ですから、このまちを通じて皆さんが自分なりの幸せを感じたり、考えるきっかけになってほしいと思っています。われわれも、『ハードを作って終わり』ではなく、まちびらきがされてからも関係者の方々とコミュニケートしながら理想のまちづくりを探求していきたいですね」

創業から120年間、人とのつながりを大切にしてきた第一生命だからこそ実現できる「しあわせ」なまちづくりに注目したい。

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