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“台風発電”が次なるステージへ! 世界も注目するチャレナジーの挑戦

株式会社チャレナジー 代表取締役CEO 清水敦史【前編】

台風が持つ莫大(ばくだい)なエネルギーを電力に変える──。そんな無謀とも思えるプロジェクトに世界で初めて挑戦しているのが「株式会社チャレナジー」だ。当コーナーにおいて、同社代表取締役CEO 清水敦史氏に垂直軸型マグナス式風力発電機(以下、マグナス風車)開発の経緯や将来のビジョンについて話を聞いたのは2017年9月のこと。あれから約2年半がたち、追い求める理想はどこまで実現に近づいたのだろうか。清水氏を再訪し、台風発電の現在を尋ねた。

羽根がないのに回転する不思議な風車

毎年、甚大な被害をもたらす台風──。

近年は気候変動の影響で大型化する傾向にあり、特に勢力が大きかった昨年の台風15号(令和元年房総半島台風)、台風19号(令和元年東日本台風)などは、今なお各地に爪痕が残っている。

そんな台風が有する巨大なエネルギーの一部を、発電に役立てることができないだろうか? と株式会社チャレナジー 代表取締役CEO 清水敦史氏は発想。大手電機メーカーのエンジニアとして働きながら独力で「マグナス風車」の開発を目指した。

「振り返ってみると、着想から既に9年たっているんですよね。会社を設立してからでも早5年半。設立当初は1kW機の試作機すら完成していませんでした。その当時は想像もできなかったことが、今、現実に起きています」と、これまでの日々を振り返る。

マグナス風車のアイデアを実現するため、脱サラしてチャレナジーを立ち上げた清水氏

ここで改めて、清水氏が開発した「マグナス風車」開発の経緯を簡単に振り返っておこう。
※台風発電の実現に取り組む清水氏の過去の記事はこちら

意外な事実だが、私たちがよく知る「プロペラ式風車」は、強い風が吹くと全く役に立たない。なぜなら、プロペラの回転数が上がり過ぎると、ブレード(羽根)が破損したり、最悪の場合は風車ごと倒壊してしまうリスクがあるからだ。

そのため、強風時はブレードの角度を変えて風を受け流したり、プロペラの回転を止めるなどして危険を回避している。これではせっかくの風力を十分に生かすことができない。

そこで清水氏はマグナス効果に目を付けた。

マグナス効果とは、回転する物体が風を受けると、風向きに対して垂直の力が働く流体力学的現象のこと。身近なところでは、ボールを投げるときに回転をかけると、カーブやシュート回転して軌道が曲がることはよく知られているが、あの現象こそマグナス効果によるものである。

円筒や球を回転させると、受ける風の向きに垂直なエネルギーが発生する。これがマグナス効果と呼ばれているものだ

画像提供:株式会社チャレナジー

私たちにはあまりなじみがないが、かつて実際にマグナス効果を利用して航行する船が建造されたり、翼の代わりに円筒の付いた実験用飛行機が造られたりしたこともあった。

回転する円筒を風に直面させると、そこにはエネルギーが発生する。また、円筒型の形状は突風や風向きの変化にも強く、起伏に富んでいるために風向きが安定しない日本の地形、環境にも適していると言える。

「エネルギーがあるなら、発電にも使えるはずだ。いや使わなければもったいない!」というのが清水氏の発想の原点だ。

しかし、いざこのエネルギーを発電に利用しようと思っても、一筋縄ではいかなかった。その過程については前回のインタビューで詳しく話を伺ったが、紆余曲折を経てたどり着いたのが、3つの円筒を垂直に立て、それぞれの円筒に整流板を付けるという独自の構造だった。

何度もトライ&エラーを重ねながら、世界中のどこにもないマグナス風車を開発した

市場拡大の鍵を握る大出力化へのチャレンジ

膨大な数のシミュレーションと風洞の試験などを経て1kW機が完成し、沖縄県南城市で試験機が稼働開始したのが2016年。しかし、1kW機はあくまで実証試験用であり、実用性については考えられていない。製品化にはより大型のマグナス風車が不可欠だった。

「風力発電では、1基あたりの出力を上げることが発電コストを下げる最も効果的な方法です。そのため、私たちも常に大型化にチャレンジしてきました」

前回のインタビュー時には、まだ10kW試験機は開発中の段階だった。その後、無事に完成し、2018年には沖縄県石垣市で実証試験がスタート。実証試験の地に沖縄県石垣市を選んだのは、台風リスクが高い場所で試験すべき、と考えたからだ。

石垣島と周辺の離島は主な電力のエネルギー源を化石燃料に頼っており、地理的条件などから再生可能エネルギーの導入があまり進んでいないという事情も、実際に風力発電が必要とされる地域の条件に近かった。実証試験にあたっては、チャレナジーを支援している株式会社ユーグレナの研究施設が石垣市にあり、幸運にもその一部を借りることができたという。

沖縄県石垣市に建てられた10kW試験機

さて、2020年内の量産を目標として実証データを得るために開発された、この10kW試験機。発電能力10kWはプロペラ式風車で言うと小~中規模の直径5mクラスに相当するが、荒天時にも発電できるため、稼働時間をより長く取れるのが特徴だ。地域密着型の再生可能エネルギー源としては十分に実用的と言えるだろう。

「大型化すると重量もそれだけ重くなり、風車本体部分だけでなく、基礎やタワーの設計も頑丈にしなくてはなりません。何せ、相手は“台風”なので、安全性や強度が肝心です。発電機としての寿命を全うできるよう、20年は稼働し続けることのできる構造を考えています。それに、修理や整備も1kW機なら手軽にできましたが、10kW機ではちょっとした作業を行うにもクレーンが必要になります。今回の実証試験を通して、量産化で必要となるさまざまなことを経験させてもらいました」

ちなみにマグナス風車において、出力は主に“風を受ける部分の面積”と“円筒を回転させる速度”に依存するという。要は、出力を10倍にしたいなら、風車の大きさも10倍が必要ということだ。

「大型化する上で最大の課題となるのは、直径の太い円筒を製造する技術です。現在の10kW機では円筒1本あたりの直径は1m程度ですが、現状の製造技術では直径3mくらいまでが限界でしょう。ですが、逆に言うと、それくらいの大きさまでの風車なら造れるということ。100kW機までは、既存の技術でほぼ確実に造れることが分かってきました」

風車を大型化することで、マーケットが広がる。最初の1kW機が完成したときもうれしかったが、10kW機が無事に稼働したときの感動はさらに大きかったという。

3つの円筒の翼に整流板が付いている。円筒それぞれの製造には高度な技術を要する

量産化までの道筋が見えた!

設計技術だけではなく、風車の制御技術についても、これまでデータ解析を積み重ねてきた。

「理論的には円筒の回転数を上げれば上げるほど、発電量も大きくなるはずなのですが、実際にはそうなりません。ある回転数になると発電量が頭打ちになり、発電量よりも円筒を回転させる消費電力の方が多くかかるようになってしまいます。また、遠心力が大きくなることで、ベアリングなど機械の寿命が短くなってしまうことも露呈しました。最大遠心力までの間で、どう調整するか? そのあたりはまさにノウハウですね」

机上の計算だけでは求められない、風洞試験や実証試験など、数多くの試験を繰り返してきたからこそ得られた知見だろう。

こうして、10kW機を無事に完成できたことは、チャレナジーにとって大きな転機となった。

海外メディアにも数多く取り上げられ、世界中の国々から問い合わせが寄せられるようになったのだ。



<2020年4月23日(木)配信の【後編】に続く>
フィリピンでの事業展開など、量産化を目前に控えたチャレナジーの新たな取り組みを紹介!

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