空想未来研究所2.0

壁外調査に朗報! 運動能力とエネルギーから見る巨人に捕まらない方法

「巨人」のエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「巨人」。主人公や敵として巨大な生命体が数多く登場する空想世界で、いま最も注目されているのが『進撃の巨人』(2009年~)の巨人たちだろう。人類を脅かす巨大な生き物に秘められたエネルギーについて考えてみました。

人間の想像力に拍手を贈った衝撃的マンガ

2009年、衝撃のマンガが始まった。『進撃の巨人』である。

「物語上の現在」から107年前、身長3~15mの「巨人」が出現し、人間を捕食し始めた。人類は高さ50mの壁を3重に築き、その中で100年余りを過ごしてきた。

だが、劇中暦845年のある日、最外郭のウォール・マリアから張り出したシガンシナ区の壁の上に、想像もしなかった巨大な巨人が顔を出す。身長60m! 後に「超大型巨人」と呼ばれるその巨人は、門を蹴破り、そこから3~15mの巨人たちがなだれ込み、人間を食い散らし始める。主人公のエレン・イェーガーも、母親を目の前でパキパキッと食われた!

さらに「鎧(よろい)の巨人」の体当たりによってウォール・マリアの門も破られ、人類は一つ内側のウォール・ローゼ内にまで後退を余儀なくされる。こうして100年に及んだ仮初めの平和は崩壊した……。

この恐怖に満ち満ちたマンガは、熱狂的に支持された。アニメ、小説、ゲーム、実写映画化されたのはご存じの通り、巨人の顔が描かれた幼稚園児向けの弁当箱まで爆発的に売れたのだから、もうビックリ! キミたち、その弁当箱で食べておいしいの? コワくないの!?

さらに驚いたのは、中盤で予想もしなかった大どんでん返しがあったこと。ベッドに寝転んで読んでいた筆者は思わず立ち上がり、作者・諫山創先生の鮮やかな手際に拍手したものである。人間の想像力は、本当に素晴らしい!と。

ここでは、未読の読者のために、その大どんでん返し以降には、一切触れないことにしよう。物語が始まった時点における世界観の中で、巨人とはどのような存在だったのか。もちろん、注目すべきは「エネルギー」である。

人間なんてハムスター!巨人の体重は人間の729倍

巨人は、明らかに知性があり意図を持って行動するものと、全く知性が見られずひたすら人間を食うものに大別される。ここでは、圧倒的多数かつ、本能的な恐怖をかき立てられる後者について考えたい。

知性のない巨人たちについては、主人公・エレンが入団した訓練兵団の座学で講義されていた。付番して要約すると、次の通りだ。

①体の構造は他の生物と根本的に異なり、生殖器も存在しない。
②その体は極端に高温である。
③唯一の行動原理は人を食らうことで、他の生物には興味を示さない。
④摂食も必要ではなく、食うために殺すのではなく、殺すために食う。
⑤驚異的な再生能力を持ち、大砲で頭を吹き飛ばしても1~2分で再生する。
⑥唯一の弱点はうなじであり、その肉をそぎ落とすと絶命する。

この恐ろしい巨人に対して、人類は果敢に立ち向かった。駐屯兵団は壁に近づく巨人を砲撃し、調査兵団は幾度となく壁外調査を行ってきたのである。

しかし、駐屯兵団の砲撃も巨人の動きを一時的に止めるに過ぎず、調査兵団は壁の外を調査するたびに多くの犠牲を出してきた。

劇中歴846年の「領土奪還作戦」では、人類の人口の2割(約25万人)を投入して総攻撃を仕掛けたが、そのほとんどが巨人の胃袋に直行した。巨人を1体倒すまでに平均で30人が死んだという。

だが、体が大きいというだけで、そこまでの脅威となるものなのか。一例として「15m級巨人」について、その体格と運動能力を考えてみよう。

まずは、15mという身長である。陸上動物で最も背が高いのはキリンで、頭頂高は4~5m(※東武動物公園HPより)だから、その3倍。キリンが股間を潜り抜けていく!

これほどの巨体となると、体重はどうなるのだろう。「巨人の体は意外に軽い」という描写もあるが、ここでは、巨体の脅威の本質に迫るために、体の密度が人間と同じと考えよう。

巨人たちの多くはでっぷりした体格をしている。そこで、身長170cm、体重80kgというやや太めの男性を想定して、この人物が身長15mに相似拡大した場合を考えよう。15mは1.7mの8.82倍だが、ここでは計算を複雑化しないために、大きく四捨五入して9倍とさせてください。

相似拡大する場合、身長が9倍なら、体の横幅も前後の厚みも9倍になるから、体の体積は9×9×9=729倍になる。体の密度が人間と同じなら、体重も729倍で5万8320kg。58tである!

陸上動物の中で最も体重が重いのはアフリカゾウで4~7t(※東武動物公園HPより)。巨人はアフリカゾウ最大個体の8倍を超える!

絶滅した動物を見ても、ステップマンモスが20t、セイスモサウルスが40tと言われるから、陸上動物史上最重量! ただし、60m級巨人を除く。

逆に15m級巨人から見れば、人間など、人間から見た体長19cm、体重110gのハムスターも同然。全く勝ち目はありません!

巨人、あらゆる力が人間の729倍

だが、大きな動物ほどゆったりと動く。巨人たちも意外に動作がノロいのではないだろうか。

筋肉が出せる力は、筋肉の断面積に比例する。前述した巨人情報①に「巨人の体の構造は他の生物と根本的に異なる」とあるが、ここでも巨体の脅威の本質に迫るために、筋肉の構造は人間と同じと考えよう。

身長が9倍なら、筋肉の断面積は9×9=81倍になる。この筋力で、729倍の体重を動かすのだから…おお、動作は鈍くて当然! 筋力が同じで、体重が9倍になったのと同じだから、普通なら立つこともできないだろう。

だが、マンガの中で、巨人たちは平然と歩いているし、建物によじ登ったりもしている。また「奇行種」と呼ばれる一団の中には、全力で走る者もいる。明らかに「筋力は筋断面積に比例」の法則が成り立っていない! やはり巨人情報①は、正しかったということだ。

体の大きさに見合った行動、例えば「身長の3分の1の高さまで跳び上がる」「体重の半分の重さのものを持ち上げる」などをするには、筋力は「筋断面積」ではなく「体重」に比例する必要がある。これはオソロシイ。あらゆる力が、人間の729倍になっているはずだ!

成人男性の握力は30~34歳がピークで、平均47.14kg(※スポーツ庁2018年調査発表)。15m級巨人の握力は、その729倍で34t! マンガの描写にもよくあるが、確実に握りつぶされる。

一般に「人間が奥歯でかむ力は体重と同じ」と言われる。15m級巨人のかむ力は58t! マンガの描写でも食われた人は骨がパキパキ折れていたが、そうなって当然だ。

走るよりも待ち構える!巨人の捕食から逃げる方法

スピードも、かなりのものになるだろう。

前述したように、筋力が体重に比例する場合、体の大きさに見合った運動ができることになる。例えば垂直跳びなら、15m級巨人は人間の9倍の高さまで跳べるということだ。

跳び上がれる高さは、離陸速度の2乗に比例するから、これには3倍の離陸速度が必要だ。巨人の筋肉の付き方は人間に近いので、走る速さや手を動かす速さなど、あらゆるスピードが3倍になるだろう。

これには背筋も凍る。一般的な成人男性が100mを15秒で走れるとしたら、15m級巨人は100mを5秒! ウサイン・ボルト(9秒58)でさえ、捕まってパキパキ食われてしまう!

速度は秒速20m=時速72km。ぐわわっ、馬の全速力と同じ! 壁の外で調査兵団は馬で巨人から逃げていたが、本当にギリギリのデッドヒートだったということだ。

人間を捕まえる動作でも、腕のスピードは人間のおそらく3倍。しかし、腕の長さは9倍だから、時間=距離÷速さ=9÷3=3で、3倍の時間がかかることになる。

筆者が「立った状態」から「床に置いたペットボトルを拾う」までの時間を計ると0.7秒だった。すると15m級巨人が地面にいる人間を捕まえるまで2.1秒。おお、これだけの時間があれば、十分に逃げられるのではないか。

15m級巨人に狙われたら、走って逃げるのではなく、地面に立って待ち構えた方がいい。巨人の腕が伸びてきたら、ヒョイと逃げる。また伸びてきたら、ヒョヒョイと逃げる。

やはり巨体は動作が鈍い。わはははは!などと勝ち誇っていると、後ろから別の巨人に捕まえられて、パキパキ!なんてことに……くれぐれも注意しましょう。

約3年で巨人は人間サイズになる!?

さて、本題。「巨人が消費するエネルギー」である。

巨人情報④にあるように、巨人は食事を必要としない。マンガでも、食べた人間を全く消化せずに吐き出していた。これは、エネルギーを摂取しないことを意味する。

しかし、体を動かす以上、「摂取」はしなくても「消費」はするはずだ。58tの体重で、人間を追い回すとき、どれほどのエネルギーを消費するのだろう。

『ゾウの時間 ネズミの時間 サイズの生物学』(本川達雄/中公新書)によれば、動物の消費エネルギーは体重に比例するのではなく、体重の4分の3乗に比例するという。

一見不思議だが、巨人を例にするとよく分かる。生物は、呼吸によって取り出したエネルギーで筋肉を動かしたり、生命活動を行ったりした後、残りのエネルギーを熱として体外へ捨てている。その合計が「消費したエネルギー」だ。

このとき、捨てるエネルギーは体の表面積に比例する。身長が9倍なら81倍だ。ここで、体重に比例する729倍のエネルギーを消費すると、体に熱がこもって体温が上がりすぎてしまう。これは、生物にとって危険な状況である。

だからといって、消費するエネルギーが81倍では、筋肉を動かしたり、生命活動を行ったりするのに不十分。これらがうまく折り合うのが、体重の4分の3乗に比例するエネルギーを消費したときなのだ。体重が729倍のとき、消費エネルギーは140倍となる。

だが、この法則が、巨人にも当てはまるとは考えらない。そう、巨人情報②、巨人は体温が極端に高い! もう、体温の維持など全く度外視したシステムに違いない。

その上、巨人は「筋力が体重に比例する」という異常な生物である。そのような生物が消費するエネルギーは「体重×身長の平方根」に比例すると考えられる。身長170cm、体重80kg、中程度に運動する30歳男性は、1日に2765kcalを消費する。15m級巨人は、その729×3=2187倍で、605万kcal!

身長15m、体重58tの体で、これだけのエネルギーを消費すると、体温は215℃に! 焼けたフライパンと同じだから、確かに極端な高温だ。

しかし、エネルギーの摂取をせずに、エネルギーの消費だけするとは、どういうことだろう。

ひょっとして、人間が体脂肪を消費するように、体内の物質からエネルギーを取り出すのか。その場合、巨人の体を作る物質が、脂肪と同じぐらいたくさんのエネルギーを蓄えると仮定しよう。計算を簡素化するために骨も同様に消費されると考えて、最初に求めた正確な体重=58t320kgから始めると、こうなる。

1日目、体重は672kg減って、57t648kgになり、身長は14m94cmに。

2日目、体重が減った分、消費カロリーも少なくなって、体重減は663kgに留まる。この結果、体重56t985kg、身長14m88cmに。

これを繰り返していくと、巨人はドンドン小さくなる。

2年9カ月で人間と同じ! 4年1カ月後に至っては、ち、小さい!

しかし、巨人たちは人間を食べずに100年も壁の外をうろついていた。脂肪より多くのエネルギーを蓄える物質で体ができていたのか、そもそも科学を根底から超越しているのか……。

人間よりはるかに大きく、人間を捕食する存在。それが出現しただけで世界は絶望的に激変する。この壮大な思考実験の果てに、思いもかけなかった物語が紡がれる。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります。

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