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空想未来研究所2.0

数値から見るルパン、次元、五ェ門の超絶パフォーマンス/ルパン三世

『ルパン三世』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「パフォーマンス」。今年アニメ化50周年を迎えた『ルパン三世』(1971年~)を振り返り、ルパン一味が映画やアニメで見せた超人的なパフォーマンスをエネルギーの観点で考察してみました。

アニメ化50周年の『ルパン三世』を祝いたい

『ルパン三世』のアニメ化50周年。おめでとうございます、パチパチパチ!

こんなに喜んでいるのは、もちろん大好きな作品だからだ。

奇想天外な方法で、どんなものでもちゃめっ気たっぷりに盗むルパン三世。ルパンの古くからの相棒で、射撃の腕は超一流の次元大介。剣の道をひた走り、愛刀・斬鉄剣でこんにゃく以外は何でも斬る石川五ェ門。

そんな彼らが、世界を舞台に予想を次々と裏切る活躍を見せるのだから、本当に面白い。峰不二子にルパンがいつもだまされてしまうのも、飽くなき執念で追い続ける銭形警部をルパンがサラリと出し抜くのも楽しい。魅力的なゲストキャラクターがさまざま登場するのも、50年(原作マンガからだと54年)に渡って愛されてきた理由の一つだろう。

そして、科学的に見逃せないのが、ルパンたちが身体的にも驚異のパフォーマンスを見せること。彼らがどれほどすごいことをしているのか、エネルギーの観点から見てみよう。

ルパン三世の超人ジャンプ

ルパンがその類いまれな身体能力を見せたのは、名作との誉れも高い『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)である。そう、ファンの記憶に燦然(さんぜん)と残る、あの大ジャンプだ。

ルパンとしては、初めからそんなことをするつもりはなかった。クラリス公女が幽閉された塔まで、別の塔の屋根からワイヤーの付いた超小型ロケットを飛ばそうとしていたのだ。

ところが、誤ってロケットを落としてしまう。屋根の途中に引っ掛かったロケットを取りに行こうとしたが、あまりに傾斜が急なので足が勝手に走りだして止まらなくなる! 「あららららら~」と叫びながら、そのまま屋根の端からジャンプ!

ポワ~~~ンと宙を跳んで、途中にあった建物の屋根を蹴り、再びジャンプ! またポワ~~~ンと跳んで、最高点でビターンと建物の壁に激突! 幸運にもこれがクラリスの幽閉されていた塔で、ルパンは根性でしがみつき、壁をよじ登っていくのだった……。

この2度にわたる大ジャンプは、どれほどすごい行為なのか?

ルパンが走った屋根は、上の方は60度ほどの急勾配だった。下へ行くほど傾斜はだんだん緩くなり、端は水平になっていて、ルパンはそこから斜め上30度の角度で飛び出した。1回目のジャンプの滞空時間は3.2秒。そして、離陸地点と同じくらいの高さの尖塔に着地し、2度目のジャンプに至っている。

まず1回目のジャンプを考察しよう。ポイントは3.2秒という滞空時間。前述の「離陸地点と着地地点が同じ高さ」という条件の下では、ルパンは1.6秒間上昇し、1.6秒間下降したことになる。

この間、ルパンは水平方向にも運動しているが、それはこの鉛直(上下)方向の運動には、全く影響しない。よって、水平運動のことはしばらく忘れて鉛直運動だけで考えてよい。

鉛直運動では、次の2つの式が重要になる。

鉛直方向の離陸速度=重力加速度×上昇時間
上昇高度=1/2×重力加速度×上昇時間2

「重力加速度」とは、その場所の重力の強さを表す数字で、地球上の場合は9.8[m/秒2]の値を持つ。

まず、鉛直方向の離陸速度を求めると、

9.8[m/秒2]×1.6[秒]=15.68[m/秒]

時速に直すには、これに3.6をかけて、時速56.5km。なんと鉛直方向だけで、車やバイクのような速度で跳んでいる!

すると、上昇高度もかなりのものになったはずだ。これも計算すると、

1/2×9.8[m/秒2]×1.6[秒]2=12.544[m]

ハビエル・ソトマヨルの走り高跳び世界記録2m45cmより10m9cmも高い! どーなってんの!?

水平方向には、最初に飛び出した速度のまま運動し続ける。前述したように、ルパンは斜め上30度の角度で跳び出した。この場合、底辺の右が30度、左が90度の直角三角形を考えると、高さが鉛直速度、底辺が水平速度、斜辺が実際に飛び出した速度に相当する。

その三辺は、長さの比が「1:√3:2」になるので、次の計算ができる。

【水平速度】
15.68[m/秒]×√3=27.16[m/秒]=時速97.8km!

【実際に跳び出した速度】
15.68[m/秒]×2=31.36[m/秒]=時速112.9km!

【跳んだ水平距離】
水平速度×滞空時間=27.16[m/秒]×3.2[秒]=86.9m!

ホントにどーなってるの!? と驚くが、2度目のジャンプは、もっとすごい。

このときの滞空時間は2.3秒で、1回目のジャンプより短いけれど、前述のように、ルパンは最高点で水平にビターンと壁にぶつかった。つまり、この場合は、この2.3秒が丸々「上昇時間」になる。

すると、鉛直速度は22.54[m/秒]=時速81.1km、上昇高度は25.92m! 

2度目も斜め上30度で跳んだとすると、水平速度は39.04[m/秒]=時速140.5km、進んだ距離は89.8m!

実際に跳び出した速度は、45.08[m/秒]=時速162.2km!! そして最後に壁にぶつかった速度は、水平速度と同じ時速140.5km!!!

それでもルパンは落下することなく、壁をよじ登ってクラリスに会いに行った。もはや追随する者のない超人的ジャンプ力&耐久力である。

次元大介の超常射撃

筆者の知る限り、次元が最も困難な射撃を成功させたのは、テレビシリーズの『ターゲットは555M』(1980年)である。

ルパン一味はダイヤモンドのオークションが行われるビルの窓を破ろうとするが、それは超硬質防弾ガラスで、同じ箇所を何発も撃たねば破れない。そこで、あらかじめ潜入したルパンが、窓ガラスに直径3cmほどの丸いマークを貼り、次元はそれをライフルで狙う。距離は555m。

次元は3ダースほどの弾丸を全て命中させ、超硬質防弾ガラスを貫通させた! これはすごい。

ライフル競技で距離が一番長いのは300mで、直径10cmの円に当たれば最高得点となる。それも相当な技術だと思うけれど、次元はその1.85倍も遠くにある、3.3分の1も小さな標的に、36発連続で命中させたのだ!

いったい、どれほどすごいことなのか。

遠距離射撃の難しさは、弾丸が放物線を描くことにある。次元が撃ったのが長距離射撃用の338レミントン・ウルトラ・マグナム弾だとすれば、その初速は秒速760m。これで555mかなたの標的を撃つと、空気抵抗や風の影響を無視しても到達するのに0.73秒かかる。その間に、弾丸は2m61cmも落下するから、次元は標的より2m61cm高いところを狙う必要がある。

実際には、距離に合わせて照準器を調節すれば、その補正をしてくれる。次元の照準器には「555m」という表示が見えていたから、補正はしていたものと思われる。それでも空気抵抗が働くし、気温、湿度、風向きなども影響する上、距離が遠いほど大きくなる。これらを全てクリアした次元は、さすがと言わねばならない。

そして、狙いの正確さは、ひとえに射手の技術に委ねられる。直径3cmのマークの中心を狙うとき、許される左右の誤差は1.5cm。次元は銃の先端を銃架に載せて撃った。この場合、狙いは肩に当てる銃床の位置で決まることになる。ここで許される銃床のブレは、次の式で求められる。

射撃距離:標的での誤差=銃身の長さ:銃床のブレ

銃身の全長を1mとすれば、許される銃床のブレは0.027mm。髪の直径の3分の1!

次元の射撃の技術は、もはや異次元である。

石川五ェ門の切断力

五ェ門は、安土桃山時代の大盗賊・石川五右衛門の13代目となる子孫。代々伝わる斬鉄剣で車、戦車、飛行機、ビルと、あらゆるものを一刀両断し、向かって来る弾丸さえも斬って捨てる。なぜか、この刀はこんにゃくだけは斬れないというから不思議。

五ェ門の第一のすごさは、斬鉄剣の名の通り、鉄をも斬ってしまうことだろう。テレビスペシャル『燃えよ斬鉄剣』(1994年)によれば、斬鉄剣は、五ェ門の祖先が生み出した特殊な合金でできているという。五ェ門も「斬鉄剣と拙者の腕をもってして斬れんものはない」と言い放っている。

だが、どれほど刀が丈夫で鋭く技術が高くても、大きなものを斬るにはとてつもない力が必要だ。その力は「材質の強度」と「断面積」で決まる。

テレビシリーズ『空飛ぶ斬鉄剣』(1978年)で、五ェ門は戦車を斬った。戦車の前後方向の断面積の平均は重量÷鉄の密度÷戦車の全幅で求められ、その戦車の各スペックが自衛隊の10式戦車と同じ(重量44t、全幅3.24m)なら、断面積は1.725m2。鋼鉄を切断するには、断面積1mm2あたり90kgの力が必要だ。

すると五ェ門が出した力は、15万5250t

そして五ェ門はガラスやコンクリートや岩石など、普通は斬れないものも斬る。本来、これらがなぜ斬れないかというと、刀をぶつけると、斬れる前に衝撃で割れてしまうからだ。それでもアニメの画面を見ると、五ェ門は間違いなく斬っている。これが可能になるのは、衝撃が伝わるスピードより斬鉄剣を速く振った場合だ。

衝撃が岩石を伝わる速度は、平均で秒速4000m=マッハ11.8。五ェ門の剣速はマッハ11.8以上!

さらに五ェ門は、遠くの離れたものも斬る。テレビシリーズの『バラとピストル』(1978年)では、なんと流れ星を斬ったことも!

流れ星とは、宇宙を漂うちりが地球大気との衝突によって熱と光を放つ現象で、およそ地上100kmの高度で発生する。五ェ門が45度の角度で見上げていたとすると、彼は141kmかなたの物体を斬ったことになる。それはいくら何でもやり過ぎだって!

世界記録をはるかに超えるジャンプを見せ、時速140.5kmで壁に激突しても意識を失わない男が、異次元の射撃の腕を持つ男と、人知を超えた剣技を持つ男を仲間に、美女にだまされつつ世界を駆け巡って、公女の心をも盗む。この痛快な物語は、われわれを半世紀も楽しませてくれた。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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