1. TOP
  2. 空想未来研究所2.0
  3. 200km近く伸びる徐倫の糸よりもエルメェスのスタンドがすごい/ジョジョの奇妙な冒険
空想未来研究所2.0

200km近く伸びる徐倫の糸よりもエルメェスのスタンドがすごい/ジョジョの奇妙な冒険

『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「スタンド」。この冬にアニメがスタートした『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』から、主要キャラクターたちが放つスタンドの能力を、エネルギーの観点で考察してみました。

奇妙な物語でもエネルギーは重要

奇想天外な能力バトルと奇妙な事件が次々と起こるマンガ『ジョジョの奇妙な冒険』(1987年~)。中でも第6部「ストーンオーシャン」は、本当に奇妙な物語だ。

主人公は、空条承太郎の娘・空条徐倫(ジョリーン)。現在のところ、シリーズ唯一の女性ジョジョである。そのスタンド能力は、自分の肉体を「糸」に変えて操ること。ひと塊にすれば、近接パワー型のスタンド“ストーン・フリー”になる。つまり、自分の肉体をスタンドに変えるわけで、これは超斬新!

ラスボスはエンリコ・プッチ神父。特筆すべきは、スタンドを代替わりさせること。初代“ホワイトスネイク”は他人の記憶やスタンド能力をディスクにして抜き取り、2代“C-MOON(シー・ムーン)”は重力を操り、3代“メイド・イン・ヘブン”は、時の流れを加速させる!

これだけでも驚くが、その能力を応用した攻撃が、実に奇妙なのだ。

例えばC-MOONは、物体を裏返しにすることもできる。その能力で徐倫の心臓を裏返しにした……かと思われたが、徐倫は心臓の周囲を糸に変え、メビウスの輪(細長い長方形の端を半回転させて貼り合わせた輪)を作り、裏も表もなくす返し技を見せた!

この奇妙な物語の中でも、エネルギーは重要な役割を果たしている。いくつかの例について、科学的に考えてみよう。

徐倫が糸を本気で伸ばしたら192.5km

まずは、徐倫の「体を糸に変える」。

徐倫が糸を出すと、体のあちこちに空洞ができる。体の一部を糸に変えるのだからそうなって当然と思えるが、このシステムでは伸ばせる長さに限界があるだろう。一体どこまで伸ばせるのか。

そのヒントを探してマンガを読み進めると、単行本全17巻の終わりも近い第16巻で、明確に説明されていた。

・糸を出せる距離は糸が体重(約54kg)を支えられる太さで24m程度
・肉体の70%程度、心臓付近まで削られると絶命する危険がある

なんと、体重の70%までなら糸に変えてもギリギリ大丈夫。具体的には54kg×0.7=37.8kgだ。密度が人体の平均に等しい1kg/Lだとすれば、37.8L。これで長さが24mなら断面積は15.75㎠となり、断面が円なら直径4.5cmである。かなり太い気がするが、体重を支えるのに、ここまでの太さが必要なのだろうか。

糸の端を何かに絡めてぶら下がる場合を考えると、糸の最上部には、その下の糸の重さも含んだ荷重が掛かる。つまり54kgで、それを断面積15.75㎠で支えるのだから、1㎠あたりの荷重は3.43kg。人間の筋肉が出せる力は、1㎠あたり3㎏と言われるから、ほぼ同じだ。
深々と納得!

だが、「長さ24m、直径4.5cm」というのは、体重を支えるためのサイズ。その必要がないときは、もっと細く長くできるのではないだろうか。実際に、マンガでは直径1cmぐらいに見える場面もある。

直径が半分になれば、断面積は4分の1になるから、伸ばせる長さは4倍になる。これは、ちょっと細くしただけで、モノスゴク長くなるということだ。直径3cmなら53m、直径2cmなら120m、直径1cmなら481m

マンガには、こんな説明もある。「衣類にすれば人の着ているものに化けられる」。スーツなどの生地は直径0.5mmぐらいの糸で織られているが、それと同じなら全長192.5km。東京から福島、新潟、長野、静岡まで!

※Φ=半径

この糸が塊になると、ストーン・フリーになるわけだ。すると、このスタンドの強さには驚くほかはない。その体重は最大でも37.8kgしかないはずで、それで「オラオラオラオラ」とパンチのラッシュを浴びせる近接パワータイプなのだから。

出現するのもたいてい上半身だけなので、足の踏ん張りも利かないはず。具体的な計算は困難だが、パンチのスピードが途轍(とてつ)もないのだろう。

2京7000兆Jを生み出すエルメェスのスタンド

エネルギーの観点から驚くのは、徐倫の親友のエルメェス・コステロだ。スタンドは“キッス”。エルメェスが自分の手の甲から出てくるシールを貼ると、キッスの能力でその物体が2つになる! シールを剥がすと、破壊は起きるが1つに戻る! エルメェスは、これを巧みに使って相手を攻撃していた。

1905年、アインシュタインは「質量とエネルギーは同等である」ことを示した。つまり、エネルギーから物質は生まれ得る。キッスがこれと同じ原理で物体を増減させているとしたら大変だ。

アインシュタインが導いた式は、次の通り。

エネルギー=質量×光速2

光速が秒速3億mという途轍もない値を持つため、「エネルギー」→「物質」では大量のエネルギーが必要となり、「物質」→「エネルギー」では大量のエネルギーが放たれる。

エルメェスが初めてキッスの能力を知ったのは、右の靴が2つに増えている(左と合わせたら3つ)ことに気付いたときだった。靴の片方の質量が300gだとすると、これを作るのに必要なエネルギーは…

0.3[kg]×3億[m/秒]2=2京7000兆J

わが国最大級の火力発電所が2カ月かけて生み出すエネルギーである。これをキッスがどこからか調達してきたのなら、エネルギー問題解決に協力してくれ~!

靴が1つに戻ったときに放たれるエネルギーも同じく2京7000兆J。破壊が起こるということなので、爆薬に換算すると680万t分。靴など、ひとたまりもありません。

C-MOONの水平落下速度は時速873km

ラスボスであるプッチ神父のスタンドはどうだろう。登場する3体のうち、エネルギーに関係のある2体を見てみよう。

C-MOONは、プッチ神父を中心にして外向きの重力を作り出す。つまり、神父の頭上には上向きの重力が、周囲には水平方向の重力が生まれる。マンガには「落下のスピードは重力と同じ」とあった。おそらく地球の重力と同じ強さの重力を生むのだろう。

ただし、地球の重力をそのままにして、新たな重力を発生させると、神父の頭上は「上向きのC-MOONの重力」と「下向きの地球の重力」が相殺して無重力になり、周囲の物体は斜め下45度の角度で落ちることになる。

徐倫たちの周囲の物体は「水平に落ちて」いったから、C-MOONは地球の重力を消去した上で新たな重力を作るのだろう。そんなことをしたら、どうなるのか?

マンガの説明によれば、C-MOONの重力が及ぶ範囲は半径3kmだという。話の複雑化を避けるために空気抵抗を無視すれば、地球の重力と同じ強さの重力で水平に3km落下した物体は、秒速243m=時速873kmに達する。

この速度でC-MOONの重力エリアを飛び出した物体は、地球の重力に引かれて落下し始めるが、真下に落ちるわけではない。慣性の法則で、水平方向には同じ速度で飛び続けようとするため放物線を描く。

物体が地上1mの高さを飛んできたとすれば、落下するまで0.45秒。その間に110m飛んで落下。その後は地面との摩擦で速度を落とし、滑りに滑って6kmかなたで停止する。人間だったら生きている保証なんてどこにもない。これは、エリア外の人々にとっても危険だ。いろいろな物が時速873kmで飛び出してくるのだから!

気象庁は、観測衛星などでプッチ神父の居場所を特定し、そこから半径3km+0.11km+6km=9.11kmの領域に「緊急プッチ情報」を発出していただきたい。

518万4000倍で時間を加速させたプッチ神父

プッチ神父のメイド・イン・ヘブンの「時間加速」もすごかった。その能力は、生物以外の時間の進み方を速くすること。プッチ神父だけは、その時間の中を普通に動ける。つまり、徐倫たちを途轍もない速度で攻撃してくる。しかも、時間の進み方はどんどん速くなる!

初めは、自動ドアが高速で開閉したり、買ったばかりのアイスクリームがみるみる溶けたりするだけだったが、そのうち太陽がたちまち沈み、時計の針がぐるぐる回り始める。

このあたりで、徐倫の父・空条承太郎が腕時計を見る。「1時間が大体2分くらいといった早さで分針が回転している」。なんと時間の経過スピードが30倍に!

日本では漫画家が苦闘していた。「ペンが原稿につく前に先のインクがかわくぅぅ」。これは実験してみなければ。

Gペンにインクを付けて手元まで持ってくるのに、ほぼ1秒かかる。続いて、1分ごとに紙に線を引いていくと、17分でインクはペンに残っているのにかすれ始めた。17分とは1020秒だから、このとき時間はおよそ1000倍に加速していた!

この大変な状況下、原稿を間に合わせた漫画家がいた。それは、第4部の人気キャラクター・岸部露伴だ。第6部ではここで名前が出てきただけだった。わははは、あの人らしい。

やがて太陽は、途轍もない速さで回り始め、人々の悲鳴が飛び交う。「太陽の形が円じゃねえっ!」「長く帯状に見えるっ」「朝だ!」「また夜だッ!」。最後の2つのセリフの間隔が5秒だとすると、12時間=4万3200秒が5秒で経過したことになり、時間の経過速度は8640倍に!

そのうち太陽は全く見えなくなり、空には光の筋が6本見えるだけ。「あの輝きの『線』が太陽なのかぁ―――っ」。だとしたら、その線は「太陽の残像」ということになる。人間の目に残像が残る時間は0.1秒だから、6日間が0.1秒で過ぎた!?

時間のスピードは518万4000倍! この状況が人々にとって1時間続いたとすれば、生物以外にとっては591年4カ月が経過している!

ここから物語はクライマックスへ向かうのだが、それにしてもすごいのは岸部露伴である。時間が1000倍の速度で経過していく中で原稿を仕上げたのだから。露伴は、初めて登場した第4部で、19ページを4日で描けると言った。すると1日に平均5ページ。先程の「1000倍の夜」は、1日に5000ページの勢いで描いたことになる。ジョジョの単行本は1冊だいたい200ページだから、1日で単行本25巻分!

主人公は自分の体をスタンド化し、その親友は莫大なエネルギーを出入りさせ、ラスボスは重力も時間も自在に操る。そうした常軌を超えた世界においても、人々は家族や仲間を思い、まさに身を削って戦う。どんな環境にあっても、人間は人間ということか。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. 空想未来研究所2.0
  3. 200km近く伸びる徐倫の糸よりもエルメェスのスタンドがすごい/ジョジョの奇妙な冒険