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阿笠科学のすご過ぎる探偵道具のエネルギー/名探偵コナン

『名探偵コナン』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「探偵道具」。マンガ、アニメ、映画と展開され、いまだ人気の衰えを知らない『名探偵コナン』(マンガ1994年~)。本筋である事件や推理とは別に、コナンが使う探偵道具をエネルギーの観点で考察してみました。

気付けばコミックス100巻超の名探偵

週刊少年サンデーで『名探偵コナン』の連載が始まったのは1994年。サッカーW杯・米国大会でブラジルが優勝し、リレハンメル冬季五輪のノルディック複合団体で、阿部雅司、河野孝典、荻原健司が金メダルを獲得した年。この大会から、夏冬の五輪大会が2年おきに開催されるようになった。

EMIRA読者の多くが子どもだった頃から、工藤新一は江戸川コナンとして幾多の事件を解決してきた。そして2021年10月、コミックスはついに100巻に到達! あまりにも偉大な高校生探偵だ。

しかもコナンは、小学1年生の体。その体格が全国平均に近いとすれば、身長120cm、体重20kg。この小さな体で事件を解決し続けられたのは、明晰な頭脳はもちろん、阿笠博士が作ってくれる探偵アイテムのおかげであろう。

「犯人追跡メガネ」と「ターボエンジン付きスケートボード」で犯人を追跡し、「キック力増強シューズ」で失神させる。犯人が分かると、現場にいる大人(たいてい毛利小五郎探偵)を「時計型麻酔銃」で眠らせ、「蝶ネクタイ型変声機」で自分の声をその人の声に変えて推理を述べる。

阿笠博士がいなかったら、とてもこんな活躍はできなかっただろう。その偉大な発明品を、主にエネルギーの観点から見てみよう。

少量で迅速な効き目「時計型麻酔銃」

阿笠博士の下の名前をご存じだろうか。

1998年に発売された『名探偵コナン大事典』(小学館)で筆者も初めて知って驚いたが、「博士(ひろし)」。つまりフルネームで書くと、阿笠博士博士!

筆者の「理科雄(りかお)」も本名で、初対面の方にはよく「科学をやるために生まれてきたような名前ですね」と言われるが、この人こそ博士になるために生まれてきた人である。

その発明品を見ると、機械工学、電子工学、材料工学、薬学と、守備範囲が極めて広い。驚嘆に値する大天才である。

まずは、数あるアイテムの中から「時計型麻酔銃」を見てみよう。エネルギーとは縁が薄いものの、博士の偉大さがヒシヒシと伝わってくる発明品だからだ。

初めて使ったのはコミックス3巻。相手はもちろん毛利探偵。

腕時計のような装置から麻酔薬の塗られた針が飛び出し、毛利探偵の首筋に刺さる。直後、毛利探偵は「ふにゃ…」と言いながら倒れ、「ぐ~っ」と眠りに就く。あまりの即効性!

そもそも麻酔というものは、通常どのくらいの時間で効き始めるものなのか。

調べると、医療用の麻酔には患者の意識をなくして眠らせる「全身麻酔」と、手術をする部位だけの感覚をなくす「局所麻酔」がある。毛利探偵は眠ってしまうのだから、時計型麻酔銃は全身麻酔を施すに違いない。

全身麻酔に使われる麻酔薬の一つに「チオペンタール」があり、使用法は次の通り。

「患者とコンタクトを保ちながら最初に2.5%溶液2~3mL(2.5%溶液で50~75mg)を10~15秒位の速度で注入後30秒間麻酔の程度、患者の全身状態を観察する。さらに必要ならば2~3mLを同速度で注入し(後略)」

読み解くに、「2~3mLを注入すれば、15~20秒で効果が表れることもある」ということだろう。

ここから考えると、時計型麻酔銃の麻酔薬はあまりに強力だ。針に塗られたわずかな量で、1秒もたたないうちに眠らせてしまうのだから!

針に塗れる麻酔薬とは、せいぜい1滴分くらいだろう。そこで上皿てんびんにスポイトで水を垂らしていくと、23滴で1gになった。つまり液体1滴の体積は1/23mL。前述のチオペンタールの最小使用量2mLと比べると46分の1だ。

また、毛利探偵が1秒で眠ったとすると、一般に効き目が表れるまでの最短時間15秒と比べても15分の1。単純に比較すれば、時計型麻酔銃の麻酔薬はチオペンタール2.5%溶液の46×15=690倍も強力ということになる!

そんなすごい麻酔薬を発明し、腕時計という小さな装置に組み込んだ阿笠博士に驚くけれど、何度も何度も打たれているのに元気な毛利探偵にもオドロキを隠せない。

パワーを増強!?「ターボエンジン付きスケートボード」

エネルギーの観点から驚くのは、「ターボエンジン付きスケートボード」(以下、コナンのスケボー)である。初登場はコミックス9巻で、見かけは普通のスケートボード。これでコナンは、少年探偵団の仲間である歩美ちゃんをトランクに入れたまま走り去った車を追った。しかも、光彦と元太を乗せて!

街中で車を追えるということは、時速60kmは出せるのだろう。しかも、キュオオオオオンとかなりの勢いで加速しているから、パワーもものすごいはずだ。

だが、回想の中で阿笠博士は気になることを言っている。

「動力源はソーラーパワーじゃから、日の出ているうちしか使えんぞ」

なんと、ソーラーパワー。おそらく、スケートボードで受けた太陽光のエネルギーで走るのだろう。しかも、日が暮れると使えないということは、充電はできないと見られる(※アニメ版ではバッテリー内蔵型に進化を遂げた)。それで、子ども3人を乗せて車のような速度で走れるとはオドロキだ。

パワーとは1秒当たりのエネルギーのことで、単位は[W](ワット)。晴れた日に地上に降り注ぐ太陽光のパワーは1㎡当たり850[W]だ。

コナンのスケボーが、標準的なスケボーと同じサイズ(前後79cm、幅19cm)なら、受光面の面積は0.106㎡。すると、コナンのスケボーが受けられる太陽光のパワーは90[W]、充電できないのだから、スケボーの最大パワーも90[W]となる。

コナンと光彦の体重が20kg、大柄な元太が40kg、コナンのスケボーの重量が通常(1.2kg)より少し重い2kgだとすれは、総重量は82kg。これを90Wで時速60kmまで加速するには、空気抵抗、路面の抵抗、機械の内部摩擦を無視しても、2分7秒かかる。

一般的な乗用車は街中なら19秒で時速60kmに達する。詳細は省くが、同時にスタートした場合、コナンたちが時速60kmに達する頃には、車は900m前方を走っていることに……歩美ちゃんが危ない!

だが、コナンのスケボーは3人を乗せてキュオオオオオンと加速し、最終的には車に追い付いた。

仮に、時速60kmに10秒で達するとしたら、そのパワーは1140[W]。阿笠博士の科学力をもってすれば、90[W]を1140[W]に、すなわちパワーを12倍に増強することも可能なのかもしれない。エネルギー保存の法則を超越した、これまた神域の大天才だ。

ゴールネットを破り大木を折る「キック力増強シューズ」

増強といえば「キック力増強シューズ」も、阿笠科学を代表するアイテムだ。

ダイヤルを回すと、キック力が強くなる。初登場はコミックス2巻。回想の中の阿笠博士は、その原理をこう説明している。

「電気と磁力で足のツボを刺激し、筋力を極限まで高める道具じゃ!!」

体育のサッカーで女子たちにいいところを見せようと思ったコナンは、シューズのダイヤルを回してシュートを打つ。すると、ボールはゴールネットを突き破り、大きな木をへし折った!

これ、キック力を何倍に増強するの!? 段階を踏んで計算していこう。

「サッカーボールでゴールネットを突き破る」という行為については、実験したことがある。そう、『キャプテン翼』の大空翼くんも同じことをやっていて、それをテレビ静岡の特別番組で扱ったのだ。

地元のネットメーカーに協力していただいて、サッカーのゴールネットを水平に張り、重さ92kgの錘(おもり)を落下させ、どんな高さから落とせばネットが破れるかを測定した。結果は2.2mだった。同社の技師さんによれば、ネットが破れるかどうかは「運動量=質量×速度」で決まるという。

錘の質量92kgは、少年用サッカーボール330gの280倍である。そして、物体が高さ2.2mから落下する速度は時速23.6km。

すると、コナン(翼くん)がボールを蹴った速度は、時速23.6kmの280倍で、時速6600km=マッハ5.4! この速度で飛ぶ少年用サッカーボールのエネルギーは55万3000J(ジュール)だ。

大木を折るエネルギーについては、独自に実験した。

一辺3mmの角材を2冊の本の間に橋のように渡し、上から68gの錘を落とす。徐々に高度を上げていくと、高さ21cmで折れた。

木材が折れるかどうかは、断面のサイズと形状、そしてエネルギーで決まる。ここから、直径70cmの木を折るためのエネルギーを計算すると、129万4000Jで、このエネルギーを持つ少年用サッカーボールとは、時速1万km=マッハ8.2!

すると、コナンが蹴った直後、ボールは55万3000+129万4000=184万7000Jのエネルギーを持っていたことになる。スピードは時速1万2000km=マッハ9.8! このように、エネルギーは足し算できるが、スピードは足し算できない。

などと落ち着いている場合ではない。小学1年生が、ボールをマッハ9.8で蹴る。いくら何でも、キック力を増強し過ぎではないだろうか!?

小1男子がサッカーボールを蹴って10m飛ばせるとしたら、そのときのボールの速度は時速36kmである。コナンの時速1万2000kmは、その333倍。エネルギーは速度の2乗に比例して11万1000倍だ。

フォームが同じとき、キック力はエネルギーに比例するから、キック力も11万1000倍。明らかに増強し過ぎです、阿笠博士!

エネルギーに注目すると、阿笠科学にいよいよ驚く。

博士の説明によれば、キック力増強シューズは、電気と磁気で足のツボを刺激するだけであり、別の所からエネルギーを供給するわけではないらしい。すると、184万7000Jはコナンの体から絞り出されたことになる。

184万7000Jとは440kcal。体重20kgのコナンが、22km走らないと消費できないエネルギーだ。それを一瞬で消費したら、疲労困憊どころか命が危ない!

ところがコナンは「うそー…」と自分のキックの威力に驚いただけ。阿笠博士は、そのエネルギーをどこから持ってきたのか……。考えれば考えるほど謎が深まるエネルギーの魔術師、阿笠博士博士である。

小学1年生の体で次々に難事件を解決する少年探偵に、その活動を超絶科学で支援する科学者。どちらも常識を超えているが、それでも長く支持されているのだから、読者はマンガやアニメに常識など求めていないということだろう。常識を突破し続けて28年。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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